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この世界で最も価値ある千円札の使い方
千円。
それは、僕がお金を使うときの気軽度が一段上がる金額だ。
「このメニューは900円か、よしこれにしよう!」が「美味しそう!でも1000円かぁ、うーむ・・・。行ってしまうか」といった感じ。
硬貨から紙幣に変わる瞬間、「いやちょっと待てよ」が発動する。
40歳にもなってみみっちいようだが、ながらくそうなのだから仕方がない。
そんな僕にとって、この千円を迷わず投じるべき、最も価値ある使い方が決定した。
それは、「ドライブスルー洗車」だ。
5月、もう雪の心配がほぼなくなり、それにともない雪跳ねによる激烈な車の汚れは発生しなくなる時期。
我が家では車をドライブするー洗車機に通すことにしている。
家の前の坂をくだって、最初の信号機がある交差点。
その門にいつも利用しているガソリンスタンドと洗車機がある。
同じことを考えている人が多くいるのか、今時期の洗車機はいつも行列している。
最後尾に車を付け、順番を待つ。
「さて、今日はいくらのにしようかなぁ」
ここの洗車機にはいろいろなモードがある。
一番安い洗車モードは500円から、一番高いのはグラスコート付きの2000円まで。
普段の僕であれば、迷わず500円モードだ。
しかし、今回はちょっと気分が違った。
「せっかくお客さんも来るし、いつもよりいいもの使ってみるかぁ」
2000円ボタンは、僕の中の「いやちょっと待てよ」防衛隊が暴動を起こすので、ここは1000円の「泡もこ撥水コーティングモード」をポチッと。
いよいよ洗車が始まる。
洗車機が車の上をウィーン、ババババ、もこもこ、ジャーっと過ぎ去っていく。
完了。
運転している僕に、仕上がりはまだわからない。
ガソリンスタンドを出て、坂を登って帰宅。
車から降りる。
そして驚く。
「新車がある!あの砂埃にまみれた、購入時にはすでに10万キロを超えていた中古の愛車が新車になっている!」
500円モードとは紙飛行機とボーイング787くらい次元が違う。
満ち足りた気持ちで、家の中へ。
幸枝さんに見せるのが楽しみだ。
しばらくして、2人でお客さんをお迎えに行く。
家から出て車に向かう幸枝さん。
ニヤニヤする僕。
「え、これうちの車?どこかの業者さんの車が停まっているのかと思った!」
「でしょ、これ、1000円の泡もこ撥水コーティングモード!」
「いいねぇ、500円の倍の価値はあるねぇ」
こうして、この世界で最も価値ある1000円札の使い方は、洗車機の「泡もこ撥水コーティングモード」と決まったのだった。
ドライブしながら窓を全開し、ちょっとだけ車体に触れて、最高のツルスベ感を味わい「うーん、新車みたい」と思えるのも高評価だ。
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(登場人物)
ぼく:東京大学で農学博士取得後、ベンチャーで8年勤務。その後、北海道で新規就農。
幸枝さん:ぼくの妻。北海道大学で生命科学修士、ぼくと同じベンチャーで同期入社。2015年に結婚。
つむぎ:4歳の長男。北海道で元気いっぱいに成長中。電車、働く車、飛行機など乗り物大好き。
スピカ:3歳の猫。女の子。網走の病院で保護されていたところからぼくの家にやってくる。
櫂:1歳の次男。長男が騒ぎ回る横で、どっしりと寝ている大物感を漂わせる。
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