カタクリタマコ

図書館司書です。本を読んで思ったこと、考えたことなどを綴ったりしています。ベストセラー…

カタクリタマコ

図書館司書です。本を読んで思ったこと、考えたことなどを綴ったりしています。ベストセラーから遠く離れた場所で、誰かに読んでもらう日を待ちわびている。そんな片隅の本を紹介できればな、と思います。好きな作家は開高健とヘミングウェイ。みすず書房と新潮クレストのファンです。

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記事一覧

垂れ流せる勇気。

ものすごく好きな作家がいる。 嘉村礒多(かむらいそた)という。 明治から昭和にかけて活躍した私小説作家である。 といっても、作家生活はたったの6年。享年36歳。 生…

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来歴のわからない本。

私の手元には、来歴のわからない本がいくつかある。 どうやってその本を知ったのか。 どこで買ったのか。 買おうと思った動機はなんなのか。 自分のコトなのだが、さっぱり…

回復するとは、自分を発見することなのかもしれない。

なんて、静かな本なんだろう。 たぶん、騒がしいカフェの一角で読んでいたとしても、その本は周りのすべての音を吸い取ってしまうだろう。 闇、という文字が頭に浮かんだ。…

31

宝くじで高額当選したら、こういう本屋さんを開きます。絶対。

学生時代、私は「ぼっち」であった。 教室のすみっこで、一人ぼーっと本を読んでいるのが何より好きだったのだ。 本音を言えば、誰かと話したくはあった。 「聞いて聞いて…

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作家と恋をするということは。

古今東西、どんな人とでも恋愛関係になれるとするならば、私は絶対「開高健」がいい。 氏の書く文章の醸し出す得も言われぬ雰囲気と、ウィットに富んだ内容、ユーモアのセ…

49

ビジネス書って、おかんの味がする。

ふだんは専ら小説ばっかり読んでいるのだけれども、ふと、ビジネス書の棚に吸い寄せられることがある。 そういう時は、たいてい心にモヤモヤがあるときで。 ビジネス書の…

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「光る君へ」の艶めかしい小道具、手紙。

気が付くと、日曜日を心待ちにしている自分がいる。 今年の大河ドラマ「光る君へ」が楽しみで仕方がないのである。 文学ヲタクの自分にとって、主人公が紫式部というだけ…

38

本のミライのために、できること。

スターツ出版という出版社をご存じだろうか。 透明感のある綺麗で可愛らしい表紙と、少女漫画的展開がてんこもりな小説が売りの出版社である。(たぶん。読んだことないけ…

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『推し、燃ゆ』のあのセリフって、こういうことだったんだわ。

昨年末からずっと、鬱々として過ごしていた。 何にもやる気が起きない。 何を食っても美味しくない。 本を読んでものめり込めない。 noteに記事を書くどころか、パソコンを…

31

初めて読んだときのこと。

何年も、通い続けているごはん屋さんがある。 大通りから少し内に入ったところにある、小さな四川料理屋さんだ。 そこの水餃子が、絶品なのである。 特製ラー油と黒酢がた…

38

クソみたいに報われない仕事について。

しんどい。 シット・ジョブで働くってことは、とんでもなくしんどい。 まるでボクシングだ。 シット・ジョブというリングに立ったら最後、身も心も打ち砕かれる。 完膚なき…

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ピュリツァー賞作家だろうと、書くことは難しい。

毎年、年始の目標に 「noteを毎週更新する」 を掲げている。 それをもう三度も繰り返してきたのだが、一度も達成できずにいる。 なぜか。 書けないからだ。 どうしても。…

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読書は決して穏やかな趣味じゃないぜ?

はじめまして。カタクリタマコです。 小さな町の図書館で、司書として働いています。 趣味は読書です。よろしくお願いします。 はい。ここであなたに質問。 今、あなたの…

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本を読んだら人生変わるっての、ホントだった。

その本を読んで迎えた次の日の朝。 休日だというのに、私はいつもより一時間早くベッドから起きだした。 カーテンの隙間からのぞく空の色が、特別に青く澄んで見えたから。…

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私の中のあなた。

20代のころ、私は毎日日記をつけていた。 当時、文章でなにかしら職を得たいと思っていたので、心の整理が5割、文章修行が5割という、フィクション臭がする日記であっ…

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たぶん、誰もが楽園を探してる。

ゴーギャンの絵を初めて目にしたのは、たぶん、小学生の時。 美術の教科書で、だったと思う。 タイトルは忘れてしまったけれど、たしか女の子の絵だった。 物憂げな瞳で、…

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垂れ流せる勇気。

ものすごく好きな作家がいる。 嘉村礒多(かむらいそた)という。 明治から昭和にかけて活躍した私小説作家である。 といっても、作家生活はたったの6年。享年36歳。 生前はまったく注目されなかった非業の作家だ。 キャッチフレーズは「私小説の極北」。 彼の作品(32編の小説と、42篇の随想)は、すべて本当の事で出来ている。嘘偽りは一切なし。思ったこと、感じたこと、やったこと、やられたこと、全部、そのまんま書いている。 私生活の垂れ流しだ。 昔から読書狂だったので、人に乞われて本

