新型コロナウイルスの致死率について2

前回の記事を書いてからさほど時間が経過していないが、新しい情報が上がってきたので追記的にこちらに述べる。

日本の致死率が意外と高い可能性

日本はゴールデンウィークを終え、徐々に発表される感染者数も減りつつある。前回ドイツ・韓国の性別、年代別致死率を日本の感染者数に代入し、向こう1週間程度の死者予測カーブを提示していたのだが、ここに来て予測される死者数の減速が確認されず、死者数は依然伸び続けている。

※韓国の性別・年代別致死率(男性50代1.6%、60代4.8%、70代14.4%、80代以上31.7%、女性50代0.4%、60代1.1%、70代7.1%、80代以上20.3%)を代入したのが青の予測死者数、赤が実際の死者推移

予測死者数 と 死者数 (5)

自分の計算式だと、東京都の例を参考にして、感染確認日と死亡日の中間値がだいたい一週間という目安を立てたのだが、当然のことながらそれでは短すぎたのかもしれないし、また他のパラメーターなどで色々と不備があったようにも思う。

考えてみれば人工呼吸器使用者、つまり重症者数が現状最盛期の300名より減ったとは言え、未だ200名もいるのであるから、この中から何割かは回復せずに亡くなる方々もいるだろう。その意味では感染確認日から一週間で死者を確定させる現在の計算は過小の数値になってしまう。

恐らく若い患者ほど耐性は強く、死亡をするといっても長い闘病になるので、本来ならばその闘病期間の平均値をとって各年代で重みをもたせるのが正解なのかもしれない。

ただし、若い患者の致死率はどこの国でも概ね低く、全体の統計にあまり影響しないのも確かである。この疾病は老齢になるほど、致死率が指数関数的に上昇するのが特徴であるから、60代以上の動向というものが肝になる。

いずれにせよ、現行の計算では過小に出てしまうように思われるので、若干致死率の高いスペインの数値を代入してみたのが下の図である。

※スペインの性別・年代別致死率(男性50代2.4%、60代6.5%、70代17.1%、80代以上28.3%、女性50代0.7%、60代2.9%、70代10%、80代以上16.8%)を代入したのが青の予測死者数、赤が実際の死者推移

スペイン政府公式発表の値は、WorldMeterでの値などと随分ずれていて、特に死者数がかなり少なく、実際の致死率はもっと高いものと思われます。(5月18日追記)

予測死者数 と 死者数 (7)

スペインにおける致死率は80代以上の男女で韓国などよりも若干下回るが、70代未満の年齢で概ね高い設定である。途中まではそれなりにフィットしているようなのだが、本日(5/15深夜)発表された数値ではスペインの予測数値も超えてしまい729名(予測は693名)の死者になってしまっている。

※日本の感染者として使用したデータは5月9日までのもの

行政の情報発信の脆弱さ

日本の性別、年齢別の死者データが出てくれば答え合わせもできるのだが、それが現状個人情報保護法の壁なのか、プライバシー保護の観点からなのか、3割近くが(我々一般が入手できないという意味で)不明のままで有効な統計情報として扱うことができない。例えば東洋経済のサイトでは年齢別の死者数合計と実際の死者数の間には大きな乖離がある。政府は一刻も早くこの統計を改善し、性別、年代別の致死率の有効な数値を公表するべきだろう。

おそらく現状、死者が出ればその自治体から発表があり、年齢、性別が出ると特定される恐れがあるので遺族が公表に反対するのかもしれない。であるならば、死者発表時に年齢、性別は伏せても、全国で発表する時は地域の部分を公表せずに発表する等、プライバシーに配慮した対応は可能なのかと思う。

これらの統計については、日本の政府としての情報発信における透明性という意味で諸外国への発表、この疾病の疫学上の知見という意味では非常に重要なことなので一刻も早く改善して欲しいところである。

