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言葉は力〜アイルランドの歌文化〜#土曜夜にアイルランドを語る

 こちらのnoteを開いてくださった皆様、ありがとうございます。ごっぴと申します。

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 4月から始まった連載「#土曜夜にアイルランドを語る」も、ついに6月に突入。こちらの連載では、アイルランドという国の文化について、毎週多くの方が、様々な角度から切り込んだ素敵な文章を執筆してくださっています。
 アイルランドという国の魅力について日本のアイリッシュオタクたちが語ってくれている内容は、毎回とても興味深いものばかりなので、僕も欠かさず読んでいます。また、他のところでは読めないような深い考察や耳より情報もあります。もしまだ読んでいない方は、ぜひ過去記事を遡ってご覧いただければ幸いです。


 そうした中で、6月投稿の先陣を切らせていただきますのは、私、ごっぴです。始めに軽く自己紹介をさせていただきます。

@ごっぴのプロフィール
 大学時代、都内のアイルランド音楽サークルにてアイルランド音楽に傾倒。2018年にアイルランドに留学し、現地の大学(University college Dublin)にて、アイルランド音楽に関する歴史を、アイルランド音楽研究家Ronan Galvin氏らから学ぶ。その傍ら、ダブリンの路上でバンジョーという楽器を演奏して生活費を稼ぎ、夜は毎日現地のパブのセッションに参加し、数々のミュージシャン達と共に演奏と言葉を交わしながらアイルランド音楽と酒に浸る。

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 要はアイルランドで飲んだくれ学生生活を送っていただけの人間なのですが()、このような機会をいただいた以上、一体何を書けるかと思案して、やがて一つのテーマに行き当たりました。

 それが「アイルランドの歌」について書くことです。
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 皆様は、アイルランドの歌といえばどんな歌を思い浮かべますか?

 ある人は、Celtic Womenが荘厳に歌いあげるDanny boyかもしれません。
 はたまたある人は、日本の明治時代の唱歌「庭の千草」の原曲である「The Last Rose of Summer」かもしれません。
 はたまたある人は、The DublinersやThe Poguesが嗄れた声で荒々しく歌い上げる「Rocky Road to Dublin」や「Irish Rovers」みたいないわゆるパブソングかもしれません。
 はたまたある人は、超大御所ロックバンド、U2かもしれませんし、シューゲイザーの立役者、My bloody valentineかもしれません。

 ここまで書いておいてなんなのですが、上の反応はどれも少数派で、おそらく以下の反応の人が大半なのではないでしょうか。

「アイルランドの歌?うーんよく知らないなぁ…」

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 日本において、アイルランド伝統音楽のシーンは非常に大きな盛り上がりを見せています。それは他の民族音楽とは比べ物にならないものです。例えば都内では藝大、東大、慶應、早稲田、ICU、東京都立大学などにアイリッシュサークルがあります。ICFという学生主体のアイリッシュイベントには、全国から毎年100人以上が集まります。例えば民族音楽ということで比較するなら、自分が他に興味あるベネズエラ音楽やブルーグラス、沖縄音楽なんかには、そんな大きな学生コミュニティはありません。
 そんなわけで、日本のアイリッシュコミュニティにおけるダンスやセッションは、非常にレベルが高いものとなっています。
 ただ、その中で、これだけは全く根付いていないんだよな…と感じている文化。そして、アイルランドの音楽において一番大切だとも思う文化。

 それがアイルランドの歌の文化です。

 本日は、なぜ僕がそんなに歌を推すのかを、歴史的、文化的な側面(と、僕の好みの面)から説明した上で、アイルランドの様々なジャンルの歌を紹介できればと思っています。



①アイルランド音楽における歌の重要性

 まず、なぜアイルランド音楽において歌が大事なのかを、

1.歴史
2.文化的立ち位置

の2点から説明させてください。

 1. アイルランドの歌の歴史

 アイルランドの歌文化には、非常に長い歴史があります。全部詳しく話していると本当に終わらないので、この章ではその長い長い歴史をかいつまんで説明させていただきます。
 まず、現在に伝わるアイルランドの歌として一番長い歴史を持つシャンノース(Sean-nós)というものがあります。シャンノースがなんなのかについては後述するのですが、アイルランドにおいて口承で伝えられてきたこのシャンノースは、なんと16世紀にはすでに文書記録として残っています。400年以上前ですよ、すんげー!!さらに言えば、記録に残る16世紀以前から歌の文化は脈々と口承で受け継がれてきたと考えられます。
 ちなみに、アイルランドでダンスチューンが広まったのは約200年前のことなので、ダンスチューンよりも200年以上前から歌の歴史は存在していたことになります。17世紀には多くの詩がシャンノースとして歌われ、多くの詩人がパトロンになっていたとも言われています。

