ビートたけし『菊次郎とさき』(Audible版 – 完全版、2018) 俳優 柄本佑の朗読が秀逸。活写される下町と家族 ビートたけしの自伝的小説を俳優 柄本佑が朗読したオーディブル版。 いったい柄本佑がどのように下町言葉を読むのかに興味があって聴いたが、見事だ。この生き生きした語りが作品を何倍もおもしろくしている。 この柄本の読む〈バカヤロー、コノヤロー〉は、実際に耳にしないと、どういう感じか分らない。たけしの一家およびその周りでは、接頭語のように、あるいは口癖のよう
黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』(要約版、講談社、2021) 著者朗読版のトットちゃんがあったとは 著者の黒柳徹子さんが朗読した『窓ぎわのトットちゃん』(1981)があったとは。 ただし、要約版である。人気の「もどしとけよ」は入っていない。 * 著者が朗読したオーディブル作品というのは、狭い経験しかないが、まず外れがない。すこぶる素晴らしい作品が多い。 プロの朗読者がいかに上手だろうと、いや、最近はAIナレーションのオーディブルも出ているくらいだが、著者の朗読には
(秀和システム、2024年4月10日刊) アメリカ在住者の視点で書かれた2023-24年の米国情勢 この本に出会ったきっかけの一つは著者近影だった。記憶にある著者の姿はこんなではなかった。 著者の2023年の著書カバーの写真で、あれっ、こんな方だったっけと思ったのが、きっかけだ。ムスリムの女性として写っている。カイロ大学へ留学したとの話にも興味を惹かれた。 * 本書はアメリカ在住者の視点で書かれているとのこと。これは貴重だ。 と思って読みはじめると、早速、アメリカ
夏目漱石『こゝろ』(Audible版、パンローリング、2015) 秀逸な朗読 この声で聴けてよかった 佐々木 健の朗読は見事である。一度、この声で聴くと、『こゝろ』は、この声で蘇る気がするくらい印象的。 『こゝろ』は日本で一番売れた作品とのこと。2000万部の数字を聞くと驚くが、日本人の6人に1人が読んだ計算にしては、作品の議論をあまり聞いた記憶がない。むしろ、日本で歴代発行部数が二位の小説『ノルウェイの森』(1000万部)のほうが、よほど話題になっているのを耳にしたこ
大日月地神示(後巻)(野草社、2018) 2014-17年に神人氏に降ろされた神一厘の壮大な仕組み またも縁ありて、本書を読むことができた。前巻と同じく、著者のすすめに従い声に出して読んだのだが、後巻は前巻(245頁)に比して大幅にページ数が多い(349頁)だけでなく、内容においてもずしりと重い。 どう重いのか、簡単に説明できないくらい、内容が壮大で深い。かと言って、読後感が重々しいかというとそんなことはなく、かえって身も心も軽くなったように感じる。すがすがしい氣に充ち
大日月地神示(前巻)(野草社、2018) 2006-16年に神人氏に降ろされた神示 縁ありて本書をよむことができた。ここで〈よむ〉とは音読すること。 本書前書きに音読するようにと書かれている。音読するわけは、人と霊との両方に聞かせるためであると思われる。書かれた文章は、読者以外に霊的な存在へも向けられている。 本書をよんだ結果は〈御魂相応〉に表に顕れ始めるとのこと。したがって、受止める存在の魂に応じて結果が顕れ始める。 * 巻頭の著者説明によれば、本書は〈かつて岡
田中英道、茂木誠『日本とユダヤの古代史&世界史』(ワニブックス、2023) 〈ユダヤ人と日本人の古代における文化交流〉。 一言でいってしまうと、本書のテーマはこれだと田中氏は言う。一大ドラマであるとも。 従来、日本の文化は、中国や朝鮮から来たとも言われていた。そういった狭い考えの完全な否定である。さらに、サミュエル・ハンチントンが言うように、日本文明は世界八大文明の一つであると。こう田中氏は述べる。 つまり、中国や朝鮮と異なる、確固たるオリジナルの日本文化があるという
フルフォード氏の近著(2024) 2024年3月時点の地政学的分析 毎週フルフォード氏の英文による地政学レポート(Weekly Geo-Political News and Analysis)を読んでいる人でも、世界各地の個別事象の背後にある事情や日本との関りなどについては、足をとめてじっくり考える時間がないかもしれない。本書はそういう人のためにも、考察の糧を与える書といえる。 個々の事象を扱う週刊レポートでは、詳しい説明や根拠を挙げたサイトのURL、また(明かせる範囲
