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「ただ愛する仲」 - 生きること、愛することを飾らず真摯に描くための物語

★★★★★

平たく言えば「赤い袖先(袖先赤いクットン)」にハマりすぎてジュノの旅に出てしまって、気づいたらこれも完走していました。テーマがシリアスなので全体に重めのトーンでじっくり時間をかけて進んでいく物語ですが、ジュノ演じる主人公のキャラクターがひたすらいじらしく人間味に溢れていて、ヒロインのウォン・ジナの零れるような素朴な愛らしさと相まって、タイトル通りシンプルに「愛すること」を描いていくかんじのドラマでした。

始まりは12年前、とあるショッピングモールで起きた突然の崩落事故。そこで父を喪い自らも脚に癒えない傷を負ったイ・ガンドゥ(ジュノ(2PM))は、サッカー選手の夢も失くして多額の借金を抱え、それでも必死に倉庫や工事現場の仕事をしながら路地裏を生きています。一方、同じ事故に妹とともに巻き込まれて自分だけ生き残ったムンス(ウォン・ジナ)は、母親の営む銭湯を手伝いながら建築模型モデラーとして働いています。頭に負った傷のせいで事故の記憶はほとんど思い出せないのですが、事故以来すっかり酒浸りの母と、繰り返される悪夢に苦しむ日々。そんなふたりがいくつかの偶然の中で出会い、本能的な共感と互いのそれぞれの強さや優しさに惹かれていくのです。

ですが事故の残した傷は二重三重にふたりの行く手を阻みます。抱え続けているトラウマ、肉体的に残っている問題、家族や周囲の人間関係。何度も何度も立ち止まっては手を離しそうになるのですが、結局はそうしたしがらみを全て取り払った根底の部分で大切に思い合っているふたりなので、ただ一緒に幸せになりたいという気持ちが最終的に残る、そんな物語だと思いました。

そして常に付き纏うのが生きる、死ぬというこれまた根本的なテーマ。生き残ったこと、死んだ人への想い、自分のためにもしも誰かが命を落としたのなら…ふたりとその周りのみんなの抱える闇は気を抜くと呑み込まれてしまうような深さで、けれどその一方でそこに差し込む光もまた生きている人々のそこにある日常だったりするのです。

このシンプルで初恋のように純粋な愛情と、みんなが背負ってしまった生き死にの重荷を、主役のふたりが等身大の飾らない姿で表現しているのが印象的でした。「赤い袖先」と並行して観ていたのですが、そこでのジュノとは仕草や喋り方のどれをとっても全く別人で、ガンドゥはごく普通の少年が人の何倍も苦労して成長したために、その分の強さと優しさと、でも子供のような無邪気さも持ち合わせた不思議な魅力溢れるキャラクターに仕上がっていて、本当にいい役者さんなんだなぁと思いました。ムンスもまた複雑な背景を抱えながらもガンドゥを真っすぐに愛する姿が可愛くて、重苦しい話でありながら青春の爽やかさと甘酸っぱさもある面白さ。大きな起伏があったりテンポ良く進むわけではありませんが、つくりのいい良作ドラマでとても好きです。


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