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とつげき隣のヒトハコさん7:趣味のはじまりは和田誠本「けんじ堂」

今回は佛教大学の「学園祭で一箱古本市」も企画されている、「けんじ堂」さんのお話をお伺いしました。「天神さんで一箱古本市」や「古本イエー」などに参加されています。ここ数年、社会情勢を鑑みて中止となっている学園祭のイベントも復活できると良いのですが…。

屋号の由来や参加し始めた経緯

― まずはお名前(屋号)の由来をお伺いしたいです。

けんじ堂:屋号は私の名前である「けんじろう」をもじって、古本屋っぽくしたものです。なので、特別な謂れとかはないんです。

― 一箱古本市への出店をはじめられたのは、いつ頃からですか?

けんじ堂:最初の出店は2012年5月に開催された「第2回天神さんで一箱古本市」です。早いものでもう10年も経つんですね。
このときは「小さな子どもの本屋さん」との合同出店でした。「小さな子どもの本屋さん」の店主さんは職場の元同僚で、絵本の読み聞かせをライフワークになされている方だったので、本に関するイベントなら興味を持っていただけるんじゃないかと思ってお誘いしました。
2人とも初めての経験だったもので、参加にあたって手探りなところも多く、それで個別にではなく、合同での出店にしたんです。

― 今はそれぞれ独立した箱主さんとして「天神さんで一箱古本市」などにも参加されていますね。ちなみに、合同出店されたときは、どんな屋号(名称)だったんですか?

けんじ堂:えーっとね、そのときは「本のけんじ堂」という名前でしたね。今思うと相棒である「小さな子どもの本屋さん」の存在を無視した屋号で申し込んでいたので、反省しています。

― 初参加のきっかけは何だったのでしょうか?

けんじ堂:きっかけは、2009年刊行の『一箱古本市の歩きかた』(南陀楼綾繁)を読んで、一箱古本市に興味を持っていたところで、長岡天神でも開催されると知ったことです。それで「第1回天神さんで一箱古本市」への参加を申し込もうと思ったのですが、諸事情あって見送らざるを得ず、結局、第2回のときに初めて申し込み、参加となりました。

― これまでの出店から、思い出深い場所や思い入れのあるイベントはありますか?

けんじ堂:思い出深い場所というと、初参加から約10年もお世話になっている「天神さんで一箱古本市」ですね。
思い入れあるイベントとしては、やはり自ら企画・運営・出店した「佛教大学学園祭で一箱古本市」です。このイベントは「天神さんで一箱古本市」に初めて参加した年に開催しました。
コロナ禍により、一昨年と昨年は開催を中止しましたが、今秋は状況を見て開催しようかと考えています。

学園祭で一箱古本市

― 佛教大学での一箱古本市は、私も参加させてもらってたイベントですね。学園祭の中で一箱古本市をやる、という企画は大学側の許可・協力も必須だったと思うのですが、初めて企画されたときの大学側の反応はいかがでしたか?

けんじ堂:学園祭で大学事務局が関わる企画はその他にもありましたので、特に問題なく受け入れてもらえました。ただし、スペースは限られていますし、学園祭自体が学生主体のイベントということもあって、「学園祭で一箱古本市」で使える場所は人の動線から外れたところになるのが難点でした。
その後、キャンパスの整備があり、学園祭で使える場所も増えましたし、大学教員から募った古本販売企画も任されたので、正門からすぐの建物前を使ってできるようになりました。

― 「学園祭で一箱古本市」をはじめられたばかりの頃は、どれくらいの規模でしたか?

けんじ堂:2012年の第1回開催時は、まだSNSを使っていなかったので、知り合いに直接声をかけて出店を持ちかけましたね。
このときは私のほかは、「小さな子どもの本屋さん」とその知人の方、大学の教員の方が2組、クラブの参加が1組という、合計6組の出店です。この時使っていた場所は、キャンパス奥にある建物の1階ロビー部分で、来館者はまばらでした。

― そこから認知され、参加数も増えていったんですね。

けんじ堂:参加数は実際のところ、増えたり減ったりです。でも、認知度は年々高まっている感じがあります。
第2回は4組、第3回は9組、過去最高の出店数は2017年の第5回です。この時は15組の出店になりました。大学教職員から募った古本即売会の併開催もこの時からです。
SNSでの募集案内をし始めたのは2015年の第3回を開催したときからで、この時はFacebookを使ってましたね。「ら・むだ書店」さんや「大吉堂」さんも、この時に参加してくれてます。
2018年からは2日間開催になり、第6回は各7組ずつ、第8回は各8組ずつの出店でした。

継続した趣味になっている一箱古本市の楽しさ

― 一箱古本市への出店や学園祭での企画を通じて、発見や気づきなどがあれば教えてください。

けんじ堂:自分で値付けした本を売る楽しさはもちろん、手に取られた本からの会話にはご縁を感じます。そういうところは、一箱古本市に参加できて楽しいところでもあり、満足しているポイントです。また、その場でお話しいただける方にも感謝しています。
どちらかと言えば、私は人見知りで飽き性なんですよ。それが、一箱古本市への出店を10年以上続けている。自分の中に、そんな熱意があったのだと、自分でも驚いています。

― けんじ堂さんは狂言屋さんのところにも、本置かれてませんでしたか?
あちらはどのようなきっかけで置き始められたんでしょう?

