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とつげき隣のヒトハコさん3:活動を通じて本への想いが再燃「月の下でOld Books」さん

とつげき隣のヒトハコさんも第3回目。今回は「月の下でOld Books」さんにお話をお伺いしてきました。
JR二条駅近くにある狂言屋さんにて、月一ペースで開催されている「古本イエー」にいらっしゃるということで、そこで落ち合う予定だったのですが……狂言屋さんご夫婦のご厚意により、奥のお部屋をお借りしてお話をお伺いすることになりました。場所提供ありがとうございました。

初出店は彦根のウモレボン市で

ー 確か私が月の下さんと初めてお会いしたのは、「ひこねウモレボン市」のときだったかと記憶しているのですが。

月の下でOld Books:はい、その通りです。私の斜め前に読酌文庫さんが座っていらしたのを覚えてます。あれが一箱古本市のデビューですね。

ー 出店されたのには、何かきっかけがあったのでしょうか?

月の下でOld Books:知り合いが出店しているのをたまたま見たんです。はじめは「天神さんで一箱古本市」にお客さんとして見に行って、楽しそうだなって思ったんです。
それで時期的に開催が近かった「ひこねウモレボン市」を見つけたので、出てみようと思いました。
全然予備知識もない状態だったんですが、「ごっこ遊び」のような部分にも興味関心があって、当時は不思議なコミュニティという印象でした。

屋号の由来はかつての憧れや大切なものから

ー はじめられたときに付けられた屋号の由来は何でしょうか?

月の下でOld Books:屋号を付けるって、お店屋さんをするっていう遊びがはじまる感じですよね。
で、本屋さんごっこをするってなったときに、本が好きだった自分や、本が好きな自分がいた場所として、学生の頃の図書室を思い出したんですよ。そのときに中高生の頃にカッコイイって思っていた堀口大學の『月下の一群』っていう言葉がパッと蘇ってきて……そこからイメージして「月下」から「月の下で」という感じで決めました。
私の個人的な感覚としては、本って夜が更けるにつれて読みふける、というイメージがあって、そこから連想される月とか夜といったものは、幸せな時間を表すものというか、キレイだなって思います。

一箱に入れる選書傾向について

ー いつも箱に入れられる本は、自分の好きな本という感じですか?

月の下でOld Books:そうですね。ディープな、古本好きな人たちほどのキャリアはないので……一貫性はあまりないですけど、自分が楽しかった・面白かった・心動かされたというような本を入れてます。

ー その時々によかったと感じたものを入れられてるんですね。

月の下でOld Books:そうですね。結構皆さん、凝った選書をされてるのでね。自分もちょっとテーマを作らないといけないかな~と思うところも。
でも、せっかくなので月に関連した本も入れてます。あとは、その時々の気分ですね。

これまでの出店

ー 活動をはじめられて4、5年くらいになられるようですが、これまでどちらに出店されましたか?

月の下でOld Books:「ひこねウモレボン市」に2回くらい出てて、「天神さんで一箱古本市」と、御池ゼストでやっていた一箱古本市と。あと、大阪の粉浜商店街であった「音盤大學」で一箱の出店もあったときに参加しました。

ー 水無瀬でやってた一箱古本市にも出店されてませんでしたか?

月の下でOld Books:あ、水無瀬も出てましたね。水無瀬は自分が高校まで育った街だったので、懐かしくて出ましたね。そのときは恩師との再会もありました。

一箱古本市を通じて本好きな自分と再会

ー 水無瀬に住まわれてた頃もあったということで、水無瀬というと駅のところに長谷川書店さんがありますよね。

月の下でOld Books:長谷川書店さんは小中高とすごくお世話になったというか、私のお小遣いのすべてをつぎ込んだお店でしたね。その頃は、まだアーケード下も今の雰囲気と少し違って、小さい本屋さんって感じでしたね。
私は学生くらいまでは本が大好きで、それこそ子どもの頃「罰として本を禁止しますよ!」っていうのが脅し文句になるくらい、朝から晩まで本を読んでた子だったんですよ。
でも、大学を卒業して社会人になってから、仕事で必要な本以外を読まなくなってしまって……。仕事に関係のない本を読む意味はあるのか、それは必要なことなのか、という感じで離れてしまってたんですよね。
それが一箱古本市に出会って、見に行ったり出店したりするようになってから、「あ、私、本が好きだったんだ」って思い出して、それからは本を買えるようになりましたね。

ー 一箱古本市を知る前は、本を買うこともしなかった時期があるんですね。

月の下でOld Books:社会人になってからは、自分の仕事に関する本は買ってたんですけど、役に立つかどうかっていう判断基準になっていて。
子どもができてからは、子どものための本とかは財布の紐がゆるいタイプだったんで、買うことに抵抗なかったんですが……。
自分の本っていうのは優先順位が低くなっていて、自分の本を買うんだったら子どもの本を買うか、仕事の本を買うか、という状態で、自分が楽しむための本を買うことをしなくなってましたね。

ー それが、一箱古本市の活動から再開したんですね。

月の下でOld Books:「天神さんで一箱古本市」に行ったとき、大人の方たちがみんな、好きな本をいっぱい並べていて、好きに買っていて……っていう、あの世界がすごく私には新鮮に感じられました。なので、あそこで一気にたがが外れましたね。
本当に忘れてた感覚をいっぱい思い出した感じで。
だから今、家の本棚も自分の仕事に関する専門書ばっかりの棚と、ここ数年で読みたくて一気に買った本の棚とが、ハッキリ分かれてますね。そのために新しく本棚を買う羽目になりましたし。

そして創作活動も?

