私のこれまで 11

転校が決まり、新しい学校への初登校の日。学校へ行って驚いた。元々通っていた小学校は6クラスあったのに対し、新しい学校は2クラス。余りにも少なかった。私とすれ違う生徒は口々に「誰?転校生?こんな時期に?」と言っているのが聞こえる。それもそうだと思う。夏休みまであと2週間くらいしかなかったのだから。夏休み明けの転校生はそんなに珍しくないだろうが、こんな時期に転校してくるのは何か訳ありだと言っているも同然だ。

教室に入り、担任から紹介される。「一中から転校してきた。みんな仲良くしてやってくれ。」クラス中が騒めきだす。ここは、遊び仲間からも聞かないような真面目な学校なのだろう。元居た中学校の名前を聞いたとたんにクラス全員の目が変わった気がした。

休み時間。転校生にはお決まりの「何で転校してきたの?」「ねえヤンキーなの?」と矢継ぎ早に女子たちが聞いてくる。私は目が悪いせいか、元々目つきが悪いと言われる。男子が「おい!怒り出す前にやめた方が良いんやない?ヤンキーやったら暴れだしそうやん。」と囃し立てる。内心(うざい。)と思ったが、その学校で私は生活して行かなければいけないのだ。質問に答えるように「元の学校ではそんなに悪い方ではなかったと思うよ。」と答えたが、ま、納得するはずもないだろう。休み時間の度に、他のクラスからも見物人がやってくる。そして下校時間、ある女子2人が「ねえ、私達に見覚えないかな?」と聞いて来た。私も気が付いていた。前の年の夏休み、友人たちとカツアゲした女子だった。「覚えてるよ。すぐわかったし。仕返ししたいならどうぞ。」と言ったら、二人は笑いながら「一緒に帰ろう。どこに住んでるの?」と言った。私は確かにこの二人にカツアゲをした。殴ったりはしていないが、それでもやった事は消えるわけではない。帰りながら「あの時はごめん。」私が言えた精いっぱいの言葉だった。2人は「もう良いって。友達になろうよ」と言ってくれた。カツアゲをした最低な私。そんな私に友達になろうと言ってくれた2人。泣きそうだった。でも、もしかしたらクラス中に言いふらされて私は虐めにあうのでは?と思わないわけでもなかった。それもまた当然だと思っていた。しかし、2人は本当に友人になってくれた。2人は京子と桜といった。京子は同じクラスで、移動教室など、私がわからないことは何でも教えてくれた。虐めにあったらなんて不安は、京子と桜が打ち消してくれた。学校生活は、順調に始まったのだ。

私達が引っ越した家は、元々住んでいた場所から徒歩30分ほど離れた所だった。川を1本挟んだ反対側。実際、引っ越す必要あったのか?と思うくらい近かった。その家は小さな川沿いの小道を入った、表からは見えないアパートだった。アパートまでは砂利が敷いてあり、歩くとジャリジャリ音がする。防犯対策なのだと思う。これまたいつ建てられたのか?と思うほど古い木造のアパートだった。玄関を入ると階段がある。階段の左隣に6畳の部屋。6畳の部屋に沿ってわずかな廊下があり、キッチンになっている。玄関を入ってすぐ左がトイレだった。トイレの隣にお風呂。トイレとお風呂のわずかな隙間に洗濯機が置かれている。階段を上がり、6畳間が二間続き。階下に行くには手前の6畳間を通るしかない。衝撃だったのはトイレだった。私はそれまで水洗トイレしか見たことがなかったのだが、その家のトイレは汲み取り式。いわゆるボットントイレだった。しかもトイレの窓は開けると人が通れるくらいの窓で、換気の為に開けておくには不用心極まりない。お風呂もトイレも窓を開けたままにすることは、泥棒さんに入って下さいと言わんばかりの造りだ。一階の6畳間を母が使い、私は手前の6畳間。兄は奥の6畳間を使うことになった。テレビは兄の部屋にしか設置できなくて、兄の部屋で見るしかなかった。当然チャンネル権は兄にある。

その頃兄は夜間高校に行かなくなっていた。実際には2週間ほどしか行かず、母がいる間は行くふりをして、母が出かける時間を見計らって帰って来ていた。「母さんには言うなよ。言ったらわかってるよな。」と口止めされていた。引っ越した後、母に退学したと告げたらしい。母はそのうち働きだすと思っていたのだろう。実は兄は中学校の頃は新聞配達をやって家計を助けていたらしい。新聞配達をしていたことは私も知っていた。中学1年の夏休みに愛と一緒に手伝いをしたこともあったからだ。しかし、いつ辞めたのかは知らない。気が付くと一日家でゴロゴロしている。母が見かねて知り合いに頼んで雇って貰ったこともあったが、3日坊主で辞めてしまった。正確には朝起きれなくてサボり、クビになった。そして再び兄はニートになった。友人と遊んだりすることもあったが、家に居ることが増えた。兄の友人が家に来ることは格段に減った。私の監視の為か、家に居ることが増えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?