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【探偵小説、今昔】タフじゃなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格がない…

最近、書店で
目が点になりました。

レイモンド・チャンドラーの
探偵マーロウ・シリーズの
『プレイバック』の文庫が
また新しいのが出ていたからです。

20世紀に活躍した作家
レイモンド・チャンドラー。
彼はハードボイルド小説を
よく書き残しました。

村上春樹も、
チャンドラーの愛読家で、
チャンドラーが書いた人気シリーズ
「探偵フィリップ・マーロウ」
シリーズを全巻、 
翻訳し終えました。
ハヤカワ文庫から。
 
それから、
また、同じハヤカワ文庫では
60数年前に刊行された
清水俊二さん訳の
「フィリップ・マーロウ」
シリーズが、
村上春樹訳と並行して
発売され続けています。

そこに、また新刊文庫が出たの?
いや、カバーや本文活字を
新たにした新装版でも
出たのかなあ?
新装版なら買わなくていいかな。
 
と思いきや、
ハヤカワ文庫ではなく、  
ミステリの老舗、東京創元社で
田口俊樹さんという3人めの訳者が
出したものでした。

「フィリップ・マーロウ」
シリーズでいちばん有名な
名言といえば、
『プレイバック』の
「タフでなければ生きていけない。
優しくなければ生きている資格が
ない」という言葉でした。
これは、60数年前に訳した
清水俊二さんの訳です。

で、村上春樹は
この名言をどう訳したのか?
といいますと、
「厳しい心を持たずに
生きのびてはいけない」と
訳し変えました。

それでは、最近、東京創元社から
刊行された『プレイブック』
田口俊樹さん訳では、
どうなっているんでしょう。
「タフじゃなければここまで
生きてはこられなかった」。

3人3様ですが、
思うのは、村上春樹や
田口俊樹さん訳では、 
フィリップ・マーロウが口にする
名言とはこれだ、とは
呼ばれなかったのではないか?と。

そういう意味では、
清水俊二さんの、
いかにも痩せがまんばかりする
ハードボイルドの主人公らしく
カッコつけた言い方が
もっとも心に残りますね。

原典への忠実さを大事にする
村上春樹の言い表し方では、
ハードボイルドらしくない。

忠実さも大事ですが、
村上春樹訳や田口俊樹訳では
読みものとして、
ちょっと物足りなさがある。

とはいえ、翻訳で
原典の形を変えるのは
よくないんじゃないか?
という考え方が、
今の翻訳界では一般的に
なってるのでしょう?

もしかしたら、
翻訳コンプライアンスみたいな
考え方が支配的にあるのかしら。
私は、やはり清水俊二訳に
まだ一票を投じてしまう。

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