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ブランディングとメディアプランニング


I. 企業ブランディングにおけるメディアプランニング

以前にもお伝えした通り、私は根っからのオグルヴィファンなのでブランディングへの基本的なスタンスは下記の一文の通りです。

"Every advertisement is part of the long-term investment in the personality of the brand."

すべての広告は、ブランドの個性に対する長期的な投資の一部である。

David Ogilvy (1955) Text of talk given at the American Association of Advertising Agencies

企業ブランドを生み出す為の投資は私達がやっているようなメディアプランニング(Paid Media)領域だけではありませんが、私達はメディア投資に特化したプランニングファームですので、今回はメディアプランニング視点から「ブランディングにおけるメディアプランニング手法」の一つをご紹介したいと思います。

メディアプランのみでブランディングを行う事は不可能
稀に「企業価値を高めるメディアプランニングを提出せよ(※但し広告表現やブランド戦略は既存のものを使いなさい)」的なエッジの効いたリクエストがありますが、メディアプランニングだけでこの目標を達成する事は不可能に近いと思います。これについては(私が使いこなせていないので)いつもは概ね意見が食い違うChatGPT4も珍しく同意見でした。

※ChatGPT4と珍しく意見があった瞬間

オグルヴィも言っている通り企業ブランディングはそのブランドの個性を積み上げる作業です。その為、まずブランドに内在する個性を言語化し整理する作業が必須です。更にコミュニケーション活動ですので当然ながらその個性を十分に包括し、かつ伝える事が出来るクリエイティブ表現の開発も必要となります。

ブランドムービーのみで広範囲なブランディングを行う事は(現実的に)不可能
企業ブランディング広告というと、ブランドムービーを作成してTVとYoutubeで配信をしていく…というのが定番かと思います。この手法自体は何ら間違っていないと私達も考えています。ただ「そもそもブランドムービー(の露出)に対してそこまで予算を割くことが可能なのか」という問題が忘れられがちだと思います。湯水のようにブランドムービーに広告投資が行える場合はブランドムービーの一点突破でブランドの個性を浸透させることも可能(とはいえ過剰FQ問題があるので丁寧なクロスメディアプランニングが必須)ですが、一般的な企業活動において広告費の多くは「製品やサービスの告知」に使われます。その為、実際のところはブランドムービーの露出に使える広告費は全広告費のごく一部になっている事が多いんじゃないでしょうか。 こういった広告費の側面からも「ブランドムービーを作って広告配信したら期待通りのブランドスコアになった」というケースは極めて稀なんじゃないかなと思います。

ブランディングに資するメディアプランの考え方
こういった状況を踏まえ、「企業のブランドコミュニケーションを行う場合は “製品やサービスの告知” を行いつつも同時に ”ブランドの個性” をしっかりと伝える必要があるよね」というのがブランディング活動における私達の考え方になります。 「いやいや、ブランドの個性は既にガイドラインにしっかりと纏めてあって、あらゆる表現物はそのガイドラインに沿って作成されるのは当たり前でしょ、当然露出量もしっかりと計算されているし」と思われた方もいらっしゃると思います。とはいえ完璧に全表現をコントロールしていてもこの後お伝えする「表現の因数分解」はあまり行った事はないんじゃないかな、と思います。要は「確かめ算」のようなものですので、大体の場合やっておいて損はありません。又、今のブランディング活動にお金をかけず定量的な側面からの示唆を得る事が出来る簡単な手法でもありますので、ぜひ参考にして頂けると幸いです。

II. 表現の因数分解 -個性の露出を可視化する-

企業コミュニケーションで使われる表現を「ブランドの個性」で因数分解します。ここでいうブランドの個性は「企業が伝えたい自社の個性」に加え「カテゴリーで一般的に重要だと考えられる個性」を個性因子として設定し、全表現をそれらの個性因子で因数分解する事で「どの個性がどの程度露出しているのか?」を可視化していきます。作業は下記の3ステップになります。

①過去の広告表現を「個性因子」で因数分解する
②各個性因子の年間投下量を計算する
③(各個性因子の年間認知シミュレーションを行う)※月次粒度で可視化する場合

最終的に下記のように集計する事でブランドの個性に繋がる因子が「いつ・どの程度露出しているのか」を可視化し、コミュニケーション上の問題点を可視化していきます。

今回は単純化する為に年単位で集計していますがこの辺りは各案件で必要な粒度に沿って月毎やクォーター毎といった形で調整します。

それでは各ステップの手順を順に見ていきましょう。

①過去の広告表現を「ブランド個性因子」で因数分解する
・企業が伝えたい自社の個性 = ブランド個性因子を整理する
まず企業がメッセージングすべきブランド個性因子を整理します。この辺りはメディアプランニングの領域…というよりブランド戦略領域になりますので広告代理店なら戦略プランナーの皆さんがリードして各ブランドの個性を再発見していく事になると思います。 又、「一先ずそういったブランディング的な事がゴチャゴチャしてしまい、よく分からない事になっている」という場合は、広告主が定期的に行っているブランド調査のレポートを見るとその選択肢に「広告主が期待している自社の個性」が一覧となっている事が多いので、そういったものから一先ず流用してみるのも手かと思います。

・カテゴリーで一般的に重要だと考えられる個性 = カテゴリー個性因子を整理する
各ブランドならではのブランド個性に加え、その製品・サービスカテゴリーで一般的に重要だと考えられる因子を付け加えます。その際の因子(カテゴリー個性)の一例は下記のようなものになるかと思います。

一般的によく使われるカテゴリー個性因子例 : 信頼性、革新性、耐久性、効果、安全性、環境、価格、使いやすさ、デザイン、CS、多機能、高級感、健康、技術、安心、挑戦、文化…