梨木香歩『歌わないキビタキ 山庭の自然誌』(毎日新聞出版、2023) 自然観察に共感しつつも人事観察には諸手を挙げかねる 2020年6月から2023年3月にかけて書かれた最新エッセイ集。 梨木香歩は小説とエッセイとでは違う反応を読者から引出しかねない。小説の愛読者ではあっても、エッセイには反感を覚えることがあり得る。 小説は、小説というフィクショナルな時空を拵え、読者もそういうものとして読む。 ところが、エッセイ、特に時事的問題についてのエッセイは、そうも行かないこ
レシェク・コワコフスキ『ライロニア国物語』(国書刊行会、1995) ポーランドの哲学者による奇想天外な短篇集 ポーランドの哲学者/作家レシェク・コワコフスキの短篇集(1963)。 原題は '13 bajek z królestwa Lailonii dla dużych i małych'(大人と子供のための13のおとぎ話)。1989年に英訳が 'Tales from the Kingdom of Lailonia and the Key to Heaven' の題で出
鎌田東二『超訳 古事記』(ミシマ社、2009) 古事記を口承の物語として記憶にとどめる これほど記憶に残る古事記は初めてだ。 もともと口承の物語だった古事記を宗教学者が語り直し、それを編集者が文字起こしし、整えてできたのが本書だ。記憶の中から語り、それを聞いた人が書きとめるという、古事記成立と同じプロセスを現代においてやったわけだ。 そういう本書だから、読む/聴く人の記憶に残るのは当然と言えば当然。 そういう口承性に関心があれば、ぜひとも、著者朗読の Audible
ネドじゅん『左脳さん、右脳さん。』(ナチュラルスピリット、2023) マインドフルネスに至るもう一つのシンプルな道 マインドフルネスの方法指南書はいろいろある。これはマインドフルネスの捉え方がいろいろあることから来ている。 本書の場合はマインドフルネスはざっくり言えば「悟り」と呼ばれる状態をさす。〈あたまのなかをぐるぐるまわっているひとりごとの思考が完全に消えて無くなった〉状態と、著者は説明する。 あくまで〈ひとりごとの思考が完全に消えて無くなった〉状態であり、〈思考
矢作直樹『魔法の言葉88』(ワニブックス、2022) 猫のように自分軸を持って生きる と、言われても、やや困る。よくわからない。 著者はさっそく助け舟をだす。 〈泰然自若として空を見上げている猫の姿〉を思い浮かべてもらえばいいと。 こんな感じか。(下) 「自分軸」に近いところにいるときの自分が自分らしさということだという。 そのときに大事なのは、〈自分にも周りにも感謝を持って眺めた「自分軸」〉だと。 この〈感謝〉がポイントで、〈自分への感謝を通して先祖にも感謝
倉本 一宏『紫式部と藤原道長』(講談社現代新書、2023) 紫式部は実在したと聞いて安心する 〈後世、紫式部と称されることになる女性は、確実に実在した。(中略)藤原実資の記した古記録である『小右記』という一次史料に「藤原為時の女(むすめ)」として登場して、その実在性が確認できる〉と、いきなり本書は始まる。 同様にして、和泉式部は実在したが(藤原道長の『御堂関白記』に江式部として登場)、清少納言は(一次史料に名前が出ないので)実在したかどうかは〈百パーセント確実とは言えな
紫式部「絵合」(11世紀) 「伊勢物語」復権の観点から最重要の巻 源氏物語の第17帖「絵合」の意味合いについて考える。 * 時の帝は冷泉帝(源氏と藤壺の子)である。そこへ前の(伊勢)斎宮が入内し、梅壺に住まう。以後、梅壺の御方と呼ばれる(後の秋好中宮)。 この梅壺は亡き六条御息所(源氏の恋人)の娘で、源氏は自らの二条東院へ引取り、養女として育てていた。 若い冷泉帝には9歳年上の梅壺は馴染めなかったが、絵という共通の趣味をきっかけに、寵愛が増す。 先に娘を弘徽殿女
「文藝春秋」2024年4月号(文藝春秋、2024) 峯澤典子「仲見世」を読む 詩誌でなく、めずらしく総合誌に掲載された峯澤典子氏の詩「仲見世」をまず読む(89頁)。 氏にしては短い10行の詩だが、他の人のエセーの頁の真ん中に挿入される形だから10行以内というような制限があるのだろう。 詩は次のように始まる。 花の雑踏で 別れ ふたたびめぐる はるのはじめの仲見世で なごりの ゆき か 花びらになったあの人が 短い詩なので何度も読返す。仲見世という空間に「ふたたびめ