noteの街に風が吹く:小説的考察【2話】「エイプリルフール」の悲劇
「私の名は、みちのくのまゆみわらし。長いから“まゆ”って呼んでもいいよ。そっちは?」
「え、あ、私は新屋敷純子(しんやしき じゅんこ)です。よく“ジュン”って言われます」
私は咄嗟に敬語で答えた。相手は外観から何歳ぐらいか見当がつかないのだ。
“まゆ”と称する女の子はおかっぱ頭ながら顔が整い、朱色の着物が似合う。
座敷童子の遠い親戚というが、幼さはない。若くて中学生、あるいは私と同じくらいの20代後半に見えなくもない。
ディスプレイから出てきたときに、裾の乱れを恥じらうところなど、私でさえ艶っぽく感じた。
「座敷童子ってさぁ、岩手県を中心に座敷や蔵に住む神として言い伝えられてきたのよ。人に悪戯しておもしろがるけど、姿を見たら幸運が訪れるという噂がたって“いい神様”と歓迎されることもあるわ」
まゆはそんなことを語り出した。上から目線なところは気になるが、話し方から察するに悪意はなさそうである。
「座敷童子の一族がそんな評判に気をよくして、最近は東北から関東の方まで手を広げてるってわけ。遠縁の私まで駆り出されてさぁ、めぼしい家を探すうちにここへ辿り着いたのよ」
「じゃあ、私も幸運になれるってこと?」
私は彼女の話を聞くうちに親近感を覚え、タメ口に切り替えた。
「ジュン。それほど甘くはないわ。あなたのことをしばらく観察させてもらったけど、今のままでは運が逃げていくばかりよ」
おっと。雲行きが怪しくなったぞ。私だって伊達に20年以上生きているわけではない。この流れは営業トークに似た臭いを感じる。言いくるめられないよう用心用心…。
「ところで、まゆはなぜパソコンから出てきたの? 座敷童子らしくないわよね」
相手のペースを乱すため疑問に感じていたことをぶつけてみた。
「何よ!私を疑ってるわけ?まったくもって、幸が薄い女を絵に描いたみたいなリアクションするよね。あなたのことを思ってアドバイスしようっていうのに、こっちの気が重くなるわ」
カチンときた。幸薄い女で悪かったな!7割ぐらい当たっているだけになおさら腹が立つ。こうなったら破れかぶれだ。
「わかったわ!そこまで言うからには、運を掴む方法を教えてくれるんでしょうね」
「そうこなくちゃ。幸運になるかどうかはあなた次第だけれど。私も“座敷童子一族”の名にかけて精一杯お手伝いさせてもらうわ」
noteの街は歓迎してくれるのか?
「さっきの質問だけど、座敷童子は精霊だからネットの世界にも入れるのよ。難しい説明は止めとくけど、波長さえ合わせればだいたいのところには入れるわ。それでPCの中からあなたの様子をうかがっていたの。そしたら、noteを始めるかどうか、うじうじ悩んで先に進まないじゃん。イライラしてつい飛び出したのよ」
「もう大丈夫。まゆのおかげで覚悟は決まったわ。私、noteで文章を書いて皆に思っていることを伝えたい!」
「その調子よ。じゃあ、まずは会員登録してアカウントを作らなくちゃ。それからクリエイター名ね。クリエイター名はペンネームみたいなものと考えればいいかな」
「純子じゃダメかな」
「却下!見た人の印象に残るようなクリエイター名の方が読んでもらう可能性が高くなるのよ。そうねー、あなたお酒好きだし“ジュン1ダース”とかいいんじゃない」
noter「ジュン1ダース」(ジュンワンダース)の誕生だ。
私は早速、会社で起きた理不尽な出来事について書いてみた。
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『これって“いじめ”だよね? 職場で起きたまさかの出来事』
「ジュン1ダース」といいます。noteに投稿するのは初めてです。よろしくお願いします^^
私は再就職して、先月から今の会社で“セールスレディー”として営業の仕事をやっています。
早速のぼやきで恐縮ですが、今日起きたとんでもない出来事を聞いてもらえますか!
午前中の外回りを終えてランチを済ませ、一旦落ち着こうと思って事務所に戻ったのが午後2時頃でした。
割り当てられた事務机の引き出しを開けたら、そこに入っていたA4の紙にマジックでハッキリと書いてあったんです。
「ジュンいらない」(ジュンは仮名)
我が目を疑いました。
周りとはそれなりに馴染んでいたつもりだったし、そんな風に思われているとは意外だったから。
事務所には上司と数人のセールスレディーがいたので、動揺した顔を見られまいとしてトイレに駆け込みました。
すると今度はトイレの壁に落書きされていたんです。
「ジュン辞めろ」
このやり口って“いじめ”ですよね?
積極的に仕事をするわけではないけど、いじめに遭って泣き寝入りするほど内気な性格でもありません。
私は頭に血が上って、トイレから出ると上司のデスクに直行して「これ見てください」とA4の紙を突きつけました。
すると上司は愛想笑いを浮かべながらこう言ったんですよ。
「エイプリルフールだからね。まあ辛抱してやってくれないか」
はあ!!!!! エイプリルフールだったら「辞めろ」とか言っても許されるわけ!?
上司のリアクションに呆れて反論する気すら起きなかったので、心の中で悪態をついてやりました。
それ以降はテンションだだ下がりですよ。退勤してからもコンビニに寄って買い物する気力さえなく、ひとり暮らしの我が家でレンチンした餃子をつまみにチューハイを飲みました。
note最初の投稿から愚痴っちゃいました。こんな私ですが、どうかよろしくお願いいたします。
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「うーん。なかなかいいんじゃない。でもタイトルはちょっと物足りないかなぁ」
まゆは私が書いた文章を読んで、率直にアドバイスした。
「noteの読者って、タイトルを一瞬見ただけで記事まで読むかどうか判断するのよね…こんなのはどうかしら」
『エイプリルフールの悲劇 上司の言葉に耳を疑った件【実話】』
「じゃあ、私はちょっとnoteの動きを探ってくるから。今日のところはこれで~」
まゆはそう言い残してディスプレイに吸い込まれていった。
私は初めての記事を投稿すると、シャワーを浴びてからベッドに入った。
『noteの街に風が吹く Ⅲ 先輩たちの名言「一喜一憂すな!」』へ続く⇒
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