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いつか誰かが歌う詩#2

「あっちの空とあっちの空、どっちが平和だと思う?」

夕方の帰り道、ぼくの少し前を歩く彼女がそう言った。
ぼくはあっちと指をさした。これから月がでようとする東の空。
彼女は「ふーん」と肩を揺らす。

「わたしはあっち」

彼女が指をさしたのは夕陽が暮れようとする西の空。
どうして?と聞くと彼女は「なんとなく」と答えた。
意味が分からないと言うと、彼女は「それがいいじゃない」と答えた。

「平和って、なんだろうねえ」

彼女が蹴った小石がコツコツと跳ねて転がっていく。小さな動作で揺れる彼女の長い髪をぼくは見守った。

「じゃあ、どっちの空が好き?」

ぼくは夕陽が沈む西の空を指さした。彼女はまた「ふーーーん」とやたら音を伸ばしてぼくの前を歩く。

「わたしは、あっち」

指さしたのはこれから月がでてくる東の空。白い空。

「と、いうわけで君とは付き合えません。またね」

彼女はそう言って駆け出す。歩道橋の上を走る、ゴゥンゴゥンという音がやけに耳朶に残る。

「またあした~」

彼女が振り返って大きくを手を振った。残酷な仕打ちだと思った。けれど美しいと思った。ぼくは、間違えていないと思った。
走る君の後ろ姿が、流れる髪が、揺れる制服が。西日を浴びて輝いて見えるのなら、やっぱりぼくは、あっちの空が好きだ。

あっちの空


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