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山田組文芸誌 第6号「ライバル」

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2019年に発足された文芸部です。現在は会員4人、準会員1人で活動しています。指定されたテーマに沿って小説を書き、季節ごとに文芸誌を発刊します。
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記事一覧

初恋

初恋

「あたし松山に行く」
 美沙子がそう宣言すると食卓が静まりかえった。
「美沙ちゃん、急にどうした?」
 夫の高志がご飯茶碗を手にしたまま当惑顔で言った。
「行けばいいじゃん。たまには水入らずでのんびりして来なよ」
 次女の佳音は長い腕を伸ばしてきんぴらごぼうを取ろうとしていた。韓国のテーマパークでダンサーをしていたが、祖母の葬儀に帰って来たまま戻れずにいた。今は近くのコンビニでアルバイトをしている

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マネキン・コンプレックス

マネキン・コンプレックス

 手元のマスクを二枚持って仕方なく立ち上がり、俺は玄関に向かった。
 いや、玄関とは名ばかり、扉一枚の向こうはもはやアパートの廊下である。古ぼけたアパートに似つかわしい木製のドアを、誰かがせわしなく叩き続けており、それがあまりに鳴り止まないせいだろうか、音はいつしか俺の内部でこだまになっている。
 とんとんこん、こんこんとん、こんとん。
 名前が呼ばれない以上、彼女のわけがない。あの娘はまだここの

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バトルロイヤル

バトルロイヤル

『繰り返す!これより、この島で生き残りを賭けたバトルロイヤルを行う。繰り返す!これより、この島で生き残りを賭けたバトルロイヤルを行う』(ブーーーッ)

〈0年目〉
 真下からは、既に発砲や爆撃の音が聞こえる。そんな戦場の中へ、次々と突入していくパラシュートたち。それに見倣い、僕も(なるべく下を見ないようにしつつ・・・)バトルシップから飛び降りる。「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃああああああああああ!」

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