ー ほかに活動していくなかで広がったことや、新しく気付いたり始めたりしたことはありますか?

月の下でOld Books:好きな本を読むのもですし、本の虫だった学生の頃、文芸部に入っていて趣味で雑誌に投稿してたタイプだったんですけど、そういったことも社会人になると同時にすべて封印というか「もう終わり!」みたいな感じにしていて。それは、それどころじゃない忙しい日々がはじまったというのもあります。
なので、出店していくなかでそういった昔の趣味も思い出しましたし、「天神さんで一箱古本市」に出てる方々って、フリーペーパーやZINEを作られてる方も多いじゃないですか。「商業目的や作家さんでなくても、書いてる人たちがいる!」というのも新鮮な発見でしたね。
だから「本を読む」「本に触れる」「好きな本を買う」「好きなことを書いてみる」という、昔楽しんでいたことが復活した感じですね。

ー 中高生の頃は自身で文芸作品を書くこともされていたんですね。

月の下でOld Books:部活での文集作りの延長のような、今でいうZINEとかそういったものをクラブ活動で発行したりとか。
高一時代とか、当時の色んな学生向け雑誌にある詩のコーナーとかに投稿してましたね。投稿して図書券をもらったことがありました。図書券をそれで稼いで、また本を買う、みたいなね。

ー すごいですね。図書券をいただけるような作品を書いておられたんですね。本を読んで、作品を書いて投稿して、また本になると。

月の下でOld Books:万年佳作でしたけどね。500円の図書券が送られてきて万歳!みたいな。それを握りしめて、長谷川書店に行く、というような。

ー 今後もそういった創作的なこともやっていかれますか?

月の下でOld Books:そうですね、そういったことに時間を割くことへの罪悪感、というものがなくなって、以前なら「そんな暇があるなら……」って感じていたことも、今はやってもいいかなって思えるようになったので。
なにより、それをやっている人たちがいるのを見たので。多分、普通の古書店さんたちが出店する古本市に行っても、そういった感覚にはならなかったと思います。それはお商売でされてる方たちの出店だからなんでしょうけど、一箱の人たちだったから「あ、いいのか」って、そんな風に思えましたね。

本のある場所で本で繋がる人との交流

ー 今日も狂言屋さんが開催されている「古本イエー」に来られてますけど、こちらにも時々来られてるんですか?

月の下でOld Books:これまでにも何回か寄せてもらってます。「古本イエー」で会う方たちとも、狂言屋さんご夫婦の場所が取りつないでいるというか、初めまして同士でも当たり前にしゃべれたりしますよね。狂言屋さん、たのしやさんのお人柄が醸し出す空気の力ですね。

ー 本があることで話もできますしね。

月の下でOld Books:一箱の活動にしても、本との繋がりで人と出会うことにしても、自分のプライベートとは全く別世界なんですよ。普段とは全然違う自分の時間を過ごせるっていうのが、私にはすごく面白くて。
多分、普段の生活のなかで私が小説を読むって言っただけで「え?」という反応になると思います。

これからの活動

ー 今後もちょこちょこと本を詰めて、一箱古本市に出る活動は定期的にされる予定ですか。

月の下でOld Books:そうですね、売れたら売れたにこしたことはないんですけど、一箱古本市には本を売るっていう、その場に関わることで本が好きな人たちが集まってくるじゃないですか。
なので、本が好きな人と出会って、お話を聞かせてもらって、そういうことを求めて、これからも思い出したようにちょこちょこっと参加していくのかなと思います。
多分、売ることが第一の目的だったら、全然モチベーションは続かないと思いますし、そんなに売れる本も持っていないのでね。

ー 本を通じてのコミュニケーションができる場としても、一箱古本市には不思議な魅力がありますよね。

月の下でOld Books:この間の「天神さんで一箱古本市」に参加して、それはつくづく思ったんですよ。
色んな方と交流して、あのときは年配の方も多かったんですけど、色んな歴史を聞かせてくれるおじいちゃんがいたり、自分で撮られたコレクション写真や動画を見せてくださったり。人との出会いが楽しいですよね。

ー ほかに、これからやってみたいことはありますか?