日本の性別、年代別致死率の推定

スペインよりも性別、年代別の致死率が高いとなると、その上はイタリアのものを代入するべきかと思ったが、イタリアのものを代入すると線形が全く変わってしまい3月の線形でフィットさせる点がなくなってしまう。であるから、恐らく日本のそれはスペインより若干高い、あるいは年齢構成的な致死率の違いがあるのかもしれない。

イタリアの致死率を代入した日本の予測死者数

特に60代の男性死者がスペインなどより超過している可能性はある。所謂夜の接待で感染した層は、飲酒、基礎疾患リスクの高い層であり、その死者数が各国平均より高いということならば、現在の日本の死者数の説明がつくようにも思える。

60代の男性の致死率が高く、またこの世代は重症化してから死亡までの期間が高齢者より長いと考えるのであれば、上記のスペインの致死率を代入して得られたグラフが3月初旬から4月下旬までの増加曲線にフィットしながら、明らかな感染者数の減少を観測している5月初旬からタイムラグをおいての死者数の減少という形でなかなか現れていない事も類推できる。

上記はKontan_Bigcat氏のツィートで、北海道の性別、年齢別死者の数値であるが、ここで実際に発表された北海道の感染者(5月9日まで、計945名、うち性別年齢不明者40名は計算せず)からそれぞれの致死率を計算すると、60代男性が明らかに多いように思える。

画像7

タイムラグがあまりないので、死者数はもっと増えるし、また上記死者の各性別年代別の図には「不明」や「高齢者」というカテゴリーもあり、上記の計算にはそれらが反映されていない為、当然ながらこの数値よりも大きな致死率になることが予想される。それでも60台の男性致死率は10%に近く、下記に各国別の致死率から類推するに、イタリアに近い数値を出しており、不明の分の積み上げを考慮すると非常に高い傾向にあるといえるだろう。

もちろんサンプル数が少ない為、まだまだ正確な統計と呼ぶにはふさわしくないかもしれない。とはいえ、日本の致死率が「低い」という巷に流れている定説は覆され、少なくともスペイン並、あるいはそれ以上に高そうだということは十分に証明できているように思う。

治験の薬は効いているのか?

さて、アビガンが治験段階で5月12日の段階で投薬が3千人に及んでいるとのことだが、日本の感染者の2割の投与がされているのであれば、少しはこの統計上他国と比較して有意な数値として現れてくるものと思っていたが、そこまでの効果はないようである。

もちろん投与グループと非投与グループでの差などは未だ判明しておらず、偽薬効果など、細かい検証が必要なものであり、そこは材料となる数値がないのであまり多く語るべきところではないが、例えば致死率を10分の1にするような劇的に状況を改善する特効薬であれば、全体の2割の投与であったとしても、少なくとも韓国やドイツよりも年代別致死率が若干下がるような数値が観測できるはずである。残念ながらそこまでの効果はなさそうで、これらは今後の調査に期待したいところである。

各国の致死率比較 再考

さて、今回は前回の調査より様々な国の致死率の情報を比較に加えることができたので下図に示すと

スペイン政府公式発表の値は、WorldMeterでの値などと随分ずれていて、特に死者数がかなり少なく、実際の致死率はもっと高いものと思われます。(5月18日追記)

画像3

このような感じになる。タイは死者が56名と非常に少なく、統計としての信頼性はかなり低いものになるが、それでも高齢者の致死率は大体一致している。フィリピンは医療体制の充実していない為か、感染者を重症者しか補足していないためか、致死率はかなり高いように思う。特に60代や50代での死者数が思いの外多い。スウェーデンはイタリア以上に数値が悪い。ロックダウンをせずに野放図にしてしまったツケを払っているように思える。中国、タイ、スウェーデンは男女別のデータがないが、フィリピンは男女別のものがあったので、前回のものに一つ加えた男女別致死率の図をここに加える。

※フィリピンの男女別数値はwikipediaの表を画像で取り込み補助線を引いて推定した

年代別致死率 男性 (1)

