新型コロナウイルスの致死率について
現在、新型コロナウイルスに関しては、日本の死亡率の低さが良く話題になるが、議論の中で死亡率と致死率がごっちゃに語られている場合が多く、良く噛み合わない討論が散見される。
そもそも死亡率とはその社会の人口に対する該当要因の死者の割合であり、この点で言えば確かに新型コロナウイルスで日本の死亡率は(あくまで現時点では)諸外国中では大変低い。一方致死率とは、その疾病に罹患した人の死亡する割合である。
ここで大事なことは、この双方の指標は、疾病の流行が終息した後に(特に死亡率においては)正確な数値がでる点である。現在、これらの議論では時間的観点から早急な議論がされがちであるし、また死亡率、致死率を混同して語られているので様々な齟齬が生まれているように思える。今回はそのことに対して雑感を述べようと思う。もちろん私は疫学の専門家でもなんでもなく、単に統計好きな文系人間である。であるのでここで述べる事はあくまでも素人の戯言として聞いて頂ければと思う。
各国の致死率(致命率)を比較する
死者という分子は同じでも、分母の部分が「社会」である死亡率は「罹患者」である致死率よりも遥かに確率は少なくなるし、逆に死亡率の方がその数値を各国で比較分析するにはファクターは遥かに多い。であるからこの手の分析をするには、まずはファクターの少ない致死率から考えたほうが良いだろう。
今回のウイルスの致死率については、当初中国の武漢でまとめられた数値が世の中に広く出回っているが、どうもその数値には疑義が多いように思う。
上記は新型コロナウイルスの年代別致死率の各国比較である。このバーの一番右のオレンジ色が中国において当初発表されていた数値であるが、80代以上の致死率は14.8%と非常に低く、また70代、60代でもドイツや韓国よりも低いというのは、武漢であれほどの医療崩壊が起きたにしては低すぎるように思える。
当初は武漢の情報のみであったが、ここに来てパンデミックを経験し、徐々に死者数が落ち着きつつある各国から情報が上がりはじめている。韓国、ドイツ、イタリア、そしてスペインの情報はwikipedia(共に英語版)で、各年代、男女別の致死率を見ることができる。そして上記のように年代別の致死率だと各国バラバラな印象があるが、そこに更に男女差を入れることによって、大分見えてくるものがある。
上記が男性の年代別致死率の各国比較表だが。イタリアは医療崩壊によって高齢者の致死率が著しく高くなった印象があるが、韓国、ドイツ、スペインはそれぞれ近似の値になっている。
※スペイン政府公式発表の値は、WorldMeterでの値などと随分ずれていて、特に死者数がかなり少なく、実際の致死率はもっと高いものと思われます。(5月18日追記)
※ドイツの値についてはロベルト・コッホ研究所の報告書は、死者数は10代毎の年代別、感染者数は0-4歳、5-14歳、15-35歳、35-60歳、61-80歳、80歳以上というように死者数と対応していない為、下記のように補完をして計算をさせて頂いた。また韓国はwikiにあるグラフから補助線を引いて大まかな数値を出させて頂いた。本来の学術論文などではご法度だろうが、雑感であるため目をつぶっていただければ、、
女性の致死率は男性よりもかなり低く、そして驚いたことに、医療崩壊を思わせるイタリアでさえ、80代以上の高齢者で他国と殆ど変化がなかった。ただしイタリアはどういう訳か70代では非常に高い致死率になっている。いずれにせよ、医療崩壊をしていないドイツと韓国において、男女別、年代別致死率は極めて近い数値である。スペインも少々医療崩壊の傾向は見て取れるが極端に大きな差は見えない。
ここで考慮に入れるべきことは、各国の致死率を単純に感染者から死亡者で割ることの誤解である。例えば韓国、ドイツ、スペイン、イタリアで単純な致死率を計算すると、5月8日現在で、韓国2.4%、ドイツ4.4%、スペイン10.2%、イタリア13.9%という事になり、極めて大きな差があるように見えるが、男女別、年代別にしてみると、上記のように、それ程大きな差は見られないのである。
これは例えば韓国とスペインの差が何かといえば、韓国は若者の感染者が多く、スペインは高齢の感染者が極めて多い。故に若者の死者が少ないのは互いに共通だが、老齢人口の割合によって韓国とスペインの平均死亡率の差が大きく開いていることが良くわかるだろう。そして男女別、また厳密に言えば肥満や疾患の傾向なども加味すべきことを考えれば、致死率において各国、各人種間でそれ程大きな差はみられないといえるのではないだろうか。
