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とつげき隣のヒトハコさん2:本で繋がる広がる「デイリーマザキ」さん

第2回目の取材対象になったのは、関西の一箱古本市に出店しつつ、地方遠征もしている「デイリーマザキ」さん。2022年5月には、長らく開催が途絶えていた「天神さんで一箱古本市」の主催を買って出るという大役を果たされ、出店者を取り上げた読み物「長岡天ZINE」第2号を発行。

主催運営が落ち着いた頃、長岡天神の名物喫茶「喫茶フルール」にて、お話をお伺いしました。

屋号について

― 本日はご協力ありがとうございます。まずは屋号の由来をお聞かせいただけたらと思います。とくにデイリーマザキさんの場合、空目してしまいそうな字面ですので。

デイリーマザキ:「デイリーマザキ」って、驚かれることの多い名前ですよね。「焼けたパンでも出てくるのかな?」って言われる人も結構いるんですよ。
初めて出店したとき、周りがどんな屋号をつけてるのかって、知らなかったんですよね。何回か「天神さんで一箱古本市」も見に行ってたんですけど、出店されてる方の名前とか、意識して見ていなくて。いざ、自分が出るとなったとき「どうしよう?」ってなって。……なんとなく、かな?
あまり古本市とかでは見ない名前なので、参加者の方や来られた方に、一発で名前を覚えてもらうことが多くて、今となってはこの名前でよかったのかなって思います。

出店のはじまり・きっかけ

― 最初に出店されたのは、長岡天神の「天神さんで一箱古本市」なんですね。

デイリーマザキ:そうなんです。一番最初に出店したのは「天神さんで一箱古本市」です。
僕は本に関する本が好きで、いわゆる書店論とか作家論とか、そういった関連の本が好きだったので、そういった本を集めていくなかで「あ、一箱古本市というのがあるんだ」と知って。
それで実際に「天神さんで一箱古本市」も見に行って……東京の「不忍ブックストリートの一箱古本市」も見に行きましたね。実際に見てみて「あ、なるほど、こんな感じなのか」と思って。それで自分も出ようって思うきっかけになりましたね。

― そうして出店がはじまったのですね。それは何年くらい前でしょうか?

デイリーマザキ:多分、7、8年くらい経つので…2014年になるのかな?「天神さんで一箱古本市」の回数でいうと、第6回目だったと思います。

箱主に詰める選書傾向

― 出店初期の頃も、今とそんなに変わらない内容を箱に詰められてた感じですか?

デイリーマザキ:そうですね。最初はやっぱり自分の好きな本とか、自分の持ってる本から持って行く形で始めましたね。
僕は希少な本とか、いわゆる価値のある古書というのは特に集めていなかったので……本当に身近にあった本というか。
古書好きの人からしたら、特に目を向けてもらえないような本が入ってる状態でしたね。
まぁ、それはそれで……自分の持ってる本を好きだと言ってくれる人が見てくれて、それを買ってくれたらいいかなって思うので。その意味では裾野の広いイベントですよね。選書や売れ行きにこだわらなくてもいいっていう。

― 色々なタイプの箱主さんがいらっしゃいますよね。ガッツリ古書という感じの方もいれば、小説・漫画を詰める方とか、サブカル系が多い方とか。

デイリーマザキ:僕はサブカル系に近いんですかね。小説はほとんど置いてないと思うので。いわゆるエッセイとか、そういった読み物が多いかなって感じますね。

箱主になってからの変化や展開

― 「天神さんで一箱古本市」への出店だけでなく、他地域への遠征もされ、精力的に活動されているようですが、活動を通じての変化や広がったことはありますか?

デイリーマザキ:以前はあんまり、旅行とかしなかったんですよ。
家族旅行は行っても、1人でとか友だちと旅行っていうのがあまりなくて。観光とかにも興味がなくて、旅先でしたいこともとくになくて。
でも、一箱古本市に出るっていうのは、僕のなかでは動機になるなって思ったんですよ。普通の人だったら「え?それ出るヒマあったら、もっとほかのところ行けるやん?」って思うんだけど……でも、僕にとってはそうじゃなくて。
一箱古本市に出るというのは、いきなり行ったことのない商店街の一角とかに本を並べて、地元の人たちと普通にコミュニケーションが取れる。そういう光景って、まず、ないじゃないですか。
普通の観光だったら、対面で買い物はしても、それ以上の会話にはならなくて。
だけど、一箱古本市だと一歩踏み込んだところに入って、普通に商店街で買い物をしている地元の人が「え?これ可愛い-」とか言って、猫の本を手に取ってくれたり。そういった交流ができるのって、普通の観光よりも面白いんじゃないかなって思うんですよ。

― 本を介して、その地の人と交流するという感じですね。

デイリーマザキ:なんか、普通ではできない交流が一箱古本市の場ではあって。だから一箱古本市に出るようになってから活動範囲が広がって、全然知らない場所でも「本さえ持って行けば大丈夫!」みたいなところが、できたかなって思います。

これまで出店した場所

― 今までどんなところに行かれましたか?

