見出し画像

《七夕》 ”願い事”

 緊張で痛む腹部を手で押さえ、待ち合わせ場所に向かう。 

 昨日は、眠れなかった。久し振りに会うから。 「何を話そう?何処に行こう?」って何度も繰り返しては、また1から考える。不安もまた一緒にいるみたいだ。 

「真っ直ぐ進めば良い」そうは思うのだけど、迷い遠回りする。 

 この服似合ってる?髪型は?匂いは?お金持った?鞄の中は? 

 僕は、真っ直ぐに進めない。だって、毎回が初めての事ばかりで、何かしら失敗するポンコツだって分かってるから。 

 何度も不安を煽る僕と腹部を押さえて、歩幅を広げた。 

 昨日今日、出会った人じゃない。もう何年も何十も会った。それでも毎回緊張する。
 
 僕が通り過ぎた時、笹に結ばれた短冊が風で揺れた。 

 今の僕は、君と一緒に考えた短冊に収まらない程の願い事さえも叶えられない。せめて、僕が僕に課した約束の言葉だけは守らせて。 

 橋の上で君を探す。
 祭りの合図は、待ってくれない。 

 スマホに視線を落とし、お洒落した君が居た。
「久し振り。待たせた?」 

 顔を合わせた君は、僕に言う。
「遅すぎ」 

 腕時計を確認する。予め決めてた時間より早いけど、遅かったらしい。
 君は誰よりも、この日を待ちわびてたんだ。意地悪な一言や二言を受け止め、離れ離れだった時を会話から埋め始めた。 

 僕の願い事は、君と永遠の為に尽くす。


サムネ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?