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山田組文芸誌 第7号「映画」

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2019年に発足された文芸部です。現在は会員4人、準会員1人で活動しています。指定されたテーマに沿って小説を書き、季節ごとに文芸誌を発刊します。 第7号のテーマは『映画』
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【山田組アカデミー賞】高平 九

【山田組アカデミー賞】高平 九

私、高平九の大好きな映画2本を紹介します。

『ポケット一杯の幸福』(1961年アメリカ)
原題 Pocketfull of Miracles
監督 フランク・キャプラ
出演 グレン・フォード、ペティ・デイヴィス、ピーター・フォーク他

 初老のリンゴ売りアニー(ペティ・デイヴィス)はイギリスにいる孫娘に自分はホテル暮らしの裕福なレディだと嘘の手紙を送っていました。あるとき孫娘が婚約者をアニーに引

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ロードショー(著:二宮 弘人)

ロードショー(著:二宮 弘人)

 灯りの落ちた客席の椅子から、思わず腰を浮かしそうになった。大画面に繰り広げられている仮想現実と、シートに座っている現実。あちらとこちら。私は徐々に、その境目を見失いつつあった。

 肘掛けをつかんだ右手の上に、あたたかく柔らかな手がふわりと添えられた。ほっとゆるんだ次の瞬間、「突撃!」という、声にならぬ絶叫が、シアターに轟いた。銀幕に映し出される戦闘場面。息を飲む。かろうじて立つのは控えた、と言

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【山田組アカデミー賞】二宮 弘人

【山田組アカデミー賞】二宮 弘人

「めぐり逢えたら」を推す。一九九三年、アメリカ映画。妻を亡くした男サム・ボールドウィンにトム・ハンクス、新聞記者アニー・リードにメグ・ライアン。冒頭のシーンはメモリアルパークに立つ父と幼い息子。カメラワークはクレーンでスライド。シカゴの大都会が遠景に現れる。BGMはピアノソロの「Stardust」。最愛の妻を失い一年半、シアトルに引っ越しして心機一転を図るも、眠れない夜を重ねる主人公サム。 
 時

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十二年越しの伏線回収 (著:千秋 明帆)

十二年越しの伏線回収 (著:千秋 明帆)

『十二年越しの伏線回収』 千秋 明帆

 隣で動く気配がしても、前を見つめつづけた。

 白黒しかない画面の中で浮かび上がるThe Endの文字と共に右側だけ沈み込むソファーも、薄暗い部屋に落ちる衣擦れの音も、左頬を照らした蛍光灯の眩しさも、何もかもを無視して前だけを見つめる。

「じゃあね。」

 静かな声は、肩をひと撫でして去っていった。

 エンドロールすら無い、余韻に満ちた物語の終わり。止

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【山田組アカデミー賞】千秋 明帆

【山田組アカデミー賞】千秋 明帆

定期的に観てしまう映画ってある。お気に入りのシーンだけ見たり、作業中に流したり、とりあえずみたいやつとか。今回の原稿中はメイドインアビスとか竜とそばかすの姫とかプロメア、天外者、あと原稿のためにローマの休日も観てました。サブスクはいいぞ。

定期的に、というと『コンスタンティン』が好きだ。キアヌ・リーヴス主演の映画で、2005年製作、原案はアメリカンコミック『ヘルブレイザー』(Wikipediaよ

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ドリーム座の休日(著:高平 九)

ドリーム座の休日(著:高平 九)

ドリーム座の休日 高平 九

 夢見橋の石の欄干にもたれて川の流れを見ていた。昨夜の大雨のせいでいつもよりずっと水面が近く見える。寛之は濁った水の勢いに焦りのようなものを感じて川の終点である港の方角に目を移したが灰色の空以外には何も見えなかった。

 午前七時。雲が空を覆っているので今はそれほど暑くはない。予報では昼にはまた晴れるそうだ。寛之はショルダーバッグからペットボトルを取り出しマスクを顎に

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