もちろん人種によって、例えば黒人の致死率が高いという論文があることなどは知っているが、このように男女別年齢別の調整による差を前提にして余り議論されていないように感じる。特に人種間の差、BCG接種の差といった論文が提示されるとそれに飛びつき、単純に感染者数を死者数で割って議論をする人が多いように思う。
この男女年齢別致死率を日本に当てはめると
さて、この男女別、年代別致死率であるが、日本の感染者のデータに当てはめて計算するとどうなるだろうか。残念ながら現在日本は感染が終息に向かいつつありとは言え、重症患者はまだまだ多く、死者数の大勢が判明するのはもう少し時間がかかるだろう。ただし、現在までの感染者のデータを男女別、年齢別に分けて、それぞれの係数を掛けることで予測死者数を割り出すことはできる。
上記は韓国と同じ男性の年代別致死率を、5月6日現在までに判明している日本の男性感染者に年代別で代入したグラフである。ここから予測される男性の死者数は405名(女性は248名)である。更に、このように同じ数値を代入し、日別の死者数の積み重ねを計算して累積グラフを作り、一週間先の死者数の数値として表したのが下記のグラフである。一週間先としたのは、感染判明日から死亡日までの平均値を東京都の死亡者から割り出した大まかな中央値である。
※感染発表から死亡まで短すぎる印象もあるが、発見された時に死亡している例もあり一週間というのは決して短い期間ではないように思う。
そしてここに実際の死者の数値をフィットさせると以下のようになる。
細かい誤差があるとはいえ、概ね予測数値と実際の数値はフィットしているように見える。現状で日本の男女別、年代別死者の数字を見て答え合わせをしたいところなのだが、正確な数値が出ていない。いずれこのシミュが正しかったのかどうか、わかる時もくるかもしれないが、一つ言えることは、恐らくこの新型コロナウイルスにおける致死率は、医療崩壊、あるいは肥満率などのファクターを抜かせば、各国でそれ程の違いはないのではないだろうか。
BCG仮説は「致死率」において否定的か
そして一部巷で流れるBCGを接種が義務付けられた日本国民は、していない国の人々よりも容易にこの災厄を乗り越えられるという説は、こと「致死率」においては否定されるように感じる。罹患率などで違いがあるのかは未だ判明しないところではあるが、少なくても一部で囁かれるBCGによって重症化が免れているという説は否定されるのではないだろうか。
いずれにせよ、巷にあふれる論説には、先にも指摘した通り、感染爆発が起きている最中に感染者と死者数を割り算して安易に致死率を出す傾向があり辟易する。その最たる例が「ドイツの致死率が物凄い低い」という一部で定説化してしまった話である。当初ドイツは積極的なPCR検査によって感染者が多く判明した。例えば3月26日、感染者数は43,938名、死者数が267名であったが、この時の数字を静的に捉えて「ドイツは致死率0.6%に押さえている!」という人がいた。(現在は4.4%)
だが実際、時間が経過し、感染者の全貌がほぼ判明し、そして闘病の末の結末まである程度見えてくれば、その男女別、年代別致死率は上記のようにドイツより遥かに多い死者を出したスペインと大きく変わることはないのである。だが残念ながら、ドイツのケースでの間違いに気づかずに、現在急速に感染者が判明しているロシアを指して同じことを言う人々は後をたたない。
また日本でも3月24日からの感染増加で一時的に感染者の分母が大きくなった時、「日本の致死率は驚くほど低い」という言説が多く登場したのも記憶に新しいところだろう。そこからBCG仮説を持ち出す論客は大勢いたように思うし、未だその説にすがりついているのをSNSでは見かける。
また最近では経済の再開を目指す余り、楽観的論にすがりつき、結果、専門家、特に政府の専門家会議の方々への中傷をする人達を多く見かける。もちろん論拠のない悲観論は大きな問題ではあるのだが、同じように根拠のない楽観論も、ことウイルスという大きな災厄に対峙する時には危険極まりない。大切なのは正しい数字に基づいた根拠のあるリスク評価だろう。
インフルエンザとの比較は?