デイリーマザキ:広島の「くれブックストリート」はもう、3回くらい出たかな?あとは出雲とか、この前は静岡の浜松も出たりとか。
あとは関西ですね。関西は色んなところでやってるので、兵庫も大阪も出てますし。「あまがさき一箱古本市」も出ました。

長岡天ZINEについて

― 「天神さんで一箱古本市」を取り扱ったZINE「長岡天ZINE」も作られるようになられましたが、こちらを作るきっかけは何だったんでしょうか?

デイリーマザキ:この本は僕と、ザッカサンサンゴゴのサトダさんと一緒に作ってるんですけど、サトダさんが非公認フリーペーパーのような感じで「天神さんで一箱古本市」に出てる箱主さんについてまとめたものとか、紹介のようなものを作って配られてたんですよね。
イベントって、参加すると楽しいし記憶に残るけれど、でも、そこで体験した人だけの思い出で、振り返ると何も残らない。形に残るとしたら写真とか買った本とかですけど、でも、実際に参加してた人に話を聞いて、形に残して置いたほうが後で見返したときに面白いし、何か意味が出てくるんじゃないのかなって思って。それで「長岡天ZINE」を作り始めたんです。

― イベントの記録というか、足跡のような感じですかね。

デイリーマザキ:そうですね。それも含めて。僕としては「さらに面白くできるかな?したいな!」って思ったときに、そこに携わってる人の話とか聞けたら面白いかなって考えて。イベントに出てるときだけじゃなくて、普段どういうことしてる人なのか、そういうところにフォーカスできたら面白いかと思って「長岡天ZINE」の1号・2号を作ったんです。

― ザッカサンサンゴゴのサトダさんがいたからこそ、2人で作っていけたという感じなんですね。

デイリーマザキ:そうです。それはもう絶対、僕ひとりじゃできなかったです!

テントと本とキャンプ

― ちょっと一箱古本市などとは話がそれますが、最近お家キャンプされてるんですか?

デイリーマザキ:そうですね。はい。
これは多分、コロナが重要なことにあるんですけど、外出自粛とかで人の流れが変わってきたところがあって。
それで僕のなかで「どうやったら1人になれるだろう?」って考えたときに、テント張ろうと思って。とりあえずテントを買うところから始めて。
料理とかも、ほぼほぼやったことなくて、一切できなかったんですよ。でも、キャンプやったら、キャンプ飯とかあるし、何か作った方がいいかなーって思って、それから料理も始めたんです。結果、パエリアとかも作るようになるっていう。やればできるんだって思って。
もう本とは全然関係ないんだけど、いつかは本とこじつけて、テントのなかで本を売りたいなーとか。

― 一箱古本市にテントを持って行かれたこともありましたよね?

デイリーマザキ:あ、そうです。実験みたいな形でやりました。持ち込んでいいですかって、主催さんに聞いたら「いいよ」って言われて、実際に持って行ってやってみました。

― そのうち、テントと本を背負って、日本のあちこちで売り歩いたりできそうですね。

デイリーマザキ:そういう展開もありそうな気がするんですよ。もう一箱じゃなく一張りで。1人1テント持って行って、みたいなブックキャンプをするのもね。

― 本の活動で、どんどん外に出られてる感じですね。

デイリーマザキ:なんかおかしいですよね。本来、本って1人で読んで細々というか、そんな印象があるはずなのに。なんだか気がついたら知り合いがどんどん増えていってる、みたいな。活動範囲も広がって、知ってる人も増えてってるぞって、不思議な感じなんですよね。

憧れる人・お世話になっている人

― 憧れている一箱の人とか、古本屋さんとかはありますか?

デイリーマザキ:古本屋さんでいうと、古書みつづみ書房さん、一択なんですよね。
僕は趣味とかある程度のコミュニティとか、案外長続きしなくて、気がついたら自然に離れてほかのコミュニティに移ってるみたいなことがあって。そんななかで、古本の活動が一番続いていて、それでも辞めたいなーって思った時期があって。
もう古本の活動もいいかなと思ったんだけど……その時に偶然、みつづみさんが居て、もうちょっと続けようかなってなって。
僕は本を辞めたらそれはそれでいいかなって、思ってはいました。でも、みつづみさんの存在があって、続けることも大事なんだなって思ったので。

― 古書みつづみ書房さんも結構精力的というか、色々されてる方ですよね。

デイリーマザキ:もう、行動力がとんでもないです。見えてる部分だけでも、めちゃめちゃしてるのに。多分見えてない部分でも色々されてるから。
色んなところで携わってる方で。もう、とてもじゃないけど見習えないです。そこまではできない。おかげで色んな人を引っ張ってくれてるなって。

はじまりのあの人は今……?

