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世界映画市場分析②〜明暗分ける「コロナからの回復」〜

最初のエントリー「世界映画市場分析①〜日本は世界で何番目の映画市場?〜」では、世界各国の興収および動員規模をデータとして把握しながら、我らが日本映画市場がその中でどのくらいの存在感をもっているのかをあらためて確認してみました。

かつてハリウッド映画の公開時には主演スターがこぞって来日して宣伝キャンペーンを展開する、世界有数の優良市場としてその存在を誇っていましたが、現在では中国や韓国など近隣市場の成長もあり、やや影が薄くなっているという指摘もあります。しかし、数字的に見れば日本はいまだ「巨大な映画市場」と言っていい規模にありますし、今後の取組次第ではさらなる成長も見込めるでしょう。

さて、本項では各国の「これからの成長」を見極めるため、ここ数年で起きた大きな変化について、あらためて確認しておこうと思います。

コロナからの回復がもっとも早いのは…?

2020年前半に世界中を襲ったパンデミックは、世界各国の映画市場にどのような影響を与えたのでしょうか。「2022年 全米ボックスオフィス考察①〜コロナ前後で興行収入はどう変化したのか?〜」で紹介したように、北米市場では2020年の年間興行収入が前年比80%以上減という壊滅的な被害を受け、その後も完全回復には至っていません。日本市場も2020年は前年から約半分の興収が失われる事態となりましたが、2022年には年間興収2130億円を突破し、2015年の水準まで回復しています(2022年日本映画市場考察①〜洋画と邦画のあいだに出来た明らかな格差〜)。

ではここで、世界TOP10マーケットにおける「コロナ前後における動員数の変化」について見てみましょう。下の図は、各国の「コロナ前=2019年」と「コロナ後=2022年」のGAPを示したものです。

2022年動員数TOP10マーケットにおける
2019年|2022年動員数の比較
※青字…動員数の単位は百万人

コロナ前に対して86.6%ともっとも動員が戻ってきているのがインドです。インドは平均チケット料金が格段に安いのが急激な回復の理由でしょう。料金の安さが、配信への流出を阻止する大きな要因になっていると思われます。

インドに次いで回復具合がめざましいのが、実は日本です。コロナ前と比較して77.9%が劇場に戻ってきています。2022年は「トップガン マーヴェリック」「ONE PIECE FILM RED」「すずめの戸締まり」「THE FIRST SLAM DUNK」という4本の100億円超作品が生まれ、4月に公開された「名探偵コナン 紺青の拳」も90億円を突破しています。

一方で、「2強」の北米と中国は回復が遅れ気味です。北米はコロナ前の57.6%、中国は41.2%と厳しい状況が続いています。この2強は平時であればともに年間興収100億ドル(約1兆3000億円)を超える市場規模を持っていますから、両国の市場が回復しないかぎり、世界の映画市場の完全復活を宣言することはできません。

地域別に見ると、コロナ前の2019年対比で71.4%のフランス、同じく66.5%のイギリスをふくむヨーロッパ諸国は、比較的市場の回復が進んでいるように見えますが、国によって回復度合いにはバラつきがあります。ドイツ(65.7%)、オランダ(65.7%)、ベルギー(79.9%)など回復が進んでいる国もあるなか、イタリア(45.8%)、スペイン(58.8%)などはやや苦戦しているように見えます。

回復が早い国に共通するポイントとは?

では、回復が早い国、そうでない国とに分かれる理由は何が考えられるでしょうか?いろいろと仮説は立てられると思いますが、Marche du Filmが提示するデータの中から関連性の高そうなものをひとつピックアップしてみましょう。それは、「国産映画の興収シェア率の高さ」です。

もっとも回復が早いインドは、国産映画の興収シェアが88%を占める市場です。また、次に回復が早い日本も国産映画が68.8%と高いシェアを誇っています。つまり、これらの国は海外から輸入する映画(主に北米で製作される映画)の影響に晒されることなく、自国映画の生産数によってある程度市場の計算ができるということになります。

日本を例にとってみるとわかりやすいでしょう。日本における自国映画の公開数は、2019年の689本に対して、2022年は634本でした。一時期(2021年)は490本にまで落ち込んでいましたから、ほぼコロナ前の水準にまで回復したと言えます。その中から、前述した100億円超えの特大ヒット作が次々と生まれたことが、市場の正常化という空気を作り出したのだと思います。ただし、その日本においても、コロナ前後で市場は大きな変化を余儀なくされました。このあたりは「2022年日本映画市場考察①〜洋画と邦画のあいだに出来た明らかな格差〜」とそれに続くエントリーで考察していますので、ご参考ください。

というわけで、次回は「国産映画の興収シェア」すなわち各国の自給率についてもう少し深掘りして分析してみたいと思います。Netflixなど配信サービスの隆盛によって言語は統一化(各国の吹替バージョンが製作)され、映画やドラマの国境線がいい意味で曖昧になってきている中、それでもその国独自の文化に根ざした国産作品には変わらず大きな需要があります。その需要と供給のバランスが、各国でどのように変化したのでしょうか。その真実に迫ってみたいと思います。

世界映画市場分析③~国産映画の盛り上がりが未来を分ける~」に続きます。


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