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2024/4/11 ゴリアテ

所用で区役所へ赴く。
我が家は居住している区の端っこも端っこにあるので、区役所はおいそれと歩いて行けるような場所ではない。電車で二駅、または車で15分の距離にある。当然、ダントツ、車が便利なので、大概車で行くことにしている。

区役所へ行くにはいくつかルートがあるが、最短は最寄駅の東側の踏切を渡るルートである。最短であるが、少し厄介なルートだ。狭いヘアピンカーブを越え(いつも塀で鼻面を擦ってしまいそうで怖くて一旦バックして切り返してしまう)、狭くて自転車やら歩行者がしっちゃかめっちゃかに歩く上に路上駐車が多い駅前を縫うように進んで、たどり着いた踏切は越えた途端常に赤色の信号が点滅する交差点にはばまれる。そこに信号を待機できるスペースは乗用車1台分という狭さで、交差する道路は交通量の多い時差式信号なのだから本当にいただけない。

お尻が下りてきた遮断機のバーに当たらないよう、かつ鼻面が交差道路をゆく車と接触しないよう、絶妙な塩梅で合流を待たねばならないのだ。
何百回と渡ってきたから慣れている。慣れているけどいつも緊張してお尻の穴が締まる。

しかるべき場所に収まって、お行儀よく信号を待つ。自分の車線は赤い点滅信号なのであてにならない。交差道路の信号が赤に変わるのを待つ。まずは右、そのあとしばらくして左。左も赤になって、みんながちゃんと止まったら、ゴー。

左側の信号が赤に変わって、大きなバスが交差道路の先頭にずっしり止まる。さて、そろそろ、とウインカーを出したところで、どこからともなく、でぃーろーでぃーろー、とサイレンが近づいてきた。

救急車の存在をキャッチすると、道路の上にいるものは、みんな時間の流れがゆっくりになる。どこからそれが来るのか見回し、おろおろと道を開け、息を止めて動かなくなる。私も周りに倣ってブレーキの上に乗せた足を動かさない。救急車って、昔ははっきりと「ぴーぽー」だったのに、音、変わったよな。

頭の周りを取り巻くみたいにサイレンの音が鳴っていて、どの方向から来るのか全然分からない。「ゴリアテ」みたいだ、と思った時、交差道路に停車していたバスの向こう側から、ゆっくり、飛行船みたいに赤いサイレンと白い車体が出現した。「ゴリアテだ!真下にいるぞ!」と架空のパズーの声がする。

救急車はゆっくり、安全に配慮した走りで目の前を横切って、「でぃーろー」は半音ずつ下がりながら遠ざかる。誰かを助けにゆくゴリアテよ、ご安全に。

そして交差道路の信号は再び青となり、車が流れ出す。私はもう1ターン、信号が変わるのを待つこととなった。

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