年代別致死率 女性 (1)

各国とも女性の80代以上は20%で頭打ちになる点は非常に興味深い。北海道における女性の致死率も70代から90代までが殆ど変わらないのは興味深い点である。(もちろんサンプル数が少ないので北海道のケースは何ともいえない部分もあるが)

英国における致死率の考察

ドイツ、スペイン、イタリアと比較して英国の出す統計情報は日本と同じで混乱が多い。(もっとも一見すると日本と比較して遥かに優れていそうな統計サイトなのだが、、)

英国公式サイト Coronavirus (COVID-19) in the UK

感染者数は5月15日現在で236711名だが、ここには民間調査のケースも含まれるとされており、下の4カ国(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)の合計171924名とは数が合わない。

イングランドにおける感染者数 総計141387名(5_15)

イングランドの感染者数は141387名で、各性別、年代別の内訳が出ているが、そこから上記の国々の性別年齢別致死率を代入して実際の死者数である30364名と比較してみると、

イタリアの致死率を代入   18411名
スウェーデンの致死率を代入 19079名
フィリピンの致死率を代入  19471名

と大きな開きがあり圧倒的に高い致死率が予想される。もちろん上記で述べた通り、国発表の141387名のイングランドの感染者には、民間調査分が含まれないので、17万と23万の差の部分を重みを付けて計算するべきかもしれない。よって各年代別に1.4の係数を掛けて再計算してみたところ。

イタリアの致死率を代入   25775名
スウェーデンの致死率を代入 26710名
フィリピンの致死率を代入  27260名

と死者が最も多くなるフィリピンの致死率を代入しても3000名近い開きがある。この数値を見る限り英国の状況は非常に芳しくないと思える。英国はジョンソン首相が当初集団免疫獲得を目指すと表明したことが、他の欧州諸国から大きく遅れをとる結果を招いてしまったのかもしれない。

PCR検査のあり方について

一方で「感染者」を各国がどの程度把握しているかにも、この致死率の違いは大きく影響するし、これは各国ともに若干違うようにも思える。例えば米国ニューヨークでは病院が飽和状態の時は、濃厚接触者などの判断から明らかに感染していると思われても軽症の場合は、検査はせずに自宅待機を指示したそうで、これは日本も医療崩壊を防ぐ為に程度の差こそあれ同じような対応をした。英国での余りにも高い致死率を鑑みるに検査自体を日本などよりも遥かに絞った結果が現状となって現れているのではないだろうか。

ちなみに日本では「人口あたりの検査数が低い」という、訳のわからない理由から、検査数を増やせという圧力の強いPCR検査であるが、上記の統計を見る限りにおいて、日本は批判されるほど検査数が少ないとは言えないだろう。陽性率が10%前後というのはドイツなどとさして変わらない点で、それほど悪い数値ではない。

各国の年代別感染者数の割合

また各国の年代別の感染者の割合を見ると、死者数が多い国は老人の感染者が多いことが解る訳だが、これは検査体制に余裕がなく、若者が後回しになっていると見て取ることもできる。このデータで見る限りにおいても、日本はドイツとあまり違いがない点を考えれば、PCR検査が脆弱すぎるという批判にはあたらないかと思う。

医師が必要と判断した時と、クラスター対策で濃厚接触者を検査すること。この二点で充足していれば検査は十分であり、所謂「安心」を買う為の検査は非常に無意味であるし、また害の方が大きいように思う。それは陽性者であっても陰性になる偽陰性の問題を抜きに「安心」を得るということは、むしろ感染を広げるリスクになる点に強調される。自分が感染しているかもという前提で殆どの人々が行動するほうが、70点の検査で安心だとしてリスクのある行動を取るよりも遥かに社会の感染拡大予防にはなるのだろう。