この楽観論で代表されるのが、インフルエンザとの比較であるが、2009年の新型インフルエンザを持ち出して、あの時と同じようなものだという識者もいるのだが、このインフルエンザの致死率は桁違いに低い。例えば70歳以上の致死率は日本で当時受診患者1万人あたり3名ということで、0.03%(参照 2009年インフルエンザパンデミック(H1N1)その広がりと健康被害)であり、上記の新型コロナウイルスの致死率と比較して桁が二つ以上違う。冷静に比較すればとても同じものとして扱うことはできない。
一方で「インフルエンザでは一冬で数千人が命を落とす、コロナはまだ500名」という論も良く見かける。それは千万単位の人が罹患するインフルエンザならば、致死率が0.02%であってもそれくらいの超過死亡は起こるのは当然な訳なのだが、同じ数のコロナ患者が出たらという前提では彼らは絶対に話をしない。
同数のコロナ患者の話はしない癖に、同じ想定をして野放図に感染が拡大すれば40万人の死者が出るという専門家の言動には非難を浴びせる。コロナは免疫がないウイルスであるから、人口の7割(9100万)が感染するということは、感染拡大阻止の為の方策を一切しなければ普通にありえる。そして仮に低く見積もって致死率が0.5%ならば45万5千人の死者ということになる訳で、この専門家の言説は決して間違ったことを言っているわけではない。
まとめ
とりあえず、雑感という形で、素人統計で自分なりに思ったことをつらつらと書いてみたのだが、とどのつまり要点をまとめれば
致死率は男女別・年代別ならば、どこの国でもそんなに変わらない
感染者に比して死亡者数が多い国は老人の罹患率が高い
医療施設と介護施設の防疫・院内感染防止は凄く大事
ということかと思う。物凄く当たり前の話で全く格好がつかないのだが、、専門家会議の副座長の尾身先生が老人を守ることが大事と最初のほうの会見で何度も仰っていたが、ドイツとスペインの死者数の違い、各年代の割合を見ると確かにそのとおりだと思う。
ただ、そこから老人のみを隔離せよという論が導き出されることがあるが、これは少々乱暴である。欧米のように一定以上に感染蔓延した都市のレベルから、感染拡大を抑制するのは非常に難しく、傷口は小さいうちに処理をした方が良さそうな点は、worldmeterで見ることが出来る各国の流行曲線などを見れば明らかである。1日の感染者が100名の地域で、それを減少させ0に近づけるのと、1000名の地域で同じように0に近づけるのには、明らかに1000名の地域の方が遥かに時間が掛かる。
結局、野放図に感染拡大を許してしまうと回復には、集団免疫まで突っ走る以外には、現状人と人の接触を減らす以外に方法はなく。それはロックダウンの期間の長さとして代償を支払うことになってしまう。一部でニューヨークなどがロックダウンをしていても一向に感染者が減らない状況を見てロックダウンなど効果がないという論もあるのだが、これは単に感染濃度が物凄く高くなった場所ではウイルスへの曝露量リスクがあらゆる場所で高まってしまっている為、強力な接触禁止措置をとっても、大雨の雨漏りを防げないのと同じで、仲々感染の抑制ができないということなのだろう。
これら感染拡大のメカニズムも含めて社会全体の死亡率の話なども色々としたいのだが、それは次の機会にしようと思う。いずれにせよ、この新型コロナウイルスは人類社会にとってスペイン風邪以来の大きな災厄であることはまず間違いないだろう。日本は絶対に米国や英国のようになることはないと高を括っていると、おそらく足元をすくわれる。ただし幸運な事に5月8日現時点まで、3月からの第二波を何とか凌ぎ切ろうとしているように見える。このまま何とか数ヶ月の猶予を勝ち取り、その間に第三波の備えができることを祈るのみである。
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