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 そしてアイルランドの歌文化は、幾度かのターニングポイントを経てアイルランド中に、そして世界中に広がることになります。
 まず、曲収集家(Collector)の登場がターニングポイントとなりました。曲収集家は、19世紀以降、アイルランドにおいて各地域で伝承されていた曲を集め、記録に残すことを生業とした人々のことです。最初の曲収集家と言われるEdward Buntingをはじめ、George Petrie、P.W.Joyce、Francis O'neill、Seamus Ennisなどが有名です。
 彼らは様々な地域に赴いては、各々の方法で曲を収集しました。Edward Buntingは、ウイスキーを奢る代わりに各地のシンガーたち(彼らは歌手として生計を立てているわけではなく、各々の仕事を持っていました)に歌ってもらい、それを記録したと言われています。パイパーとしても名高いSeamus Ennisが録音機を持ち国中を駆け回ったあたりを最後に、ラジオやCDの発達で曲収集家はいなくなっていきますが、彼らの尽力により、ダンスチューンは勿論、アイルランドの伝統歌も日の目を浴びていったのです(アイルランドの曲収集家に関する講義は、留学中最も熱心に受けていた講義なので、機会があればこの人たち一人一人についても詳しく書きたいですが、それはまたの機会にしましょう)。

 そして、20世紀中盤には、ショーバンドらによって、よりポピュラーミュージックとしての側面を強めて歌文化は広まっていきます。極め付けは1960〜1970年にアメリカからフォークリバイバルの流れが来たことです。フォークソングに焦点を当てた彼らのファッションには、西アイルランド風のものが採用されていました。トラッドとは言い難いそのスタイルに当時は批判もありましたが、そうしたアイルランド「的」要素を少しずつつまみ取って、Clancy brothersThe Dublinersなどが人気を博しました。

 さらに、Sean O'Riada がステージ演奏としてのアイルランド音楽のあり方を確立したことにより、アイルランドの伝統音楽全体が世界に広まっていくこととなったのです(与太話ですが、このSean O'Riada、アイルランド音楽が現在世界中のパブなどで演奏されるようになった、そんな今のアイルランド音楽の状況を作り上げた超重要人物なのです。そのお話もまたどこかで機会があれば)。

 そうした中で、国の文化としての音楽とポップミュージックとしての音楽との対立が深まります。グローバルかローカルか、革新か伝統か、カウンターカルチャーか保守か…。そして、アイルランド音楽とは何か、に関する議論が、本国アイルランドでも正に続いているところです(この辺は後述します)。

 とまあ、途中から脱線してしまいましたが、このようにアイルランドの歌の文化は、ぼくらのひいひいひいひいひい(以下略)おじいちゃんくらいの時代から、脈々と受け継がれたものなのです。

 2.アイルランドの歌文化の立ち位置

 先ほども少し出てきたのですが、皆さんは、シャンノースをご存知ですか?アイルランド語で「古いスタイル」という意味のこちらの歌は、アイルランドの最も伝統的なスタイルの無伴奏の歌になります。
 この歌は、アイルランドの各地域で脈々と受け継がれた、当時の人々の世界の見方、生活の見通しを反映したもので、その土地の伝承などを歌にしたものです。
 例えば、Galwayへ向かう船が沈没したという実際の事件をもとにあるシャンノースの歌が作られたかと思えば、別の街では、同じ事故を歌った別のシャンノースも作られています(アイルランドのある街には、その歌の内容と同じことを記した事故の記念碑が建っていたりもするそうです)。

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 Galwayの海辺

 また、アイルランドのフォークソングも彼らの暮らしをローカルなアクセントで歌い上げたものですし、アイルランドのロックバンドU2やThe Cranberriesなどは、アイルランドで起きた実際の事件についての歌を書き、社会的メッセージとして歌い上げています。

 このように、アイルランドにおいて歌という文化は、自分たちの周りで起きていること、社会や政治に関する立ち位置を伝えるために、非常に大切な役割を果たしているのです。

 3.アイルランドにおける言葉の重要性

 留学中に経験した忘れられない話を一つ。あれはGalwayのTig Choiliというパブでセッションを楽しみながら、いつものようにカパカパとギネスビールを飲んでいた時のことでした(飲みすぎて、マスターに、君もうちょっと味わってゆっくり飲みたまえ、と注意されました)。その日のセッションのホストはバンジョープレイヤーのMary Shannon。アイルランドの超有名なアコーディオンプレイヤー、Sharon Shannonの妹にあたる方です。セッションもレベルがとにかく高く、本当にものすごい体験をしてしまったぞと僕は目頭を熱くしながら相変わらずカパカパとギネスを飲んでいました。

