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ポジティブ・ディシプリン①

「日本で17年に実施された意識調査では体罰を容認する人は約6割に上った。」

記事中のこの一文を見て大変驚いた。6割は多すぎやしないか。日本ではいまだかって「良い暴力」と「悪い暴力」があり、前者は容認されるという認識なのだろうか。

私が住むカナダでは、どんな理由があろうとも、身体的・精神的な暴力は一切認められない。もし、しつけと称しての暴力、または児童虐待、育児放棄などが目撃されれば、BC州の省庁のひとつであるMinistry of Children & Family Development (MCFD:子供と家族関係の全てを管轄する)の、24時間受け付け可能のトールフリー番号に通報されるだろう。

前の職場の同僚の旦那さんがこの仕事をしていて、緊急を要すれば夜中であろうと担当者が子供の保護に動くと話していた。

移民大国カナダには、様々な文化背景をもった人々が流れ込む。しつけとしての暴力が許される文化圏から移ってきた人も多く、しつけに関する常識が違う親たちに「カナダスタンダードのしつけ」を教え込むのは、なかなか骨が折れるようだ。私が直接見聞きした例をふたつだけ紹介する。

10年以上前、息子がまだ幼児の頃通っていたコミュニティーセンターに来ていた中国系のおじいちゃん。カナダに来てまだ日が浅く、英語はほとんど話せなかった。ある日、孫(当時4歳)に手をあげたのをコミュニティーセンターのスタッフに目撃された。スタッフの義務として、目撃してしまったからには見過ごすことはできない。

翌日さっそくMCFDの調査員がやってきた。言葉がわからないおじいちゃんはこの状況にすっかり動転し、あわてて仕事中の自分の娘さんを呼び出した。

娘さんの通訳を介して状況を理解したおじいちゃんは、はじめのうちはむっとしていた。「暴力といったって軽くはたいただけだし、こんなのは暴力のうちに入らない」というようなことを主張していた。

カナダ社会に根を下ろしている娘さんの説得もあり、最後は丸く収まったものの、おじいちゃんの言動は文化による感覚の違いというものを如実にあらわしていて、印象に残った。

私の友達が離婚した旦那さんも、MCFDの調査訪問を受けたことがある。理由は、子供の手首に結びつけた風船を大きな包丁で割ったから。

一家はその日、妻の友達と一緒にイベントを見に行き風船をもらった。子供がうっかり手放しても飛ばされないよう、子供の手首に風船の紐を結びつけるのはよくあることだ。

帰宅してその紐をほどいて欲しいといった子供(当時4歳)。固い結び目がなかなか解けないことに次第にイラつく父親。疲れていたのだろう、そのうちぐずぐずしだす子供。

イライラが沸点に達した父親は、台所にあるナイフをつかむといきなり風船に突き刺した。いきなりの予想外の展開にギャン泣きする子供。その場に居合わせ、事の一部始終を目撃した妻の友達の一人が、のちほどMCFDに通報したという。

東欧から移民したこの旦那さんは、自分の行為のどこが悪いのかを理解するのに時間を要した。反省よりも、自分が通報されたという事実に「いい父親」としてのプライドがおおいに傷つけられたことを根にもち、通報をした妻の友達を逆恨みした。

現場に居合わせた妻の友達が一人ではなかったことが幸いし、通報者の特定はできなかったが。

個人が持つモラル、常識、許容範囲といったものは、長い年月をかけて形成される。「郷に入っては郷に従え」を頭では理解できても、気持ちがついていかない現実も多々ある。

ドイツ、アメリカ、イギリスに続き、いつのまにか移民大国第4位の日本。今後さらに身近になるであろう移民に対し、日本人はどうか寛容であってほしいと願う。

世界からみたら特殊な部分も多い日本の文化や慣習を、外国人が体得するにはそれなりの時間がかかる。前述したような指導の機会と、新しい価値観に慣れ親しむ時間を与えずに彼らをジャッジするのはフェアではない。

さて、上の記事で紹介されている「ポジティブ・ディシプリン」(肯定的なしつけ)だが、記事内では具体的な方法には触れられていない。

次回は「Positive Discipline」の著者、 教育学博士のJane Nelsen, Ed.D. の考える「ポジティブ・ディシプリン」のゴールとは何か、そして、Dr.Nelsenをはじめとするエキスパートお墨付きの「幼児から小学生へ向けてのポジティブ・ディシプリン10の実践法」を紹介する。

#COMEMO #NIKKEI

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