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情報共有で支える 愛媛のこども食堂の持続可能な運営【サイボウズ株式会社|実装報告】

2023年度、愛媛県内のこども食堂の数は120を超えた。1年間で約1.3倍にも増え、全国各地で同様に増加を続けている。同年度の全国総数は前年度から2,000近くも増え、9,132箇所(*1)となった。それだけ高いニーズがある一方で、運営の実情は非常に厳しい。「サイボウズ株式会社」はその活動を支援するために、自社の得意分野である情報共有の仕組みを用いたプロジェクトを展開した。2年目を終えた今、その実績を振り返る。
(*1 「認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ」調べ)

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こども食堂の意義

こども食堂は、子どもの貧困問題の解決場所として捉えられる。もちろん正解ではあるが、実はそれだけではない。年代を問わず地域のだれもが拠り所とする「居場所」になる。大切なコミュニケーションの場であり、近年は大量の食事を作るノウハウが炊き出しに役立つなど、防災拠点としての役割も期待されている。こども食堂の価値はどんどん高まっているのだ。

デジタルで状況を変える~プロジェクト始動~

しかし残念ながら、多くのこども食堂が「ヒト・モノ・カネ」の不足に頭を悩ませている。ボランティアにより運営されるため安定した人材確保が難しく、食材調達も特に昨今の物価高騰で厳しさを増している。
また、そうした困りごとをこども食堂間で共有できていないケースもあり、それが状況改善を遅らせる要因にもなっている。

例えば食材確保の情報が共有できていないため、こちらでは足りないのにあちらでは余るという状況でも、こども食堂間で配分し合うことができない。またノウハウを蓄積・参照する仕組みも無いため、みんなが同じことで同じように苦労する事態があちこちで繰り返されてしまう。
あらゆる困りごとが、「自分たちだけ」の問題になりがちなのだ。

ここに切り込んだのが、2022年度に始動した同社の「愛媛こども食堂デジタルプラットフォーム構築プロジェクト」だ。こども食堂間をデジタルで繋ぎ、まず、受付システムや情報共有アプリの運用を開始した。

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1年目の成果~運用を通して見えた課題~

初年度の運用を経て見えてきた課題で特徴的だったのは、子ども食堂の規模や特性によるニーズの違いなど、現場の実情により即した内容だった。

●受付システムの導入は、少人数規模ではそれほど必要とされない
「顔見知りばかりなのでシステムまでは不要」「紙の運用でも困らない」
●利用履歴管理とその情報のこども食堂間での共有は望まれない
個人情報は慎重かつ厳重に取り扱いたいので、システム管理・情報共有はしたくない

そんな中、多くの現場で一番に上がった声は「情報共有のプラットフォームができたことは非常に意義がある」というものだった。
個々の課題には向き合わなければならないが、まず何より、「情報共有」という共通の願いを叶える基盤ができたことが大きい。

このプラットフォーム上で課題を解決しながら運用を日常化していくことが、本当に実用的なシステムの運用と成長に繋がる。同社は2年目へと歩を進めた。

2年目の計画~システムの理解・利用の拡大~

1年目は、情報共有の必要性に意識が向けられながらも、システムの理解が十分に浸透しなかった。有用な機能が搭載されていても、日常レベルでの活用には至らなかった。

そこで2年目となる2023年度は、「情報共有の土壌作り」を目標に定めた。
各こども食堂が情報共有の重要性をもっと理解し、そのためにシステムでできることを知り、そして実際にシステムを活用できるようになることを目指した。

まずシステムを知ってもらうために、各こども食堂との繋がりを作る必要がある。
初年度は特定エリアでのモデル作りのため、南予地区のこども食堂と共に活動を行った。今年度は愛媛全域への連携拡大を目指し、県内のこども食堂を包括的にサポートする中間支援団体「えひめ地域こども食堂ネットワーク」を実装パートナーとし連携を強化した。

「えひめ地域こども食堂ネットワーク」にシステムの運用担当者を置き、ツールによる情報共有の運用を日常化し、さらに「自走」できる活用状態になるように同社が伴走支援を行うことにした。
ここでの「自走」とは、同社の直接的な介在がなくとも自ら課題解決のために主体的に活動できる状態を指す。自走の具体的な目標の一つとして、同社の提供する「kintone」を用いて必要な業務アプリを自作し、それを効果的に活用できるようになることを加えた。