来歴のわからない本。

私の手元には、来歴のわからない本がいくつかある。 どうやってその本を知ったのか。 どこで買ったのか。 買おうと思った動機はなんなのか。 自分のコトなのだが、さっぱりわからない。 「おい、君はどうしてここに来たんだい?」 なんて尋ねてみるけれど、もちろん本はだんまりをきめこんでいる。 今、読んでいるのも、いつのまにかうちの子になっていた一冊。 『映像のポエジア 刻印された時間』 (アンドレイ・タルコフスキー著 鴻 英良訳 ちくま学芸文庫) 著者は、ソビエト・ロシアのとても有

回復するとは、自分を発見することなのかもしれない。

なんて、静かな本なんだろう。 たぶん、騒がしいカフェの一角で読んでいたとしても、その本は周りのすべての音を吸い取ってしまうだろう。 闇、という文字が頭に浮かんだ。 あらゆる音を、閉じ込めてしまう門。 『回復する人間』(ハン・ガン 著 斎藤真理子 訳 白水社) は、そういう意味で闇の本だ。 しかし、その闇は黒ではない。 青だ。青の群れ。 光も音も届かない、群青色の海の底。 『回復する人間』には、7つの短篇が収められているのだが、そのいずれの主人公も傷を抱えている。 ガンの再発

宝くじで高額当選したら、こういう本屋さんを開きます。絶対。

学生時代、私は「ぼっち」であった。 教室のすみっこで、一人ぼーっと本を読んでいるのが何より好きだったのだ。 本音を言えば、誰かと話したくはあった。 「聞いて聞いて、昨日さ~志賀直哉の『暗夜行路』読んだんだけど、アレ、マジで最高だったんだけど!」とか 「私の夢はさ~谷崎潤一郎の『痴人の愛』の譲治になることなんだ~。ナオミじゃなくて、ジョージの方ね。隷属したいのよ~」とか 「川端康成の『伊豆の踊子』の書き出し、神じゃね? あーゆーの書けたら死んでもいい!!!」とか。 教室のま

作家と恋をするということは。

古今東西、どんな人とでも恋愛関係になれるとするならば、私は絶対「開高健」がいい。 氏の書く文章の醸し出す得も言われぬ雰囲気と、ウィットに富んだ内容、ユーモアのセンス、すべてが好きだ。 しゃべり方も好きだ。唯一無二なハイトーンボイスも好きだ。 見た目も好きだ。 なによりも、氏の小説を初めて読んだときの、痺れるような感覚が忘れられない。言葉のひとつひとつが、雨粒のように私の中に浸み込んでいくようで。読み進めていくうちに、もう、彼は私の血液になった。 ああ、もう一生引きはがすこと

ビジネス書って、おかんの味がする。

ふだんは専ら小説ばっかり読んでいるのだけれども、ふと、ビジネス書の棚に吸い寄せられることがある。 そういう時は、たいてい心にモヤモヤがあるときで。 ビジネス書のタイトルは、ちょっとした応援歌だ。 眺めているだけで元気がもらえる。 たとえば 『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』(草薙龍瞬 KADOKAWA) 『限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン かんき出版) 『「後回し」にしない技術』(イ・ミンギュ他 文響社)・・・。 力強いフ

「光る君へ」の艶めかしい小道具、手紙。

気が付くと、日曜日を心待ちにしている自分がいる。 今年の大河ドラマ「光る君へ」が楽しみで仕方がないのである。 文学ヲタクの自分にとって、主人公が紫式部というだけでも「要チェックや!」なのだが、もう初回から度肝を抜かれた。 いきなりの超衝撃展開。(ネタバレなので詳細は伏せます) その結果、心に影を背負うことになる主人公のまひろ(後の紫式部)。 文学を志すものは、たいてい何かしら闇を抱えているものだが、おお、まさか紫式部にこんなにハードな闇を背負わせるとは・・・。 吉高由里子

本のミライのために、できること。

スターツ出版という出版社をご存じだろうか。 透明感のある綺麗で可愛らしい表紙と、少女漫画的展開がてんこもりな小説が売りの出版社である。(たぶん。読んだことないけど) 最近だと『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が大ヒットした。 映画もかなり長いことランキングに入っていたと思う。 (たぶん。観たことないけど) むかーし昔、その昔、『恋空』というケータイ小説が流行ったが、あれの出版社でもある。 当時、私は書店員として働いていた。 そのころから、すでに出版業界はジリ貧