けんじ堂:それは「狂言屋」さんのところで、「古本イエー」を定期開催することになって、そこで声がけしていただいて、という流れです。
2016年秋に民家での古本市「古本イエー」が、「100000t alonetoco」さんの企画で開催されて、その時はお客さんとして訪れました。その後、「狂言屋」さんがイベントに熱意を持たれて、定期開催されるようになったんです。出店側で「古本イエー」に参加したのは、2017年5月からですね。

箱に入れる本とこだわり

― 一箱古本市やその他の場所で本を置く際の選書には、テーマがありますか?

けんじ堂:一箱古本市に参加しだして、しばらくはテーマを決めて選書していました。その頃のテーマは「本の本」「ロック」「レーシング」などです。
しかし、数年で〝偏書〟ではお客さんに手に取ってもらいづらいのもあって、限界を感じ、ジャンル不問にしました。
ただし、初志貫徹「和田誠」本は箱に入れています。

― 「和田誠」本を自分の箱に入れようとこだわる理由は、何ですか?

けんじ堂:和田誠の著書や作品集を蒐めたい願望から、古本散策が趣味になりました。私にとって和田誠の存在が、自分の世界を広げてくれたんです。
そんなリスペクトを込めて、毎回箱に入れるようにしているからか、ごく少数ですが「和田誠といえばけんじ堂」と言ってくださる方もいて…恐縮しつつ満悦しています。

― 和田誠の著書や作品集のなかで、特に薦めたいものや自分にとってかけがえのない一冊になっているものはありますか?

けんじ堂:お薦めは『銀座界隈ドキドキの日々』(文藝春秋・1993年)、『和田誠展』(ブルーシープ・2021年)ですね。
『銀座界隈ドキドキの日々』は、2010年に「善行堂」の店主・山本さんに薦めていただいて手にし、和田誠さんの魅力に取り憑かれた1冊です。古本巡りで見つけると必ず購入して、一箱古本市などに持っていってます。そんな風にけんじ堂で売っては買ってを繰り返して、もう16冊にもなります。
最初に購入した1冊と、和田さんが亡くなられた後に新刊で買った1冊は、和田誠本棚に挿しています。
『和田誠展』は2021年秋から全国巡回していた展覧会の公式図録です。私は東京で鑑賞したのですが、和田誠のすべてが詰め込まれています。
自分の宝ものになっているのは、特別展「和田誠の仕事」図録 です。これは、2010年9月11日〜11月17日に、「たばこと塩の博物館」(当時渋谷)で開催された、展覧会の図録です。特別展で購入してから2年後に、京都でのイベントでゲストとして来られていた和田さんに、この図録を持参してサインをお願いしました。和田さんは「変わったものを持ってきたね」とおっしゃられたんですが、緊張でなんて答えたか覚えていないんです。

いつかはフリーペーパーも…?

― 活動の中でやってみたいことや、気になる箱主さんはいらっしゃいますか?

けんじ堂:けんじ堂の紹介を兼ねたフリーペーパーを作ろうかなぁと、一箱古本市に参加するたびに思うも、実行できていないまま、今に至ってます。

― フリーペーパーや個人的な読み物、冊子などを作られている箱主さんも多いですからね。心に残っているフリーペーパーはありますか?

けんじ堂:「yamaza books」さんが作られてる研究発表のフリーペーパーは読み応えたっぷりで、すごいって思いますね。SNS発信か、これまでの発行分をまとめたものを作ってほしいと思います。

― もし、けんじ堂さんがフリーペーパー作ってみるなら、どんな内容にしたいですか?

けんじ堂:その時の出品リストと、出品本からお薦め本、もしくはお薦め作家の紹介などを書けたらと思います。文章力が乏しいので、A5判片面のボリュームで収まればという感じです。

後記

主催企画「学園祭で一箱古本市」の開催に向けた前向きなお話も出てきた今回のインタビュー。過去開催時のデータも出していただき、イベントの歴史と変遷も知れました。和田誠さんの本を、見つけて購入しては自分で売るという繰り返しに、思い入れの深さを感じます。

ヒトハコさん情報

  • けんじ堂

  • 主な出展場所:京滋地区

  • 選書傾向:固定テーマはなく、その時々・場所によって変わる(敬愛する和田誠の本は必ず出品)

  • 活動内容やPR:一箱古本市に参加して10年。活動範囲を京滋地区から広げていきたいです。


果てしない自由の代償として、全て自己責任となる道を選んだ、哀れな化け狸。人里の暮らしは性に合わなかったのだ…。