専業主婦

結婚15年目、専業主婦になって10年。
こども3人と旦那と私5人暮らし。
旦那はこのご時世に珍しく専業主婦万歳野郎である。自分が稼いでくるから、妻にはおうちのことをしっかりしてほしい、という希望に私も賛同して、
今まで紆余曲折ありながらも、仲良くやってきている。
故に家事育児全般を請け負っている。

私自身、食べることが好き。
料理も下手くそながらも、否が応でもレパートリーは増えるというものである。
一番上のこどもが産まれてから今まで、常に誰かの為にご飯を作り続けてきた。

今年度から、一番下のこどもが給食のある園に入園した。
感染症対策による登園自粛が緩和され、2ヶ月後れで無事登園したあと、家にいるのは私1人になった。
自分の昼食は、納豆と卵と葱を乗せたご飯でじゅうぶんである。
自分の為だけに栄養バランスを考え、献立を決め、まな板と包丁を使い数種類の食材を切り、火の前に立ち、彩りを考えて盛り付ける気は、毛頭無い。

只、今日の我が家にはアボカドがあった。
そういえば先日レシピサイトで見た、アボカドのカルボナーラがとっても美味しそうだったのを思い出す。
でも家族5人うち2人はアボカド嫌い。
ブラックペッパーも大量に使うし、家族皆で食べるには不向きなレシピ…
なら作るのは今しか無いだろう。
ちょっとウキウキしてきた。

パスタを表示通り5分茹でる。

アボカドはナイフを入れた瞬間、潰すのにドンピシャな熟れ具合なのがわかり、ついニヤリとする。
クルリと種のまわりに刃を一周させ、カパッと開いた瞬間目に飛び込んでくる美しい緑色。
いらぬ傷も無く、皮が綺麗に剥がれるときの快感。
アボカド買うのって、毎度賭けだと思うんです。
日常的に何か能力がレベルアップしますよ何の能力欲しいですか、と聞かれたら、
間違いなく「野菜果物の熟れ具合が一目で分かる眼力」
が欲しいもの。

いや、今はそんな話じゃない。

お気に入りの透明な耐熱ボウルにアボカドを入れ、卵黄、オリーブオイル、塩コショウを入れて混ぜる。
ベーコンとすりおろしたニンニクをオリーブオイルでカリカリに炒める。
ニンニク。
最近生の国産ニンニクを買ったり貰ったりする機会が度々あってよく使うのだが、なんなんアイツ。
あの一欠片だけで嗅覚全部もってかれるアイツ。
火を通したら家中、それどころか換気扇からお外に向かって半径3メートルは、幸せな匂いに包みこむアイツ。
皮向いた手の匂いだけでビールが飲めてしまう。
ん?もしかしたらニンニクの匂いで幸せを感じるのは酒飲みファミリーだけなのだろうか?
だとしたら公害以外の何ものでもない。

いや、今はそんな話じゃない。

それらを全て粉チーズと合わせたら、アボカドカルボナーラの完成である。

真っ白なジノリの平皿にうず高く山盛りにして写真でも取ろうかと思ったのは一瞬で、耐熱ボウルのままダイニングテーブルへ。

スープもサラダも、体型が気になるアラフォー主婦こそ摂れと言われるだろうが、今日はいらない。
流石に平日午前中からワインを開けるのは憚られ、グラスに氷水を注ぎ、いただきます。

一口頬張るとニンニクの香りがふわぁと広がり、
ベーコンとチーズの塩気がパスタにマッチ。
しっかりコクがあるのにくどくないのは、アボカドのおかげかしら。
あぁ、庭のプランターで伸び放題のパセリも散らせば良かった、と思いながらも、ものすごい勢いでガツガツ食べてしまった。