『推し、燃ゆ』のあのセリフって、こういうことだったんだわ。

昨年末からずっと、鬱々として過ごしていた。 何にもやる気が起きない。 何を食っても美味しくない。 本を読んでものめり込めない。 noteに記事を書くどころか、パソコンを開くのさえ億劫。 ああああああ、私、一体どうしてしまったんでしょう。 はっ、まさかコレがうわさの更年期ってやつ???? 体調もすこぶる悪かったので、とりあえず医者に診てもらう。 丁寧な問診の結果、不眠症とのこと。 軽い睡眠導入剤を処方され、一月ほど飲み続けていた。 これがまあ、素晴らしく効く。 ベッドに入っ

初めて読んだときのこと。

何年も、通い続けているごはん屋さんがある。 大通りから少し内に入ったところにある、小さな四川料理屋さんだ。 そこの水餃子が、絶品なのである。 特製ラー油と黒酢がたっぷりかかった、金魚みたいに可愛らしい水餃子。 いつ食べても、何度食べても、本当に美味しい。 あんまり美味しいので、どうしても声が出てしまう。 「ほんっとうに、ここの餃子は美味しいですね!」 給仕のお姉さんは、忙しそうに動き回りながら、それに笑って応えてくれる。 こんなに美味しい餃子に出会えて、私は幸運だ。 と、思

クソみたいに報われない仕事について。

しんどい。 シット・ジョブで働くってことは、とんでもなくしんどい。 まるでボクシングだ。 シット・ジョブというリングに立ったら最後、身も心も打ち砕かれる。 完膚なきまでに。 『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』(ブレイディみかこ著 KADOKAWA)は、読んでいるこちらまで真っ白に燃え尽きそうになってくる一冊だ。 シット・ジョブとは、クソみたいに報われない仕事のことをいう。 社会的ヒエラルキーがクソだったり、お給料がクソだったり(仕事のキツさに対して割に合わない)、人間関係

ピュリツァー賞作家だろうと、書くことは難しい。

毎年、年始の目標に 「noteを毎週更新する」 を掲げている。 それをもう三度も繰り返してきたのだが、一度も達成できずにいる。 なぜか。 書けないからだ。 どうしても。 書くことがないのではない。 書きたいことはある。 が、「書きたいように書けない」のである。 私がnoteに綴るのは、ほとんど読書感想文だ。 なので、本を読めば自動的に書きたいことは増える。 私は本を読みながらメモをつける習慣があるので、それを見返せば何かしら文章は紡げるはずなのである。 それなのに、

読書は決して穏やかな趣味じゃないぜ?

はじめまして。カタクリタマコです。 小さな町の図書館で、司書として働いています。 趣味は読書です。よろしくお願いします。 はい。ここであなたに質問。 今、あなたの頭の中に浮かんだ「カタクリタマコ」像ってどんなんですか? おそらく八割がたの人が、黒髪、メガネ、紺かグレーのセーターに黒のスカートを合わせちゃう感じな地味子で、声は小さめ。クソ真面目というか、単に頭が固くてたぶん卑屈、休みの日は家から一歩も出ない超インドア派な、イマジナリーフレンドはいっぱいの陰キャを想像したので

本を読んだら人生変わるっての、ホントだった。

その本を読んで迎えた次の日の朝。 休日だというのに、私はいつもより一時間早くベッドから起きだした。 カーテンの隙間からのぞく空の色が、特別に青く澄んで見えたから。 私の休日は、もっぱら「丸一日パジャマでごろ寝」なのだが、今日の私はちょっと違う。 一張羅のワンピースを着込み、きちんとメイクをして、県でいちばん大きな街へ行く。 そこで開かれるお祭りに、十年ぶりに行ってみようと思ったのだ。 人混みが苦手な私にとって、お祭りに行くというのは、かなりの心づもりを要する。人と約束でもし

私の中のあなた。

20代のころ、私は毎日日記をつけていた。 当時、文章でなにかしら職を得たいと思っていたので、心の整理が5割、文章修行が5割という、フィクション臭がする日記であった。 時々、押し入れの奥からそれらを引っ張り出して読み返してみる。 「おー、あのころはこんなつまんねえことに悩んでいたのかー、若いね」 「ああ、当時は三代目にゃんこ、元気だったんだなあ」 なんて感慨とともに、私は自分が綴った文章の中にいる「あなた」の存在に赤面してしまう。 モレスキンのノートに、ブルーブラックの万年筆

たぶん、誰もが楽園を探してる。

ゴーギャンの絵を初めて目にしたのは、たぶん、小学生の時。 美術の教科書で、だったと思う。 タイトルは忘れてしまったけれど、たしか女の子の絵だった。 物憂げな瞳で、こちらをぼんやり見つめている。 その彼女の顔の暗さと、全体の色彩の淀みが、私にはとても怖かった。 お化けとか、妖怪とか、そういった類の怖さであるとともに、見てはいけないもの、いかがわしいものが持つ禍々しさがあった。 まさかそれが、彼の女神で、彼の楽園を描いたものであったなんて、当時の私が知ったらどう思っただろう。