 その時です。突然一人のお爺さんが割り込んできて、いきなり演説を始めました。なまりの強い英語で何やらずっとでかい声で話しています。

 僕は正直面食らいました。そして思いました。

「セッションに割り込んできていきなりスピーチとはこれいかに!!」

 しかし、勉強が足りていなかったのはどうやら僕の方でした。周囲を見渡すと、皆真剣に話を聞いています。彼の発する一言一句に笑ったり、どよめいたり。そして彼が話し終えると、割れんばかりの拍手がパブを包み込んだのでした。

 アイルランドはストーリーテリングの生まれた国とも言われています。それを裏付けるかのように、アイルランドは、多くの小説家や詩人を生んだ国です。今思いつくだけでも、ノーベル文学賞を受賞したイェイツ、ジョージバーナードショー、ベケット、シェーマスヒーニー。他にも、オスカーワイルド、ジョイス、スウィフトなどなど。

 また、ウィットに富んだジョークを飛ばしたり、おしゃべりが好きな国民性だと言われたり、アイルランドの人と言葉の文化は、切っても切れない関係にあります。先ほどお話したおじいさんはどうやらパブの常連さんらしく(Connemaraに住んでいるそうです)、終わった後に話しかけると、嬉しそうに色んな話を教えてくださりました(僕の英語力となまりのためにほとんど聞き取れませんでしたが)。

 このように、言葉を重じてきたアイルランドの人々にとって、まさに歌は伝承のための大切なツールなのです。

②アイルランドの歌の種類


 前章ではアイルランドの歌の持つ重要性を説明させていただきました。この章では、アイルランドにおける主要な歌について、以下の4つを紹介していきたいと思います。

※今回は以下の4つを紹介しますが、当然他にも様々な歌の種類があることにご留意ください…!!

1. シャンノース
2. バラッド
3. カントリーソング
4. ロック

 1.シャンノース

 先ほども説明をしましたが、シャンノースはアイルランド語で「古いスタイル」を意味する言葉です。伝統的なアイルランドのソロ・ステップダンスにもこの言葉が使われています。

 まずはこちらをご覧ください。


 何を歌っているんだか全くわからないと思いますが、それもそのはず、こちらはアイルランド語で歌われています。シャンノースはアイルランド語で歌われる無伴奏の歌のことです。
 シャンノースという言葉が初めてこうした歌に用いられた記録は、1911年のこと。アイルランドの新聞"An Claidheamh Soluis"において初めてこの表現が用いられていることが確認されています。

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 20世紀初めのアイルランドの新聞"An Claidheamh Soluis"


 シャンノースの特徴としては、歌のみの無伴奏の形式であること、モーダルであることなどが挙げられます。
 「セッションによく参加するから曲はたくさん知ってるけど、歌は知らん!」と言う方もいるかもしれません。でも、実はシャンノースは、アイルランドのダンスチューンに変化して広まっていたりいることもあります。例えばこちらは、セッションなどでもしばしば演奏される有名なジグ"Hag with the money"


 実は元々、こちらの歌が原曲となっています。


 この動画のバージョンでは伴奏も入ってかなりアレンジがされていますが、この曲は元々、有名なシャンノースの曲です。(与太話ですが、こちらの演奏をしているHothouse Flowersはアイルランドの有名なロックバンド。先日来日した際にアイルランド大使館でご一緒させていただき、この曲を一緒に演奏する機会(!)があったので、すごく印象に残っています)。

 さて、シャンノースはアイルランド語で歌われるとお話しました。アイルランド語は名前の通りアイルランドの公用語です。しかしながら現在、ゲールタハトと呼ばれるアイルランド語を公用語として話す地域は、アイルランドでもDonegal、Connemara、Mayo、Kerryなど一部地域のみとなっています(公用語とは…と言う感じですが、そんな状況なのでアイルランドでは現在アイルランド語が義務教育過程に取り入れられています。アイルランド人の友人が、難しすぎて毎回テストが辛かったと愚痴を溢していました)。