― ほかにも気になる箱主さんとか居ますか?

デイリーマザキ:一箱の箱主さんで実は1人いらっしゃるんですけどね。僕、その方の名前を知らないんですよ。
というのは、ちょっと不思議な話なんですけど……僕が出店をはじめる前に、何回か一箱古本市を見に行ってた時期があるんですけど、そこに出店してた人で。年齢でいえば僕と同じくらいか、ちょっと若かったのかもしれない男性の方が1人で出店されてて。
はじめて行くときは、どんな人が居るかもわからないから、いきなりおっちゃんに話しかけるのもどうかなって思ったときに、年の近そうな人が居たので「どういう本があるんですか」って声をかけて。
で、その人を何回かイベントで見てたんですが、屋号とか意識していなくて、何て名乗られてたか、今となってはあんまりよく分からないんです。
それで、僕がはじめて一箱古本市に出店したとき、その人はもう出店者のなかに居なかったんですよ。出店されなくなってて。なので、結局、その人は誰やったんやろって。

― 不思議ですね。

デイリーマザキ:その人が誰で、どんな人で、今何してるんだろうっていうのが、全然分からなくて。
それで実はその人が一箱古本市に出店してたとき、箱の前に座布団を置いてたんですよね。僕の初期って、箱の前に座布団置いてっていうディスプレイしてたんですけど、それは実は、その人がきっかけだったんです。
でも、その人の正体が分からないままになっていて、それもちょっと不思議な話なんですよね。

これからのデイリーマザキについて

― これからの活動としては「長岡天ZINE」の第3号とか、そういった企画を温め中というところですかね。

デイリーマザキ:そうですね。今後も箱主として本の出店も継続しながら、そういう企画もできればいいなと思ってますね。
ちなみに100箱募集してる、岸和田の「お堀で一箱古本市」に注目してまして。さすがに100箱出店だと、1人で店番は無理やなって。

― 店番しかできないですね。

デイリーマザキ:出店して店番しかできないって、もったいないなって思って。それやったら誰かを誘ってしたほうがいいかなって。交代して見に行って、みたいにしてもすごく楽しめるかなって思って、出たいなと。
出店が100あると、1日で見て回れないですよね。「天神さんで一箱古本市」でも40箱なので。それでも1周見てまわるのに、結構な時間かかるので。それはどういう光景になるのか気になるし、すごいなーって思うんですよ。
僕のなかではね、売りたいって気持ちがすごいあるんですよ。
人によってはイベント主催が中心とか、ZINEを作るとか、色んな人がいると思うんですけど、僕は本を売る気持ちが強いのかな。「天神さんで一箱古本市」も今回、主催したんですけど、「参加してるのに本売ってないな、俺」と思って。
おにぎりとかZINEとかは売ってましたけど、本は売ってないなって。

― 物足りなさというか、落ち着かない感じが残ってるんでしょうか。

デイリーマザキ:そうそう。だからどうしても、ほかのところで本を売りに出たいなという気持ちがあって。

― では、今後は主催側に移るとかではなく、これからも1人の箱主として売る活動を主軸にしたいというところですね。

デイリーマザキ:そうしたいですね。
でも「天神さんで一箱古本市」は、出た人も久しぶりに来てくれた人も、すごく喜んでくれてて。それはそれで、すごくよかったんだなって思えて、嬉しかったのもあります。

後記

イベント主催やZINEの発行をしても、箱主として本を売る活動を主軸にしたいという「デイリーマザキ」さん。これからも各地の一箱古本市に参加して、その場所ならではの交流を続けられそうです。
尺の都合上、やむを得ずカットしたお話の中には、これから予定している企画についてもお伺いできました。今後の活動にも注目のヒトハコさんです。

今回のヒトハコさん情報

  • 屋号:デイリーマザキ

  • 出店場所:関西中心。遠征は広島、静岡、島根、香川など

  • 選書傾向:固定テーマなし(新刊書店でサブカルとしてしかくくれない微妙なジャンルの本。動物、グルメ、エッセイ、絵本(小説はほぼゼロ))

  • 活動内容:棚は現在二条狂言屋さん、芦屋風文庫さん、杭瀬二号店さんにあり、それぞれ本を置いています。


果てしない自由の代償として、全て自己責任となる道を選んだ、哀れな化け狸。人里の暮らしは性に合わなかったのだ…。