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学びある人よ、ありがとう
その人は二軍球場にいた。右手にはグラブ、左手はボールではなくタオルを持っていた。懇意にしている後輩の同じ左腕とブルペンに並び、呻吟しながら何度もタオルを振り込んでいた。別の日は高卒や大卒すぐの選手の集団の最後列にいた。私語の止まらない、なかなかエンジンのかからない後輩たちに「頑張っていこうよ!」と声をかけていた。決してえらぶったり、怒ったりせず、引っ張るのではなく背中を押すように若手を鼓舞していた。最後列から誰よりも一生懸命ダッシュをしていた。
この人は選手生命の限り、いや、選手としてのキャリアが終わってからもずっとジャイアンツにいる人だと思っていた。彼を慕って自主トレに同行する後輩左腕もいた。
2018年の暮れ、寒空の下でランチの列に並んでいた時、スマホに人的補償で西武へというニュースを見たのを覚えている。狼狽した。その2週間ほど前、彼は冒頭の懇意にしていた後輩左腕の引退セレモニーで花束を渡し涙の抱擁をしていた。なぜ彼をプロテクトしていなかったのかと球団を恨めしく思った。しかし彼は、「西武という強い球団が僕を必要としてくれたのは光栄です」という謙虚極まりないコメントを出し、誰を恨むことなく、新天地へ移籍した。
リーグが変わり、月日が流れ、徐々に彼の動向がニュースに挙がることは少なくなった。西武で選手兼任コーチになったと聞き、選手としての日々は決して長くないという思いは出始めていた。
昨年6月、交流戦に西武の先発でその人は東京ドームのマウンドに帰ってきた。投げる前の球をこねる仕草も、見惚れるような長身も、全身を使う正統派のピッチングフォームも、全てがその人だった。脳に焼き付けるようにその姿を見た。
今朝、その人の引退報道が出た。くる時が来たと言う思いと、もう少し見たい思いと、まだ今日も狼狽している。
その人の名は、内海哲也。
凄腕サウスポーでありながら皆に慕われる人格者。
月並みな言葉ではいい表せない思いが込み上げる。
まだこれを書いている時点では本人からのコメントなどは出ていない。どうか良きセカンドキャリアでありますようにと願うと共に、ボロボロになっても諦めない美しさや人への配慮を学ばせて下さったことに感謝したい。
ちなみに、彼が懇意にしていた後輩は、今、ジャイアンツのベンチで有能な投手コーチをしている。