美味しかった。

このところ外出自粛が続き、こども+テレワーク旦那のご飯を作り続けていた。
1日30品目は到底無理でも三食全員の栄養と好みを考えてソーシャルディスタンスを保ちながら買い出しするだけで、結構な労力である。
10キロの米は10日で消えるし、肉もまとめ買いして冷凍したはずなのにすぐ消える。
旬の春野菜も果物も美味しいのですぐ消える。
旦那の焼酎も自分のウィスキーもすぐ消える。何故。
外出自粛なのに生きるためにガンガン外に出て買い出さねばならない。何故。
小学生以下3人のこどもでこれだもの。
食べ盛り中学高校男子3兄弟を持つ友人や、じじばばさまと同居7人家族の友人達は、どうやってご飯作ってたんだろう。
尊敬。

更に上の子達にはお手伝いという名目で、包丁や火の使い方を教え、事故や怪我が無いように幼児の相手もするのというのは、中々しんどかった。
あぁ、学校様々給食様々。

そんなこんなで10年間、あんなに待ち遠しかった1人のご飯時間。
高級ランチでも噂のデリバリーでもない。
アボカド100円
ベーコン50円
調味料全部足しても200円台であろう、
自分の為だけに作ったパスタをお腹いっぱい食べた。
満足した。
幸せな気分になった。
これが、ゆたかさなのかなと思ったのでnoteに書いてみた。

旦那は結婚してからずっと、家計を私に任せている。
と言うと聞こえはいいが、通帳から給与明細まで全て丸投げである。
お小遣い制でもなく、無くなったらちょうだいシステム。
でも酒とタバコと、少しの歴史小説と洋服にしか使わない。
旦那の勤め先はとても黒い企業な為、お給料はある。長期出張が多い。人使い荒い。福利厚生しっかりしている。
しかしお金を使う時間が無いのである。
若い頃こそよく飲みに出歩いていたが、
ここ10年の旦那の幸せは、家族皆が元気で笑顔で遊んで、皆で美味しくご飯を食べることである。
それをサポートするのが私の仕事だとすれば、日々の出納を管理し、今後の家計のシミュレーションをする。
まだこどもたちの勉強も習い事も、私が見れる範囲である。
程々にゲームもして、マンガも読み、今後の旅行やライフイベントに備える。

外に出て働くことを止めてから、お金の計画が楽しくなった。
そういえば元々旅行の計画も結婚式の計画も、なんなら住宅ローンの計画も私の仕事だ。
保険も定期積金も投資信託も年金も、全て私が勉強して案を旦那にプレゼンして採用を受けるのだ。
そして今になって思うが、私はそれが苦ではない。
全力で人生を楽しむ為に、そこそこ考えながら生活している。
そこにやりがいを感じている。失敗することもあるが、軌道修正することを厭わない旦那のおかげで、柔軟に対応できたりする。
多分、そういう生活が窮屈だったり苦手だったりする人もいる。
私も最初からうまく生活がまわっていた訳ではない。
勿論価値観の違いでぶつかることもあるし、自分が体調を崩したときには家事すら辛くて泣いた。
離婚が頭を過る出来事もあったし、分かり合うために話し合うことに疲弊もした。
でもそんな日々の積み重ねで今の生活がある。


私が今の生活で満足しているのは、神経質でポジティブ時々適当、というこんな性格に産んで育ててくれた両親と、家族に惜しみ無い愛とお金を与えてくれる旦那と、全てを吸収して大きく育ってくれているこどもたちのお陰である。
どれが欠けても今日のパスタは美味しくなかった。
教育を受けさせてくれて、遠距離の結婚を認めてくれてありがとう両親。
専業主婦という仕事に自信を持たせてくれてありがとう旦那。
ケンカしながらも元気で生きててくれてありがとうこどもたち。

今後はどうなるか本当にわからない。
半年前ですら、今の生活は想像してなかったのだから。
だからこそ私にとってゆたかさとは、
「今の生活があること」
である。
ゆたかさは形を変えながら、ずっと私の近くにある。

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