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いつか誰かが歌う詩#4

「君はどんな匂いをかぎたい?」

彼女がそう言う。匂いって?とぼくが聞く。彼女の話の突拍子のなさには毎度毎度、困惑する。

「ごめんごめん。ほら、今味噌汁の匂い、するでしょう?」

ぼくは鼻をすんすんとすると確かに味噌汁の匂いがする。まばらに建つどこかの家からする香りだ。

「君は、帰り道にどんな匂いがしたら嬉しい?」

なるほど、質問の意図はこういうことか。
しかし面白い質問なので少し考えてみる。ぼくは魚が好きなので焼き魚かな、と言うと彼女は「いいね」と笑った。

「そういえば都会ってさ、どうなんだろう?」

どうなんだろうとは、どうなんだろう。

「ほら、都会って物がいっぱいだからさ。こうして部活でくたくたになった帰り道にはどんな匂いがするんだろうなって。焼肉とかマックとかお酒の匂いとかするのかな?」

近くの田んぼでカエルが鳴く。
分からない。ここは都会ではないから。ぼくはさあねと言うと、「都会は鼻がいくつあっても足りないね」と鞄をぶらぶらさせながら呟いた。
そういう君はどんな匂いがいいのさ、と聞くと彼女は人差し指でぼくの肩をツンと押す。

「んー?隣でいつまでも、君の匂いがしていてほしいよ。なんていったら君はどんな反応をするのかな?」

彼女のニマニマした顔に腹が立って、ぼくは鞄で彼女の背中をバシッと叩く。「あたた」とわざとらしく前によろめいた。

「君の家の今日の夕飯を当てよう。ずばり、カレー」

ありきたりな回答だ、とぼくは言うと彼女は「当てにいってる」と答えた。
そしてぼくらはそれぞれの家の前までやってくる。
といっても、ぼくらの家は隣どうしなのだけれど。

「ふんふん。何もしてこない……カレーではなさそうだね」

彼女はぼくの家の玄関の前に立って鼻をすんすんさせた。残念でしたね、とぼくは玄関を開ける。

「わたしの家の夕飯の匂い。嗅いでいかないの?」

そんな変なことはしない。と言いたいところだけど、多分、彼女の家の今日の夕飯は焼き魚。うっすらと、そんな匂いがする。彼女は気づいていないけど。

「残念。じゃ、これでわたしの家の夕飯がもし焼き魚だったら、キスでもしてあげようか?」

バカなことを言ってる。ぼくは家に入った。

「またあしたね」

彼女の声を背中で聞く。
さて、彼女の今日の夕飯はほぼ確実に焼き魚なことは間違いない。明日の朝の反応が楽しみだ。

ちなみにぼくの家の夕飯は、カレーだった。

夕飯の匂い


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