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Údarás na Gaeltachtaより

 さらに、地域差が大きく、地域が違えば同じアイルランド語でもほとんど通じないそうです。
 そんなわけで、アイルランド語で歌われるシャンノースも当然、地域差、スタイル差があります。
 Donegalスタイルは装飾がなく、音程のない歌が特徴です。
 Connemaraスタイルは、装飾が多く、またメロディの高低が広く、また複雑な傾向にあります。グリッサンドが多いのも特徴です。
 Kerryスタイルは、メロディにおける抑揚と広がりが特徴で、声門破裂音を生かした歌唱法がよく行われます。また、ダイナミクスの細かい使用も行われるのが特徴です。

 ここ30年ほどで、シャンノースはダブリンやベルファストなどの非アイルランド語圏でも盛んになりました。今ではコンペティションなども行われていますが、始めた当時は、標準とされたConnemaraスタイルが審査員に好まれるなど、地域格差があったことや、そもそも伝統の歌を格付けするということから、反発も強かったそうです。
 そうした中で、ラジオなどが広まったことで、各地域の人が異なる地域のアイルランド語に触れる機会が増え、シャンノースにも変化が訪れます。他の地域の特徴を加え、個々の技術の向上がはかられていったそうです。
 
 シャンノースを歌う時に大切なことはいくつかありますが、その最たるものが装飾音(Ornamentation)です。メリスマ(音のはめ方)、リズム、音のすべり、息の使い方、(特にDonegalにおいて)微分音の利用など、様々な装飾が施されます。歌の解釈は歌い手により様々で、それぞれの解釈によりこの装飾は変わっていくのです。

 最後に、シャンノースは、決してステージの上で歌われるような歌ではありません。家庭内や、パブの隅で、客に背を向けて淡々と歌われます。決して練習するものではなく、あくまで自然に歌う…。シャンノースは、そんなある意味非常に「庶民的」な歌でした。
 ですが、そんなシャンノースも少しずつ変化しています。Sean O'Riadaはシャンノースを皆で歌う、というような文化を作り出したり、また楽器での伴奏つけたりというような試みをしています。


 先ほどのHot House Flowersもそうですが、無伴奏ではないシャンノースの曲も、今のアイルランドには広まっているのです。


 
2.バラッド

 シャンノースはアイルランド語で歌われる歌ですが、バラッドは主に英語で歌われます。
 アイルランドのバラッドの歴史は古く、1626年にはすでに文書記録に残っているそうです。
 このバラッドもシャンノース同様自身の身の回りのことについて歌いますが、その詩的表現と物語性が大きな特徴になります。


 昔は若い人はあまり歌うことのなかったバラッドですが、近年は若年層の間にも広がっているそうです。
 これは個人的な経験ですが、夜が老けてくると、みんなが次から次へとバラッドを歌い出す、そんなセッションもアイルランドにはありました。すごくアットホームな雰囲気で、そんな歌の波に揺られながらカパカパと飲んだギネスは、本当に美味しかったのを覚えています。

 3.フォークソング

 フォークソングは、1960〜1970年代のフォークリバイバルに伴い広まりました。ローカルなアクセントで、自分の地域や生活について、様々な楽器を伴奏に用いて歌われました(蛇足ですが、留学先の大学では、そもそもアイルランドのフォークソングの定義は?なんて授業もありました)。
 とりあえず聞くのが一番かと思うので、いくつか有名なバンドを紹介したいと思います。

Clancy Brothers


 1960年初頭のフォークリバイバルにおいて非常に重要なバンドになります。日本においては後述するThe Dublinersが有名ですが、アイルランドに今フォークソングが根付いているのは、彼らのおかげといっても過言ではありません。

The Dubliners
 当時ダブリンにおけるフォークミュージックの中心となったパブ、O'donoghuesにて結成され、有名になったバンド。過激な歌詞も多く、彼らの十八番である「Seven drunken nights」は当時アイルランドで放送禁止になりました。


 彼らに対するダブリン市民の想いは今も強く、昨年にはダブリンの中心地にボーカルのLuke Kellyの銅像が建てられています。

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 私事ですが、この銅像の前でバンジョー演奏をしていたところ、なんとDublinersのメンバーの息子さんが通りかかり、演奏をめちゃくちゃ褒めてくれた挙句20€(2500円くらい)のお心付けをくれたというハートフルエピソードがあります。


 彼らの歌ったフォークソングは、今でもパプソングとして、夜になるとアイルランドの様々なパブで繰り返し弾かれているのです。

 4.ロック

 実は、アイリッシュ音楽は、ロックとの親和性が非常に高いです。


 こちらの「Whiskey in the jar」という曲、先ほどご紹介したThe Dublinersのバージョンでも有名なのですが、Thin Lizzyというバンドは、これをロックバージョンでアレンジしています。さらにこのバージョンは、世界一のメタルバンド、Metallicaによってメタルカバーもなされています。


 良い歌は受け継がれていく、ということを感じます。

 他にも、Rory Gallagherなどの著名なギタリストもアイルランドで生まれています。


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Rory Gallagherが生まれたBallyshannonという小さな町にある、彼の銅像です。実際に行ったけど、本当に小さい田舎町…!!

