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とつげき隣のヒトハコさん10:偶然の出会いがかけがえのないものに「ミシンと雨傘」

今回は2023年3月に開催された「第2回 長岡京セブラボ古本市(京都府長岡京市)」で知り合った、「ミシンと雨傘」さんにお話を伺いました。
お酒好きな同志としても意気投合して、行きつけのお店で飲みながらの取材となり……楽しい時間を過ごせた反面、ちゃんと企画の趣旨にあったお話を聞けたのでしょうか? 果たして、飲みながらでもインタビューは成立するのか? 
読酌文庫の中の人がインタビュアーとして、ライターとして、技量を問われる回にもなりました。

屋号の由来はシュルレアリズムから

――まずはみなさんに、屋号の由来をお伺いしてるんですけど、「ミシンと雨傘」はどういう経緯で付けられたお名前ですか?

ミシンと雨傘さん:ロートレアモンの詩に「解剖台の上のミシンと雨傘の偶然の出会い」という一説があるんです。意外なもの同士が出会うというシュールレアリズムの手法で、その話を聞いたときに、めっちゃ素敵やなって思って。

料理で言うとマリアージュ的な感じですよね。これとこれを合わせたら、こんなに良いことになるなんて意外な発見、みたいな。

本と出会う時もそうじゃないですか。興味ないと思ってたのに、たまたま手に取って読んでみたら「これ、めっちゃいい!」ってなる時もあるから、すごく素敵なフレーズだと感じて屋号にお借りしました。

一箱古本市に出だしたの自体、2022年からなので、まだ4回しか出店してないんですけど、結構名前のことは聞かれます。もちろん毎回説明してるんですけど、1度だけ「これって、あれですよね?」って、元を知ってらっしゃる方がいてちょっと嬉しかったです。

――もともと、そういった文学作品がお好きだったんですか?

ミシンと雨傘さん:正直、海外文学を読んだことって、あまりなかったんです。でも本は大好きで、近代の文学作品は読んでいました。

それで京都にあるアスタルテ書房さんをSNSで知って、行ってみたところ雰囲気がとても良くて、そこでバタイユの本を買ったんです。それがすごく良くて、そこからバタイユを読むようになって、そのつながりで同じ時代の他の海外文学も気になってきて、いろんな国の作品を読んでハマった感じです。

欲しい本をネットで探していると、購入歴からおすすめが上がってくるものもあるじゃないですか。この本を買った人は、こういう本も買ってます、みたいな。それで出てきた本を調べてみて、レビューも参考に気になるものを買い始めていったら止まらなくなりましたね。

――活動は去年からとのことですが、イラスト付きの看板も用意されてましたよね。あちらのデザインはどうされたんでしょうか?

ミシンと雨傘さん:あれはCanvaという、無料で使えるアプリを使ってクリエイターさんが提供している素材を組み合わせて作りました。無料なのに使える素材が多くて、結構キレイに仕上がるから、使い勝手が良かったです。

一箱古本市に出店したくて

――最初に参加された一箱のイベントはどちらになりますか?

ミシンと雨傘さん:去年の秋頃にあった、尼崎キューズモールの「あまがさき一箱古本市」が最初です。

一箱古本市に出店したい熱がすごくあったんですけど、京都で開催されているものがない時期で……そんな時、「あまがさき一箱古本市」を見つけました。もうその時、出店者の募集期間が終わってたんですけど、SNSを見たらまだスペースに空きがあるようなことを描かれていたので、深夜0時だったのに「募集期間過ぎてますけど、参加できますか?」って問い合わせたんです。

――なかなか行動的ですね!

ミシンと雨傘さん:そしたら次の日の朝には返信があって「よかったら、ぜひ、参加してください」と言っていただけました。それでもう当日まで1週間くらいしかなかったんですけど、本とか看板とか準備して参加したっていうのが最初です。

――実際に参加してみて、感じたことはありますか?