・各広告素材別に因子含有率を設定する
続いて、各広告素材で「個性(ブランド+カテゴリー)因子」がどの程度表現されていたか、を割合で記載していきます。ここでの割合は「感覚」です。ただ特定の1人が設定してしまうと感覚が偏ってしまうので可能な限り近場のクリエイティブディレクターや同僚を捕まえて過去素材を一緒に見ながら皆で設定していきます。私はまだ試してませんが、ChatGPTのようなLLMに頼ってみるのも面白いかもしれません。
TVCMがコミュニケーションの大多数を占めている広告主の場合は下記のようなシンプルなチャートになります。TVとデジタルが半々の場合は投下量の単位をimpかGRP(最終的に③のシミュレーションまで行う場合はGRPの方が使いやすいかもしれません)で揃えるようにします。 期間はとても大切な要素になりますのでここで必ず含めるようにします。場合によってはエリアも重要になる可能性があるので、その辺りは各広告主の環境に合わせて調整して下さい。

②各個性因子の年間投下量を計算する
これはシンプルで、各素材投下量と先ほどの各因子含有率をかけ合わせて擬似的に「各因子投下量」を算出します。

これを時系列(今回は年単位)でまとめると最初にご紹介した以下のチャートが出来上がります。

仮にこのブランドの課題として「機能性に対しての消費者からのイメージが低下している」という調査結果があった場合、このように因数分解してみると2023年は「機能性」がしっかりと露出出来ていた事が分かりますが2024年は「環境」因子の露出が増えており、その分「機能性」のコミュニケーション量が少なかった事が分かります。 これは極端な例ではありますが、このように因数分解して整理する事で露出の中身を定量的に可視化出来るようになります。 私達の経験では年間を通じて多種多様かつ膨大な量のコミュニケーションを行っているナショナルクライアント程、こういった整理をする事で意外な盲点を発見出来る事が多いような気がしています。

③各個性因子の”なんちゃって”年間認知シミュレーションを行う

今回は年単位で集計していますのでシミュレーションをするまでもありませんが、これを月単位で集計すれば年間の各個性認知率の相対的な変化を可視化する事が出来ます。クリエイティブを通じて消費者が期待通りの個性を感じ取ったかは正確には分かりませんし、そもそも個性含有率を決めているのが”感覚”なので(笑)、所詮は”なんちゃって認知シミュレーション”の域を出ませんが、少なくとも「自社のコミュニケーション上、どういった個性が相対的に露出していたのか」を可視化出来ますので、こいったチャートやグラフを見つつ議論を進めると何か面白いアイデアに繋がっていくんじゃないかな、と思います。 もし月次等でブランド定点調査をかけている場合はそういったデータと照らし合わせたり、KPI達成量の変化なんかと比べてみたりしても発見があると思います。勿論、競合他社のコミュニケーションで同じ事を行い比較してみるのも面白いと思います。

III. 【まとめ】ブランディングに資するメディアプラン

今回はブランディング活動に対して「メディアプランニング領域」からどういったアプローチが可能なのか、その切り口の一つをご紹介させて頂きました。 各コミュニケーションで展開される個性の集合体が「ブランド」である、という考えに基づいていますので、そもそもこのブランディングに対する考えが間違っていたら今回ご紹介した手法も頓珍漢な話ではあります。 とはいえ今回ご紹介した「個性」という因子に注目する手法は戦略領域だけでなく、クリエイティブ領域も含め一気通貫した設計を行おうとした際、それらをシンプルに統合可能な手法の一つではあると思います。
私達は戦略〜クリエイティブ、メディアを統合して設計するIMCプランニングに対して並々ならぬ想いを持っているので年中、様々なIMCプランニング手法を考えています。その中でもやはりこういった「シンプル」なロジック程、思った以上に汎用性が高いと感じる事がよくあります。そういった経験からも、もしや案外本質的な考え方なんじゃないか?と思ったりもしています。
こういったロジックを考える事もメディアプランニングをやっている醍醐味の一つなので、必ず世界にはもっと多くの「広く公開されてない個々のプランナーが持つユニークでクールなロジック」があると思っています。そういった皆さんとぜひザックバランに意見交換したいな…とずっと考えてはいたのですが根が陰キャな事もあり実現は夢のまた夢だと思っていました。とはいえ私達も設立3年目となり段々と陽キャ仲間が集まってきた事で陰陽プラマイで「若干プラス」な雰囲気になってきましたので、近々こぢんまりとカジュアルに意見交換出来る場を作ろうと思っています。「プランナーが集まってIMCプランニングについて熱く語る」という誰得で相当マニアックな場になると思いますが、詳細が決まり次第ぜひこのnoteでご案内させて頂きたいと思っています。

執筆者 : 三宅規仁(メディアプランナー | VOSTOK NINE代表)

株式会社VOSTOK NINE
VOSTOK NINEは2024年現在、国内で唯一(※)の「広告(6媒体)メディアプランニング」に特化した会社です。所属する全員が一定(目安10年以上)の経験を持ったメディアプランナーのみ、という一風変わった組織です。広告が社会にとってより役に立つ存在になる未来を目指し2022年1月にメディアプランナーである三宅と江口の2名で立ち上げました。メディアプランニングに関する知見はブラックボックスになりがちですが私達は” 可能な限り広く共有されるべきである “という「メディアプランニングの民主化」を掲げて活動しています。その為、これからも様々な考察や自主調査データをnoteで公開していきたいと思っています。詳細はこちら
※VOSTOK NINE調べ


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