六花ましろ

元踊り子による 日記、エッセイ

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最近の記事

私はロボットではありません

気圧のせいにもしない、体調のせいにもしたくない。頭の中がグルグルして、たまに固まっている。インターネットが中々開けない時「ちょっと待って下さいね、今仕事してますんで」のサインで放射状の輪が回転するマークがいつまでも表示されるのは脳みその動きの視覚化である。機械がこれなんだっけかな、あれどこにしまったっけって思い出したりしているってことだったの。中の人、苦労かけてるね労わるよ。輪が弾けたその先を一緒に見たい。 春がもう終わろうとしている。 桜並木の真ん中で何人かのグループで写

    • 終われない物語

      手元にあるありとあらゆる本の全てが読んでいる途中のまま平積みのタワーになって、部屋の片隅で日々巨大化しながら存在している。最後まで読んでしまうことがもったいなくてどの本も結末を知らない。全てのものが未完であることで、まだやらないといけない出来事が残っている忙しさを作れるからだ。本当はやらないといけないことなんかなくって、やりたいことだけやっている。自分で選んでそうしていると思うと誰のせいにもできないし、自由になれる。 夜道を歩いていると、遠くにいる女の人の足元に小さな白い犬

      • 靴下保安協会

        首の後ろと耳の後ろにも念入りに日焼け止めを塗っている。この前長時間外にいたら、耳だけジリジリと熱くなってしまったので食パンみたいにこんがり焼けたかもしれない。救いを求めて小さくても狭くても日陰にいたいから、地面の黒い部分を転々と避難しながら歩いて行く。暑さがいつ終わるのかまだわからない、8月31日が夏をさらっていってくれたらいい。何食わぬ顔でトンボが流れるようにスイスイ空を飛んでいる。道端に落ちている蝉をほとんど見かけなくなった。 今までの人生で一回も、靴下がいつのまにか片

        • 涙は悲しいときにしか出ない

          薄汚れたちいかわのぬいぐるみをお風呂で洗って干して、知らない人の歌を聞く。空が晴れて濃い緑の葉が光って眩しくてきれい。皮膚の上から剥がれ落ちた憂うつが一枚、強い風に乗って散り散りになって消えていった。 4人で喫茶店に行った話をされたけど全く覚えておらず、話を合わせることもできず気まずい思いをする。しばらくするとその日の夜に急にサンマルクのテーブルの上にトレーが4つ並んだ光景が頭の中に浮かんで来た。私のトレーには白玉アイスが乗っていた。向かいの席のメニューは汗をかいたグラスの中

        私はロボットではありません

          あなたも気になるんでしょ?

          ファミレスでハンバーグを食べていたら、隣の席の小学生男児が「戦国武将になりたい」と鼻息荒く豪語していた。最近の若い子ってルフィとか、炭治郎じゃなくていいんだ、、、。男の子が自分はもらって当然という顔で遊んでいるお子様ランチのおもちゃが羨ましかった。お金で買えるものはとても少ない。わたしができることは、いつか君が大人になったときに困ったことがなるべく少ない国になるように、働いたり税金を納めたり選挙に行ったり新聞を読んだりゴミを分別して少なめに出すくらいしかできないよ。日本の未来

          あなたも気になるんでしょ?

          其は愛は強くして死のごとくなればなり

          マクドナルドでナントカチキンバーガーを注文する。半分くらいしか食べられなかった。お腹がいっぱいになったわけじゃない。あんまり美味しくないなと思ったからだ。そんなことは初めてで、いつも食いしん坊の自分がまさかの意識高い人みたいな感想を述べる日が来るとは想像していなかった。 白い、多分鳥の肉がミンチ状になって固められ油で揚げられたそのナゲットはこれまで好きで食べてきたマクドナルドのナゲットとなんら変わりはないにも関わらず、その日わたしに「違う」と拒絶されてしまった。ある日突然変化

          其は愛は強くして死のごとくなればなり

          うまとアイドル

          ジェットコースターに乗っている自覚がないまま前後上下左右に大きく揺さぶられる座席に座っているのと、ジェットコースターに乗っているのを理解したうえで怖いとかびっくりする状況を迎えているのでは気持ちの構えかたが違うねってことがある。 美容室に行ってストレートパーマをかける。 2時間くらいかかるかなと予想していたら、なかなかパーマの液が浸透しにくくて、結局3時間近くピリピリする液体を髪に塗布してサランラップを巻いた頭のままイスに座らされていた。ずっと電子書籍で雑誌を読んだ。ファッ

          うまとアイドル

          そんなことはわかっている

          今日こそはと会社帰りに飛び込んだお花屋さんには、まだきれいにラッピングされたブーケがいくつもならんでいたけれど、レジの中身をひっくり返してお金を数えていたお姉さんに「もう閉店時間ですので」と言われてしまった。 わたしは赤いバラを買いたかった。それと、スイートピー。お正月にお年玉をもらったから、スイートピーは黄色と白とピンクの3色を贅沢に飾ろうと意気込んでいた。 しょんぼりしながら冬の街を歩く。両手をコートのポケットに入れたり出したり、せわしなく暖めたり冷やしたりしながら。