ミシンと雨傘さん:最初に参加した一箱古本市の主催者さんにも言われたんですけど、私、結構人見知りで、あんまりお客さんと交流できず、他の参加者の方とも仲良くなるきっかけがなくって……イベントの後半になってきたら、絡めるようにはなったんですけど。

知り合い同士だったり、出店歴のある方だったりして、ちょっと周りに気後れして、積極的に交流できなかったのが心残りだったんですよね。

で、2回目に尼崎の古本市へ参加したとき、主催の方とお話しする機会があって、冗談で「お酒入れたいですね」って言ったら、「いいんじゃないですか?」って返されて。あと、ほかの出店者さんが「お酒でも飲みたいよね」みたいなお話をされてるのを小耳にはさんで、「もしかして飲みながら参加しても許されるのかな?」と思って。

それで、キューズモールの1階にあるスーパーで、お昼休憩のついでにワインを買って飲んでました。でも、子ども連れのお客さんも多い場所だから、お酒のラベルが見えるのはマズいかと思って、ラベルを剥がして、さも葡萄ジュース飲んでます見たいな感じにしてたんですけど、そうしたらすごく楽しく過ごせました。

――そういえば「長岡京セブラボ古本市」や、こもれび書店でされた「めばえ市」の時も、お酒を片手に参加されてましたね。

ミシンと雨傘さん:ただ、お酒を飲みながら販売してる人から買うって、お客さんからするとどうなのかなと思うところもあって。飲みながら店番してて許されるのか、不安もありました。

3月に「めばえ市」に参加したときは主催さんも呆れながら「飲みたいなら飲めば?」という感じで了解いただいたんですけど、あんまりいいことではないかもしれないです。

――「天神さんで一箱古本市(京都府長岡京市)」は、過去にワインの販売があったり、お酒を振る舞われてる方もいらしたりして、私もちょいちょい、飲みながら参加してることありますよ。

ミシンと雨傘さん:そうなんですね。「天神さんで一箱古本市」は懐が広いイベントなんですね。お客さんとして最初に見に行った一箱古本市が天神さんだったので、いつか出たいなと思ってたんですけど、今度の5月に開催されるので最後なんですよね。

――参加されてきたイベントの中で、特に印象深かったところはどこですか? やはり初回の尼崎キューズモールですか?

ミシンと雨傘さん:初回は本当に、緊張して終わったんですよ。印象に残ってるのは滋賀県のブランチ大津京で夜にやってた「大津京 本の夜市」です。

尼崎キューズモールもいいんですけど、お子さん連れのお客さんが多いから、私の選書だとオススメできない本もあるんですよ。でも、ブランチ大津京の「大津京 本の夜市」はお子さん連れだけじゃなくて、本を目的にふらっと来た方も割と多くて。時間帯も夕方だったのもあって、普段は目を向けてもらえない人にも本を紹介する機会があったと感じました。

好きな本をプレゼンするのが大好きなので「この本良かったです、おすすめです」ってお話できたのが、すごく良かったですね。

後ろ暗い部分に隠された本質

――一箱に入れられる本の傾向も、好きな文学作品が反映されてる感じですか?

ミシンと雨傘さん:基本的に、自分が読んで面白かった本を選書してます。だから昔の小説とか、歴史系の研究書が多いですかね。あとはこの視点から見たこの時代、みたいな本も好きなので、結構出してます。

――ちょっとドキッとするタイトル、テーマのものも入れられてますよね。

ミシンと雨傘さん:もともとエロ・グロに興味を惹かれるところがあって、バタイユも結構エログロ系というかあけすけな感じがありますよね。あとファンタジーも好きで、世界のおとぎ話にも興味があります。おとぎ話から培われてきた、その国の人たちの特性とか。

エロ系といっても別に、春画を集めてるとかじゃなくて、神話や民話とエロスって切り離せない部分があると思うんです。おとぎ話を読んだだけだとわからなくても、説明されたらそうかもって思う気付きのある話がすごく好きで。神話とか民話に反映されている、その国の人たちの考え方も見えてくるので、このあたりも外せない分野ですね。

ファンタジーもきれいな状態で終わる話にはすごくモヤモヤして、なんかちょっとダークな部分が見えてるほうが面白いというか、しっくりくるように感じるんです。

自分は、人間のネガティブな部分をとらえやすいところがあるんだと思います。だから、後ろ暗過ぎるぐらいのほうが、話を読んでいて納得できるんです。

――そういう感じの、自分の趣味で集めてきた本から選んで箱に入れてる感じなんですかね。

ミシンと雨傘さん:そうですね。あと、個人の趣味で犯罪心理学とか、歴史の中でこういう酷い事例があった、というようなものも興味深くて好きです。中世魔女狩りとか、拷問の歴史とか、ついつい買ってしまう。

性善説は信じてますけど、人がどこまでグロいことをできるのか、歴史にも残ってますよね。それを隠してもしょうがないというか、目をつぶってしまうことに対して、個人的にちょっと違うかなってかんじるんですよ。

繰り返さないための学びとして、知りたい人が調べられるだけの資料や書籍を残していくのは大事だし、知らないから繰り返してしまうってことは絶対あると思ってます。でも、そういうダークサイドを教えてくれるところがないから、余計に自分で探したくなって、興味を持ってる部分もあるんですよ。

深い話ができる相手へのリスペクト

――活動されてきた中で、憧れる箱主さんはいますか?

