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図書館のお部屋

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猫の街の散歩道

猫の街の散歩道

その日、ウサギとカメは千駄木駅の階段を上がると、団子坂を背にして足を進めた。よみせ通り商店街のレトロなお店に視線を走らせながら通りを右に曲がると、狭い路地にはすでに人々の波が溢れかえっていた。

谷中銀座に入るとすぐ、ウサギは前を向いたまま、隣に歩くカメの袖を引っ張り、「カメくん、何か視線を感じる?」と囁いた。「僕も感じるよ。気のせいじゃないね」とカメが応じた。二人が同時に視線を上げると、猫が屋根

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図書館は私の宝物

図書館は私の宝物

「今日は何の日か知ってる?」カメは、図書館の中庭でアールグレイをそっと持ちながらウサギに尋ねた。 彼女は長い髪を春風になびかせて、「4月30日と言えば…、もちろん図書館記念日ね」と言葉を弾ませた。

カメは静かに話し始めた。「今の時代、図書館に来れば、誰もが当たり前のように本を読むことができる。けれど、本がこんなに自由に読めるようになったのは、19世紀の後半からなんだ。長い人類史でみれば、それはま

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金言は159.8の書架に

金言は159.8の書架に

ある冬の日、ウサギは図書館の中庭で、温かいアールグレイのカップを手の中に包んでいた。そんな彼女の顔は、いくぶん憂いを帯びていた。「ウサギさん、どうかしたの?」と声をかけたカメに、彼女は少しばかり深刻な声色で、「今年の私はどう生きればいいかしら。何か、心の支えになる言葉がほしいの」と答えた。

少し考えていたカメは、優しく提案した。「それなら、図書館の分類番号159.8の書架で本を探してごらん。」そ

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バッグは589.2の書架に

バッグは589.2の書架に

冬の日差しが眩しい図書館の中で、分類番号589.2の書架にあるバッグの本を手に取っていたウサギは、隣にいたカメの方を向いて突然立ち上がり、「行くわよ」と一言だけ言い残し、本を書架に戻して出口へ急いだ。

慌てて後を追うカメとともに、彼女は都会のざわめきの中にあるバッグショップの前に立っていた。その店は落ち着いた雰囲気で、美術品のように丁寧にバッグが置かれていた。彼女はその中の一つのバッグを長く見つ

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仕事探しは366.2の書架に

仕事探しは366.2の書架に

年末近くのある日、長年続けた仕事を辞めたカメは、新しい夢に向かう旅立ちを決意していた。そのカメに、ウサギは心温まる言葉をかけた。「これまでお疲れ様」と彼女は言い、微笑みながら、「しばらくゆっくりして、その間は私が頑張るわ」と宣言した。

そして二人は、すっかり夜の静けさに包まれた図書館へと向かった。そこには、知識と夢が詰まった本の海が広がっていた。背表紙には0から999までの数字が並び、それぞれが

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お菓子作りは596.6の書架に

お菓子作りは596.6の書架に

その図書館の書架は、冬の陽射しを浴びながら、数多くの本で満たされていた。それぞれの背表紙には、0から999までの数字が記されており、無限の物語が秘められていた。

待ち合わせ場所の図書館でカメに出会ったとき、ウサギはふと、「お菓子を作ってみたい」と口にした。彼女はこれまで食べることに喜びを見いだしていたが、今はその美味しさの秘密を探りたくなったようだ。カメは静かに答えた、「それは分類番号596.6

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西洋絵画は723の書架に

西洋絵画は723の書架に

図書館の窓から差し込む柔らかな光の中で、カメは静かにページをめくっている。彼にとって、ここはもう一つの家のような場所だ。書架に並んだすべての本は、日本十進分類法に従って、大分類、中分類、小分類と丹念に分けられており、000から999までの数字が付されている。彼はそんな秩序ある空間で、心の安らぎを見つけていた。

一方、ウサギは図書館が特別好きなわけではなかった。それでも彼との休日の約束は、この静か

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彼の原稿と花の中の彼女

彼の原稿と花の中の彼女

その日ウサギとカメが訪れた小さな図書館は、時間がゆっくり流れる隠れ家のようだった。花壇には冬の花が健気に色を添え、ブルーのパラソルが静かにその姿を見下ろしていた。

カメは学習席のレースのカーテン越しの柔らかな光の中で思いを原稿に綴っていた。その一筆一筆には彼の静かな情熱が宿っていた。

ウサギはカメが原稿を書いている間、中庭で花壇を眺めていた。彼女の目には一つ一つの花が特別に映り、それぞれが小さ

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