          そんなことはわかっている

          気持ちの手ざわり

          年末だから部屋の片付けをした。 今まで頂いたたくさんの直筆の応援のお手紙、お礼のお手紙、気持ちのこもった丁寧な字で書かれた熱いメッセージは何度読み返しても胸を強く打たれる。 捨てるのが嫌で永遠に保存していたいけれど、これからやってくる新しいものを迎え入れるために一度それらを全て処分することにした。 元気をくれた言葉たちは私の中に溶けて消えて大切な栄養になった。形がないからどこへでも持ち運びできるし、いつでも私の中にあります。 これまで何回か断捨離なようなものを真似てみては、

          気持ちの手ざわり

          悪い子供になりたい

          一日中寝ていて、寝続けることに飽きてきたので夕方に起きてパジャマの上からズボンを履き、上半身裸にフリースの上着を直接着て外に出た。もちろんうっかり不審者にならないようにジッパーは上までちゃんと閉めている。 寒い寒いとぼやきながら自転車を漕いでいる男が目の前を通り過ぎていった。わたしは見た目ふわふわフリース素材のあったかい服に包まれているのに中身がノーパンノーブラで風がスーって通り抜けていくから具が抜けた天ぷらみたいになっていて、寝起きの頭がまだ夢の中にいてへらへらして、歩きな

          悪い子供になりたい

          文学フリマお礼

          2回目の文学フリマの参加が無事終わった。 前回5月から半年経ったけど、新しい本を作ることはできなかった。 せっかく私の文章を楽しみにしてくれている人がいるのだからと焦って無理やり何か書こうとしたけれど全然集中が続かなくて、お話が一つ完成しても読み返したらつまんないなーってなったりして、なかなか世の中に出せるように美味しい味付けが終わらなかったので思い切って今回は作るのをやめた。 自分が納得いかないものを見せるのはやはり納得できないからだ。 前回は初めての本作りとイベント参加

          文学フリマお礼

          他人が思い通りにならないのはあなたのせい

          ストレスの原因は他人が自分の思い通りに動いてくれないから。が90パーセントくらいだと思った。 あとの10パーセントは暑いとか寒いとか人はいつか死ぬとか痩せて整形したら幸せになれるのかな、とかそんなことばっかり。物事を深く考えることができない。 早めに起きられたので午前中に大好きな手芸屋さんに行く。 糸切れやハギレやボタンやビーズがバラバラに入った特売ワゴンの中身を、買い物に来たおばあちゃんたちと一緒になってほじくり返して物色した。こういう所に意外な掘り出し物が隠れていたりす

          他人が思い通りにならないのはあなたのせい

          全部上手くいくウルトラマン

          人間の骨(焼いたやつ)はとっても苦い味がするんだって。 昔の日本の風習では、大好きな人が死んだら火葬した骨を食べるっていうのをYouTubeの番組で見た。好きな人を食べるって、究極の愛かもしれない。真夜中に部屋の電気を消して携帯だけの灯りで見る動画は、世界の真ん中にたったひとつだけあるテレビのようで、たったひとつだけの真実のようで、ひたすらずっと縋りつきたくなる。 怖い話とか、都市伝説とか、不思議で続きが気になっちゃうものばかり見ていたらいつのまにか朝になってしまう。眠らない

          全部上手くいくウルトラマン

          7月のおわり

          ネットで見つけた美女のルーティンワークのひとつに「まつ毛パーマ」と書いてあり、安い所を見つけたので早速お試しで行ってみることにした。まつ毛パーマをかけるのはとても久しぶりで楽しみだった。 こじんまりとした店内にはリクライニングチェアーが所狭しと並べられ、次から次へと女性客がひっきりなしに現れては帰ってゆく。 回転率が命って感じの勢い。 居心地の良い椅子で目を閉じてゆったりしていたらあっという間に施術は終わった。出来上がりましたよって手鏡を渡されてわくわくしながら顔を見たら、最

          7月のおわり

          強者は静かに微笑む

          豪雨のスクランブル交差点で、おめかしした浴衣の裾をびちゃびちゃに濡らしながら楽しそうに歩く女の子や男の子たちとすれ違う。 今日はお祭りでもあるのかな?花火大会は、この雨だからきっと中止だろうな。お祭り屋台の、キャラクターが描いてあるビニール袋に入ったわたあめが食べたい!って思ったら、すっかりその気になってしまった。 彼らや彼女たちにとって今年の夏は一度きりの特別なんだろうし、それは私だってきっとそうだ。 どれだけ雨が降っていようが関係ない。 しかし濡れたスカートが歩くたびに足

          強者は静かに微笑む

          ピンクのまぶた

          ふとした瞬間に頭の中に勝手に流れてくる歌がだいたい15年くらい前の曲で時代が止まっており、このままでは私はだめになってしまう!と焦った気持ちになり、この世のありとあらゆる音楽が聴き放題になるサブスクリプションのサービスに加入する。ついでに今流行っている無線型のイヤホンも購入。これでいつでもどこでも音楽と一緒に生活ができる。 無線イヤホンを耳に突き差して颯爽と歩く人たちが都会的でかっこよく見えたので、その真似っこができて嬉しい。 好きな曲を聞くためには、CDをお店で買って繰り返

          ピンクのまぶた