月の下でOld Books:とりあえず、自分がほしい本を買うことは解禁です!
あとは狂言屋さんが発行されてる「イエーZINE」とかも声をかけていただくので、ちょろちょろ書いたりとか。
今は活動しながら、自分がやりたいことを自由に考えられるようになってきている感覚があるので、これからどんなことを見つけていけるだろう、自分の中からどんなものが湧いてくるんだろうっていうのを楽しみにしているような状態ですね。

憧れるヒトハコさん

ー 憧れる一箱さんとか古本屋さん、尊敬する方はいますか?

月の下でOld Books:前に星月夜()さんが「大津京本の市」に出店されているときに、私の箱も一緒に並べさせてもらったことがあるんですけど、星月夜さんがお客さんとやり取りしているのを見て、すごいと思いました。
「大津京本の市」で使わせてもらえる場所って、結構広いじゃないですか。それで、その時に誘っていただいたんです。
そこで、見に来たお客さんが何となく絵本を手に取っているのを見て、星月夜さんはたくさん持って行ってたご自身の本から、相手が好きであろうと思うものを考えて「あ、あなたはこういうの好きなんじゃないかな?」って、相手が好みそうなものをおすすめしているのを目のあたりにしたんですよね。
「あなたの好みだと、これがいいんじゃない?」「あ、この本はどう?」というふうに、相手の様子から好みを見抜いて。で、すすめたお客さんはかなりの確率で「あー、そうそう、これ好き!」っておっしゃってるのを見て、すごいなって思いました。
売るっていう目的じゃなく、お客さんと出会うなかで、ああいうふうにおすすめができたら素敵だなって思いますね。

ー そういう場面を実際に見られたんですね!

月の下でOld Books:相手の好みそうなものを見つけてすすめられるだけの、本の知識というか、あれはすごく素敵だと思いましたね。
お客さんは「これ好きです!」ってなるし、「あれもいいじゃない、これもいいじゃない」ってなって、皆さんたくさんお買い上げになるという。
持って行った本のことを全部分かってらっしゃって、それですすめて売ってはるっていうね。本への愛がめっちゃ伝わるっていうか。すごく本を愛していて、自分が愛している本をすすめているって感じが、見てて伝わってきました。
ああいう風に接客というか対応というか、好きなものをすすめられるというのが、本当にすごいなと。

ー 知っていないとすすめられないですからね。

月の下でOld Books:そうですよね。だからそこは、憧れちゃいますね。

ー ほかにも影響受けた方とか、気になる箱主の方はいますか?

月の下でOld Books:このあいだの「天神さんで一箱古本市」で、うるい堂書店さんという方が冊子を出されてて、それが好きが凝縮して形になってるなーと、すごく感動しました。
一箱古本市に出られてる方々は、本の選書にしても個人で作られてるZINEにしても、その人の好きの結晶みたいなのが感じられて、毎回すごく感銘を受けますね。
さっき挙げた星月夜さんは、一箱活動のなかでこんな風に店主をやれたらお客さんも楽しくなれるし自分も楽しいし、いい感じだなって思える人ですね。

よく行く本屋さん・好きな本屋さん

ーよく行く古本屋さんはありますか?

月の下でOld Books:うーん、気合いを入れないと本屋に行けないんですよね。

ー 色々買ってしまいますしね。

月の下でOld Books:そうですね。一乗寺のマヤルカ古書店とか恵文社とか、ゴールデンコースなんですよ。一乗寺に行って、恵文社まわってマヤルカさん行って、あのへんは美味しいものも一杯あるのでね。お蕎麦食べたり、ケーキ食べたり、ぐるっと回って帰ってくるっていう。
あと、善行堂さんももっと家から近いと行きやすいのにと思いますね。

ー いつも本を買われるのは本屋さんが中心ですか?

月の下でOld Books:意外と一箱関係のお客さんで行ったときにも買いますね。
あと、実店舗はされてないんですが、私が好きなのはありの文庫さんです。ありの文庫さんが出店されてる場所を見に行くと、ほかのお店も出されてるんですが、ありの文庫さんの本ばっかり買ってるなーって。

後記

一箱古本市という場に出会って、一度は離れていた本との関係が蘇っていった「月の下でOld Books」さん。自由に自分の好きなものと関われる場としても、ヒトハコの活動が活きているようです。
本が結ぶ縁や、本のある場所が繋いでくれるきっかけについて、考えさせられる回となりました。
このインタビュー企画からも、何か新たな繋がりが生まれるといいなぁと思いつつ……。

今回のヒトハコさん情報

  • 屋号:月の下で

  • 出店場所:滋賀・京都

  • 選書傾向:固定テーマもあるが、その時々・場所によるきまぐれな変化もあり

  • 活動内容:本を通じていろいろなご縁が生まれますように

果てしない自由の代償として、全て自己責任となる道を選んだ、哀れな化け狸。人里の暮らしは性に合わなかったのだ…。