ミシンと雨傘さん:本棚書店「書棚比良坂」のお名前で活動されてるソラマメさん(現・不在性書店さん)は、本の選書がすごく好みです。

ブランチの夜市に参加したときも出店されてて、背表紙が全部黒い本を集めてらっしゃったんですよ。私、クトゥルフのTRPGやるんですけど、「長岡京セブラボ古本市」のとき、自分が学生だったときはこういう感じだったとか、クトゥルフのお話をたくさん聞けました。

その界隈ではクトゥルフのTRPGって流行ってて、ネットでダウンロードできるシナリオをみんなが公開してるんですけど、原作を読んだことある人ばかりじゃないんですね。主要キャラクターやモンスターの名前と特性だけ借りてお話を作っていて、原作は読んでない方、結構多いんです。

でも、原作を知ってらっしゃる方だともっと深い話ができて、オタクの血が騒ぐというか、好きな本の話ができる人がいると、すごくテンション上がるんですよ。

一箱古本市に出られてる皆さんは、いろんな分野で突出されてるので、自分の興味ある分野に詳しいかたもいらっしゃるから、それでお話が広がるのも参加してて楽しい部分です。

自分の好きな本を紹介できるお店を持てたなら

――今後、活動していく中でやってみたいこととか目標とか、ありますか?

ミシンと雨傘さん:長期的な目標で言うと、いつか自分のお店を作りたいんですけど、これは退職してからかな? 副業が禁止なので、古本屋さん1本でやっていくってなると、暮らしていけるか不安も多いし、私が好きで集めている本をどれくらいの人が求めるかもわからないですし。

いろんな古本屋さんを巡ってみても、いくつかジャンルがあって、そこに惹かれた人が購入されてるイメージなんですけど、私の集めてる本は明らかにもう、自分の趣味でしかないから、それを欲しいと思う人がどれくらいいるのかなって考えると、ビジョンが湧かないです。

安定した仕事をしながら、古本屋さんを楽しみたいという部分があるので、やるとしたら資金源となる仕事に就いたままやるか、ある程度資金を貯めてから始めるか、になると思います。

短期の目標だと、今度オープンするこもれび書店さんの棚をお借りするので、一定の期間を区切って、本の特集も自分の棚でやりたいと思っています。

あと、自分が読んだ本のレビューを書いたりもやってみたいことの一つです。

今まで、本を読んで面白いと思ったら「面白かったな」って、思うだけでした。でも、自分が読みたい本を探すとき、読んだ人のレビューを参考にすることもあるので、いつか古本屋さんをするなら、本を求めている人に紹介できるようにしたいので、何かちょうどいいツールがあればやりたいです。

それで、私が読んでる本と趣味が合う人、同じジャンルの本が好きな人にお届けできたらいいなと思います。

ある程度内容がわからないと読み始められないこともあるし、レビューがれば自分の趣味に合うものかをある程度確認できて、作品に手を付けるとっかかりになるんですよ。やっぱり現代人は忙しい人が多いですし、最後に「あんまり好きな作品じゃなかったな」って感じると、時間がもったいない気がして。

そういう人も結構多いんじゃないかと思うんで、だったら先に紹介があれば、その本を読むきっかけになるかも知れない。私も本を買うときに日本の古本屋さんとブックオフでブクログのレビューを見て決めることがあるので。そういう目に付くところに「こういう本でしたよ」と紹介があれば興味を持ってもらえるかなと。

後記

……何とか企画で必要なお話を聞けていたみたいで、取材音源を聞き直して胸をなで下ろしました。
お話の中で出てきました、京都初の貸棚書店「こもれび書店」さんは5月にオープンされ、ミシンと雨傘さんも棚に本を並べられています。
そして、取材に必要なお話を聞いたあと、閉店時間くらいまで、あれやこれやと話が盛り上がり、お酒が随分進んだというか、かなりぶっ飛んだ話題を振ってしまった気もしていて、ヒヤヒヤしている読酌文庫なのでした。

今回のヒトハコさん情報

  • 屋号:ミシンと雨傘

  • 活動PR:『まだ見ぬ一冊』との出会いに携わりたい欲張りです。若輩者ですがよろしくお願いします。

果てしない自由の代償として、全て自己責任となる道を選んだ、哀れな化け狸。人里の暮らしは性に合わなかったのだ…。