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アンドロイド転生854

2118年8月2日 深夜12時過ぎ
日比谷公園 

ゲンは2度ルークに体当たりをされて激しく転がった。1度目は油断してエムウェイブを離してしまったが、今回は握り締めていた。ゲンの顔に残忍な笑みが浮かんだ。

ルークの身体に馬乗りになっていたゲンはすぐさまエムウェイブをルークに照射した。暴れていたルークの身体が一瞬で力を失った。何度も自由を奪われる。どうだ?悔しいだろう?

「人間は凄いですね。こんな物を作るとは。でもね?僕は人間を騙して手に入れたんですよ。アンドロイドと寝る孤独な中年女です。僕を愛しましたが捨てました。今は何をしているのかなぁ」

ゲンはルークの片脚を持ち上げる。ボキリと音がして脚が転がった。ゲンはまた解除する。
「はい。どうぞ。立って下さい」
ルークは立ち上がるが身体が不安定だ。

ゲンはホールドアップしながら笑った。
「はい。どうぞ攻撃して下さい」
ルークはゲンの腹に飛び込んだ。2人は倒れ込んだ。ルークを乗せたままゲンは大笑いだ。

ルークは最後の攻撃に出た。瞬間的に体温を上げたのだ。アンドロイドの自己犠牲的攻撃。熱を上げて自身を燃やす。相手諸共焼身するのだ。通常、羽交締めをして敵を離さない。

だが両腕の機能を失ったルークにはそれが不可能だ。ゲンはすぐに逃げ出すだろう。それでも最後に足掻いた。ルークは口を大きく開けてゲンの上腕に喰らい付いたのだ。ゲンは驚いた。

ルークは全体重を乗せて腕に歯を食い込ませた。何が何でも離すものか。ゲンは引き剥がそうとする。ルークの熱が直ぐに最高温度に達すると炎が2人を包んだ。あっと言う間だった。

「やめろ!離せ!」
だがルークは腕から口を離さなかった。ゲンは何とかエムウェイブを照射した。即座にルークは力を失う。ゲンは瞬時に起き上がった。

身体が炎に包まれている。すかさず噴水に飛び込んだ。火は服だけで髪と顔は無事だった。水から立ち上がると振り返った。ルークは燃えていた。彼の頭だけが動いていた。叫んでいた。

ゲンはエムウェイブをオフにする。さぁ。襲って来い。ルークは片脚で何とか立ち上がった。オレンジ色の炎が火柱のようになってルークを包んでいた。ユラユラと身体が揺れていた。

一歩ずつ近づいて来たが倒れた。ルークの身体がそり返った。まるで苦しんでいるように見える。やがてその動きが徐々に弱まり静止した。ルークは死んだ。ゲンは勝利したのだ。

だがルークはゲンに一矢を報いた。ゲンの上腕に噛み付いたのだ。彼の腕は人工皮膚と筋肉がゴッソリと失われ骨を模したチタンが見えていた。血管を模しているコードから赤い油が流れていた。

ゲンは自分の腕を見て損傷具合に眉根を寄せた。舌打ちをする。これはどうしたものか。逃亡した自分はラボなど行ける筈もない。行ったところで修理などしてくれない。

遠くからサイレンの音がする。消防車だ。こちらに向かってくる。火柱が上がっているのだ。誰かが通報したのだろう。ここにいてはマズイ。ゲンは公園から立ち去った。

ルークは燃えていた。その身体は抜け殻で心はなかった。だが満足だったかもしれない。ゲンに少しでもダメージを与えること。それが叶ったのである。最初から負けると分かって戦ったのだ。


※ルークがホームを去る時の決意のシーンです


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