抗体検査と実際の感染者数

ここのところ、各国で抗体検査が行われ、様々な数値がニュースで流れるようになった。ニューヨークでは全市民の20%くらいは感染している。慶応病院では一般患者の6%が抗体を保有していた。神戸の病院では外来患者の3%が、そして先ごろでは東京都で500件の献血サンプルを抗体検査したところ(3件)0.6%が陽性反応が出たといった具合である。

これらから単純計算で慶応病院の6%と東京都人口の6%ということで「84万人が感染してる!」と主張して、「だから致死率も全然低くて安全なウイルス、集団免疫も近い」とブログで騒ぐ人もいる。

これらは余りにも短絡的な考え方であり、献血サンプルの検査でさえも、東京都の0.6%だけが大きく報道され、結果8万4千人という主張が色々聞こえるのだが、、そもそも感染者数が少ない東北の500件のサンプルでも2件、そしてウイルスが蔓延する前の去年のサンプル500件からも2件検出されたそうである。

ここから類推するに、2件、3件レベルは誤差であり、要は「なにもわからない」し、検出誤差の範囲ということなのだろう。もちろん献血にくるくらいの健康の人々だから体調が優れない人は除外されているという見立てもあるが、抗体検査の信用性抜きに、全てを掛け算で単純に計算し、致死率は今発表されているものの100分の1といった主張はどうかと思う。

ダイヤモンド・プリンセス号の知見

そもそも抗体検査の数値を頼りにして、致死率がそれ程低いのであれば、閉鎖空間でおきたダイヤモンド・プリンセス号の案件はどう説明できるだろうか?あそこまで囲い込まれた環境内で、全員のPCR検査を行い、そして陽性者の経過が追えている案件は世界的にも極めて稀である。3700名の乗員乗客の内、感染者は712名、そしてそのうち13名は死亡している。年齢調整の致死率まではデータがないのと、あったとしても少ないのでなんとも言えないが、この感染者数と死者数は一つの大きな指標である。

平均年齢が高齢だとは言え、クルーまで含めた乗客乗員のうち13名が死亡している事実を見る限り、このウイルスの致死率が、上記で示した各国の致死率よりも100分の1ということはありえないように思える。であるから抗体検査の数値を安易に拾って、致死率はインフルより低く、取るに足らない感染症であると言うことは決してできないだろう。

とは言え高齢者の比較的多かったダイヤモンド・プリンセスで単純計算の致死率が韓国並というのは非常に少ない結果でもあり、これは日本政府や医療関係者が重症患者に最大限のケアをした結果を差し引いても、通常の致死率よりも低いように思える。

であるから、韓国やドイツ、日本などでは実際の感染者は、発表されているものよりも少なくとも2倍、あるいは西浦先生などがおっしゃるとおり10倍になる可能性はあるが、やはり振り幅は大きく、現時点では与えられた情報もあまりに少なく、尾身先生おっしゃるとおり、「わからない」というのが正解なのだろう。

ただ上記の分析をする限りにおいて、特に英国は確実に多くの感染者を抱えていると言ってもおかしくない。そして今回の分析には登場しなかった米国も英国と同じ傾向を抱えているように思え、自分が最も心配する国家の一つである。

最後に

前回のエントリーでは次回は死亡率について、罹患率なども踏まえてなにか書ければと思っていたのだが、結局のところ致死率の話に終始してしまった。ただこの手の疫学上の話というのは、ありとあらゆるファクターがパラメーターとして存在し、どこかに捉われると全体の本質を見失うような怖さがあるように思え、自分のような素人ではとても太刀打ちできない学問であると改めて思い知らされる。何かを確定的に書こうと思えば、別の可能性が次々と頭をよぎり、結果紋切り型の三段論法は使えず、一体何が言いたいのかよくわからない言い訳がましい文章をつらつらと書いてしまうのである。

まあ学術論文ではないし、雑感を私的に書いただけなので、こんな文章で何か我をはる必要などないので、言いたいこともだいたい言えたので、この辺で文章を〆たいと思う。まあ本当にずぶの素人の雑感なので、話半分に聞いて頂ければと思う。

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