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[読書感想文] 三十光年の星たち

読み始めたときの展開の想像と全然違って面白かった。推理小説的な大どんでん返しなやつではないけど。
どちらかというと、自分が性悪説過ぎて「こいついつかキレるだろ」とか「嫌な展開になりそう(というかなってほしい)」みたいな読み方をしてばかりなので勝手に裏切られてた感じかもしれない。

なので、お話的には淡々と進む。悪徳金貸しだと思っていた老人にお金返すの遅れそうですと正直に言いに行った青年が雑用で使い倒されるのかと思いきや、実は青年に見込みを感じていた老人が跡継ぎとして丁寧に育てる、そしてそのお仕事の間に会うことになる、人生を達観した人々、その人々からさらに色々と学ぶ青年。
基本的に、老人のお眼鏡にかなった人しか登場しないからか、いい人しかおらん!

主人公の人柄が良すぎる

佐伯老人にいいように使われて独り言で愚痴を言ったりする坪木青年だが、足の悪い佐伯のために店の前に車を止めて下ろしてから駐車場に停めに行くなど、端々に優しさが垣間見える。

上から目線で怒られるたびにやっぱり内心怒りを感じ、「次言われたら下ろして一人で京都に帰ってやるねん」とか言ってるのに、次の瞬間には佐伯の休憩のために小さな折りたたみ椅子を買いたいとか考えてて、なんか人格複数ある?もはやちょっと怖い。サイコパスみすらある。

後半では愚痴すらほとんどなくなり、言われたことの真意をすぐに悟ったり、怒りを覚えても「それは自分が未熟な証拠や」みたいに内省したりと聖人度が上がっていく。
借金返済の催促に行った先で出会った、ほぼ無関係の認知症の老人にボコボコに殴られても全く怒らず世話をして、きちんと話をして車に乗せて家まで送ってあげるわ、疲弊した娘さんを粘り強く説得して話を通すわ庭の塀まで直すわ、いい人すぎるだろ。

しかし、そんないい人なのに親から金を借りていて、且つ見放されてたり、いろいろな仕事をしてきたけど、自分だけができる!みたいなスキルを身に着けていないのが自分でも短所だと思っているところとか、三人兄弟の真ん中だったりとか、なんか自分と状況が似通っていてぐぬぬってなりがちだった。

展開が急に変わって困惑

上巻の最後と下巻の最初で、今後金貸し業を引き継ぐんだと思ったら急にミートソーススパゲティ専門レストランの業務もやる、というかそっちがメイン、みたいな話になってて、なんかよくわからなくなって上巻最後を読み直してしまった。
金貸しもやるが、当座の給料発生のためにレストラン業務もやるということか。普通に金貸し業の給料としてもらえばいいのでは… 佐伯さん、金はうなるほど持ってるんだから。金貸しは基本儲けは度外視だからそこから給料は出ないと言われましても。

精神論がこれでもかというくらい出てくる

佐伯の幼少期に学んだ柔道の先生も「いやになってからの稽古が本当の稽古だ」とか言ってて佐伯はそれに学んできたようで、佐伯の重要なセリフとしてこういうのもある。
「働いて働いて働き抜くんだ。これ以上は働けないってところまでだ。」「自分にものを教えてくれる人に、叱られつづけるんだ。」「このふたつのうちのどちらかをやれば、人間は良く変われる。」

理不尽に叱られても文句も言わず、ただ10年やってみて30年経ったらわかる、とか、3回だけスパゲティソースの作り方を見せてあげますが3回だけだし教えてあげるわけではありません、みたいな、自分だけで学び、自分だけで気付くというのは確かに大事なので理解はできるところがありながらも、自分だったら普通に嫌だなこの師匠共は、となってしまい、いい話ではあるんだがそういう細かい気になりが邪魔をしてしまった。
今はもう流行らない、「最初の数年は寿司を握らせてもらえない弟子」と全く同じマインド。それでしか身につかない何かがあるのかもしれないが、それにしても時間は有限だぞ?

ちょっと中途半端?

というか、200万円を返せないまま亡くなった女性の兄と偽る男性とのバトルはどうなったんだ…?
「絶対に返させてやる」という意気込みは、佐伯流じゃないから怒られるとか失敗するんだろうとか思ってたら、そのやり方を考え直したり作戦を練ることもなく、スーッとフェードアウトしていってしまった。

面白くはあったけど、盛り上がってきたところで終わった感じがある。三部作のちょうど真ん中って感じ。佐伯老人が死亡フラグしか立てないからまさか…?とちょっと不安だったものの、そういう作品ではなさそうだし、どうなるんだろうと思ってたが、何も起きずに終わるとはな…
いや、面白かったよ?面白かったけど、なんか全体的にとにかく教育だったなぁ。部下にこれを読んで学べとか言うクソ上司いそう。こういう精神論は読み物としては面白いけど、実際に自分が体験したら勘弁してくれってなりそうだなぁ。

主人公が聖人過ぎるのと、佐伯老人が完全放置や完全理不尽叱りではなく、まずめちゃめちゃ話をしてくれるし(大体答えそのものではないが)、いいところで助言してくれたり、裏で根回ししているという「見て学べ」系ではないのがだいぶ違うけど。

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