 また、世界的ロックバンドとして有名なU2「Sunday Bloody Sunday」という曲も聴いてみて欲しいです。


 僕はアイルランド留学時代、最後のレポートで「この曲がとってもアイルランド音楽である理由」に関して英語で特大レポートを書かされたので(辛い記憶とともに)印象に残っています。
 この曲は北アイルランドの街Londonderryにおいて、デモ行進中の市民がイギリス陸軍落下傘連隊に銃殺された「血の日曜日事件」について歌っています。この背景にはアイルランドとイギリスの長きにわたる歴史があるのですが、そうした事件について彼らは歌を通して声を上げました。

 また、同じように、アイルランドに関する事件について歌ったバンドがいます。それがThe Cranberriesです。


 この「Zombie」は、イギリスのウォリントンの町において起きた、IRA(アイルランド独立戦争を行なってきた武装組織です。この辺りの説明も、先ほどのアイルランドの歴史が大きく関わってくるので、ぜひ調べてみて欲しいです…!いつか誰かこのnoteで書いてくれないかな…)が仕掛けた爆弾テロ事件に対する思いを歌った歌です。YouTubeでは現在10億回以上再生され、今でも多くの人に愛される歌となっています。

 今回、スペースの関係もあり説明できないのが残念なのですが、まさに、アイルランドの歌文化は、アイルランドの歴史と密接に関わっているのです。アイルランドの歌を学ぶことは、まさにアイルランドという土地の歴史と生活、文化に身を浸すことに直結するのだと、改めて感じます。

③まとめ アイルランド音楽とは?

 アイルランドの歌の話をしているうちに、ずいぶん遠いところへ来てしまいました。

 最後に、まとめに変えて、一つだけ確認したいことがあります。
 皆様にとって、アイリッシュ音楽ってなんでしょうか?

 無印良品で流れている音楽?Lúnasaとかが演奏するような音楽?ケーリーの時にケーリーバンドが演奏している音楽?パブセッションで皆が弾いてる音楽?

 「Lúnasaが演奏しているような音楽は、伝統に反している!そんな音楽を聴いていないで伝統をもっと知るべきだ」

 という意見を前にアイルランド音楽を演奏する方から聞いたことがあります。「ダンス音楽であるアイルランド音楽をやる以上、ケーリーに参加しないとアイリッシュ音楽は極められないよ!」と言われたことがあります。
 もちろん、それらは間違っていないと思います。アイルランドという国の音楽を掘り下げて学ぶことは非常に大切なことです。

 ですが、僕にとってアイルランド音楽は、実はもっと幅広いものです。血の日曜日事件に声を上げたU2やThe Cranberriesはアイルランド人の心の支えです。アイリッシュパンクの雄The Poguesは実はイギリス人だけど、それでもアイルランドの音楽として現地の人々に享受されています。

 僕が現地で習っていた教授は、「アイルランド音楽のアイルランド音楽性は、比較的小さなコミュニティにおける知覚にすぎない」と言っていました。その時代、場所によって、アイルランド国内でも、きっと様々なコミュニティにおける「それぞれの」アイルランド音楽があったことでしょう。そして、そうした中で教授は、私たちのような"Outsider"が、新しい視点の解釈から音楽の可能性を広げることに関して、非常に肯定的である旨を最後の授業で伝えてくださりました。
 今僕らが享受する伝統は、当時は革新でした。そして、それを繰り返して、伝統は進化していくのです。

 もう一度聴きます。あなたにとってアイルランド音楽とはなんですか?

 今回は歌というあまり日本では広まっていない文化を紹介しましたが、歌に限らずとも、アイルランド音楽はこれだ!と決めつけないで、色んなものを吸収してみると、視野が広がって、もっと楽しくなるんじゃないかなぁ、と思います。ぜひ今日紹介した歌も含めて、今まで聞いてこなかったジャンルのアイルランドの音楽を聴いてみてください!

(ハマらなかったらその時はその時です)


次回予告

 次回はいーちゃんによる「コネマラステップ”+α”編 〜YouTube動画を徹底解説!〜」をお送りします!日本語ではこれまで中々得られなかった情報が目白押しになること請け合いなので、ぜひご覧ください。


#土曜夜にアイルランドを語る

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