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謎をよぶ デ・キリコ展

謎をよぶ デ・キリコ展

国際子ども図書館を過ぎたウサギとカメは、やがて東京都美術館に到着した。正面玄関のエスカレーターを降り、二人は「デ・キリコ展」の世界に身を委ねた。

ジョルジョ・デ・キリコ。その人物は謎に包まれている。時に画風を変え、さらには自らの作品を偽作だと訴え、裁判にまで発展させた画家だ。デ・キリコの作品は、まるで時空が歪んだかのような、不思議な雰囲気を纏っており、二人はその深遠なる謎に向かった。

「デ・キ

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タローのダンス

タローのダンス

その日、ウサギとカメは不思議な力に引かれるかのように、表参道の岡本太郎記念館を訪れていた。降り続く小雨を置き去りにして、二人はそっと傘を閉じ、館内に用意されているスリッパに履き替えた。そして、ゆっくりと、絵画が待っている2階へと向かった。

「岡本太郎にダンスって、なんだかイメージがなかったけれど…」ウサギはそう言いながら、目の前の絵をじっと見つめていた。絵の中の色彩は激しく、それでいてどこか憂い

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暗幕のゲルニカ

暗幕のゲルニカ

ウサギとカメが図書館に入ると、正面のフリースペースに東京大空襲の資料が展示されていた。資料に目を留めたウサギの手には、原田マハさんの「暗幕のゲルニカ」があった。

閲覧席に移動すると、ウサギはその本の表紙を、ゆっくりと指でなぞった。「この本を読むまで、アートと戦争がこんなに深くつながっているとは知らなかったわ」と彼女は言った。

パブロ・ピカソの絵を観るのが好きなウサギだったが、ピカソが生きた時代

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ヘリングに首ったけ

ヘリングに首ったけ

図書館の中で、いつものように静かにページをめくっているカメの席へ、珍しく何かを手にしたウサギが近づいてきた。 「カメくん、その帽子に付けているのは何?」ウサギはカメの横に置いてある帽子に目を向けながら、彼に尋ねた。

「キース・ヘリングのピンバッジを付けてみたんだけど。どうかな?」と、カメははにかみながら答えた。 「バッジなのは分かるけれど、どうしてそんなにたくさん付けたの?」ウサギは不思議そうに

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キース・ヘリングとの邂逅

キース・ヘリングとの邂逅

その日、ウサギとカメは都会の真ん中にそびえる高層ビルの52階にあるアートホールで、特別な時間を過ごしていた。そこでは、キース・ヘリングの生命あふれる絵画が二人を待っていた。ヘリングの単純でダイナミックな線が描くエネルギーに満ちた作品たち。二人はその圧倒的な表現に、見入ることしか出来なかった。

「地下鉄の駅の広告板にたった2分でスケッチを仕上げて、次の駅でまた新しい作品を描いたのね…」ウサギは音声

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迫力のオブジェパワー

迫力のオブジェパワー

ある日、図書館の自習席で物語を書いていたカメのもとに、目を輝かせたウサギがやってきた。二人が中庭へ移動すると、ウサギは待ちきれない様子で話し始めた。「これを見て!」と彼女が差し出したスマートフォンの画面には、一枚の横長の絵が表示されていた。

「これは『明日の神話』という絵なの。初めて生で観たんだ。すごく大きくて迫力があったわ」とウサギは言葉を弾ませた。それを見るとカメは、「この絵は、長らく行方

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それぞれの休日

それぞれの休日

美術館のどこか別世界のような静けさの中でカメはゆっくりと思考を巡らせていた。彼の前にはピカソやシャガールの作品が並び、それらはキュビスムという名の不思議な仕掛けが施されていた。耳元で音声ガイドが静かに語りかけてくる。そこには100年前の画家たちの息遣いが宿っているようだった。

そのころ美術館の外ではウサギが遊歩道を軽やかに走り抜けていた。走ることが彼女にとっての日常からの一時的な脱出だった。

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