これらの計画に沿って進めた今年度の取り組みを以下にまとめる。

勉強会で認知を拡大

「えひめ地域こども食堂ネットワーク」が主催するセミナーや研修会等で、本プロジェクトの取り組みを紹介した。またイベントで交流した食支援の団体にも、システムを知ってもらう機会を得た。
これらを通して多くの人や団体に認知を広め、「使ってみたい」という関心・意欲を持ってもらうことができた。中四国にも繋がりができ、他県の団体から導入を検討したいという相談も受けた。今後の広域への普及の足がかりとなる成果を上げることができた。

こども食堂を知るためのボランティア支援

より良いソリューションに向けて、同社自らが、こども食堂についてもっと理解を深めるべきだと考え、こども食堂の開催時にボランティアとして参加したり、自社をこども食堂に開放したりもした。
こども食堂に何が必要か、何に困るか、実体験を通した理解を得ることができた。

マニュアル作成

スムーズな導入の助けになるよう、運用マニュアルやFAQを作成した。
作成にあたっては先行ユーザへのヒアリングも実施し、利用者にとって本当に実用的でわかりやすい表現をするよう留意した。

リアルイベントの開催

利用者が実際にシステムを使う機会をつくるため、プラットフォーム上でやりとりを行うイベントを開催した。
イベントに向けてプラットフォーム上で打ち合わせを行うなどの体験を通して、システムの使い方を学び、効率的なコミュニケーションや進行を実感し、利便性の体感を促すことができた。
参加者は成功体験を通して身近なツールとして認識することができるようになった。

「自走」活動のスタート

「えひめ地域こども食堂ネットワーク」による自走活動は、複数の実績を残すことができた。
一つは「こども食堂ストーリーキャラバン」である。こども食堂を一軒一軒個別に回り、システムの説明を行い、導入・利用を促す活動を行った。同時に各こども食堂の課題のヒアリングも行っており、それらをデータとして集積し始めている。
そしてこの活動が、目標の一つにしていたkintoneを用いたアプリ作成にもつながった。作成したアプリは、ヒアリングで得たこども食堂の困りごとを管理するためのものだ。

自ら課題を抽出し、解決策として自らアプリを作成し、それを使った管理運用が行われている。
自走活動は、徐々に可能性を広げてきている。

昨年度からの数値比較

システム利用数に関する昨年度実績からの成長は以下の通りである。
●システム利用施設数
 本システムを利用する施設(こども食堂事業者)数は、前年度3施設から「25施設」に増加
●こども食堂利用者登録数
 前年度435名であった登録者数は、今年度「711名」に増加
今後さらに県内全域へ利用拡大を目指す。

全体の振り返り~次なる課題~

総括として、今年度の目標の「土壌作り」は、ある程度の成果を上げることができた。「自走」体制ができてきたことも大きい。

今後は愛媛県全域への展開を目指す。そのためには県内で地域ごとに存在するネットワークへの個別のアプローチも必要だ。そして他県へも、さらには全国展開も視野に入れた対応を行っていく。

また自走活動におけるキャラバンでの集積データから、改めて「ヒト・モノ・カネ」の問題が浮き彫りになってきた。解決には、さまざまな協力団体との連携強化も重要になってくる。こども食堂が「食支援」という大きな枠組みの一つであることを意識してプラットフォームを整備すれば、フードバンクやフードドライブなど、食支援全体での活用に繋がる。広い視野での検討が、今後はキーになりそうだ。

今後の取り組み~新たな目標~

これまでの成果を軸に、今後は以下を計画している。
●自走による課題解決のためのプラットフォーム運営
 「えひめ地域こども食堂ネットワーク」への伴走支援を継続し、自走を推進する。
 (アプリ作成ノウハウ・データ活用ノウハウの提供等)
●情報共有範囲の拡大
 こども食堂間のみならず、行政・社協・大学・企業などに範囲を広げ、食支援を中心にさまざまな課題解決に繋がるプラットフォームへと育てる。
●愛媛モデルを他県へ展開
 今年度の活動で繋がりを持つことができた他県の地域ネットワークへ愛媛の情報共有モデルを展開し、県をまたいだ情報連携を実現する。

愛媛を起点に、このモデルケースが全国へと広がっていくように。それにより、全国のこども食堂の問題が改善されていくように。そして何より、子どもたちをはじめとするすべての利用者にとって、こども食堂がより良い場所になるように。このプロジェクトのさらなる拡大と躍進を見守りたい。

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