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心象空間 エッセイ・小説

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エッセイは日常の出来事に触れ感じたことを心のままに、書き連ねています。 小説は頭の中のモヤモヤを言葉にする作業です。
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記事一覧

ショートショート「沈む石」

ショートショート「沈む石」

今日もツイテナイ。

その女は、足元にあった小さな石を蹴った。もちろん周囲にはだれも人がいないことを確認しての行為だったが、その行為が女にとって、ちょっとしたストレス解消になる。だがまたすぐ、イライラした。

イライラの原因は、別にこれといって特定するものもないのだが、つかみどころのない自身の感情が、女のイライラをさらに加速させるのだった。

「なにかいいことないかなぁ」

何の気なしにつぶやいて

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ショートショート「勇気ある決断」

ショートショート「勇気ある決断」

浅瀬に近い海のなかで、2匹の魚が会話をしていた。魚……といっても、むなびれやおびれの骨格はしっかりとしたつくりで、岸にかなり近い浅瀬まで泳ぐことができる。そこからは陸上の、緑の植物をぼんやりと見ることができた。

1匹の魚が言った。
「おい、きみは本当に挑戦するつもりかい?」

もう1匹の魚が陸を見ながら言った。
「ああ。おれは行く。陸に進出するのだ」

「だがあの世界にはまだわからないことが多い

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ショートショート「超・回復傷薬」

ショートショート「超・回復傷薬」

またやってしまった___。アキは流血した指先を見つめ思った。ほつれたスカートのはしを安全ピンで止めようとして、あやまってピンを自分の指に刺したのだ。血がどんどんにじんでくる。

アキは急いで絆創膏を探し、指に巻いた。こういうことは日常茶飯事だ。子どものころからそうだった。27歳になった今でも、怪我が絶えない。

せっかちな性格も多少の影響はあるのかもしれないが、ほぼ毎日のように怪我をしているとなる

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ショートショート「水の国」

ショートショート「水の国」

マロン小国は透明な湧き水あふれる美しい国である。
国民は蛇口をひねればすぐに美味しい水が飲めた。緑豊かで、多くの渡り鳥が羽休めにマロン小国に飛んでくる。

日光は木々の間から優しく照り注ぎ、光のマントが国王の住む宮殿に広がる。宮殿の窓辺に立っていたマロン小国の大臣が言った。
「このように素晴らしい自然環境は、他の国には無いに違いない。清らかな水がそこかしこにあふれ、飲み水に困ることはまったくない。

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短編小説「ホログラムの彼女」 第2話(全2話完結)

短編小説「ホログラムの彼女」 第2話(全2話完結)

第1話はこちら↓

その日は、ぐずついた天気で今にも雨が降りそうだった。湿った風が肌をなでる。また大雨になるかな……おれは玄関で、大きめの黒い傘を手に取った。風が強くなっても、これなら大丈夫だろう。

学校につくと、すでにクラスメートのほとんどがきている。

「おはよう。今きたか」

山野タクが話しかけてきた。

「雨が振り出すまえに、間に合ってよかったな。まぁ、おれもだけど」

タクはおれより数

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短編小説「ホログラムの彼女」 第1話(全2話完結)

短編小説「ホログラムの彼女」 第1話(全2話完結)

〈あらすじ〉
近藤カイは中学3年生。初夏のある大雨の日、クラスメートの田中ユイから傘を借りる。急速に接近していく二人。カイの幼馴染であるクラスメートの山野タクもまた、ユイのことが気になっていた。
そんな3人は、タクの叔父から手に入れた、世の中にまだ知られていないAIアプリ”Blue”、その”Blue”から誕生したコピー人間の存在に運命を大きく揺さぶられていく。奇跡のAIと出会い、彼らを待ち受けてい

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ショートショート 「こどもバッジ」

ショートショート 「こどもバッジ」

その母親は、役所の子ども育児支援課までエレベーターを上がっていた。子ども育児支援課は5階にある。5階に着くと、母親らしき女性たちが列をなしていた。

「政府のこんどの育児支援はそうとうなものね」

「びっくりよね」

そう話す女性たちの列に、その母親は加わる。申請書類は必要ない。個人カード1枚あれば事足りるのだ。

申請が済み、母親は無事にその証となるバッジを受けとった。

<こどもバッジ>

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ショートショート「完璧な恋愛」

ショートショート「完璧な恋愛」

その青年は、パソコンのまえに姿勢正しくすわり、モニター画面を見つめていた。画面には色白で髪の長い女性が映し出されている。

女性はほほえむと自己紹介をはじめ、青年の返答を待つ。青年はしどろもどろながらなんとか自己紹介を終えた。それから、青年と女性は互いに質問を繰り返した。

会話の途中、モニター全体がとつぜん灰色になった。
青年が一般的ではない質問をし、女性の表情がくもったからだ。青年はあわてて質

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ショートショート「ある芸術家の苦悩」

ショートショート「ある芸術家の苦悩」

その芸術家は悩んでいた。
思ったような作品が作れなくて1年がたとうとしている。

芸術家の作品は絵画だった。
繊細な色彩を放つ独特の世界観で、ファンも多い。展覧会を開こうものならファンが長蛇の列をなし、握手とサインを求めたのだった。

作品が売れていたころは、心に浮かんだものを感じるままに具現化することができた。自分が感じたものをキャンバスにそのまま投影し、人々を魅了することができた。

しかし今

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〈短編小説〉 私の中学生日記

〈短編小説〉 私の中学生日記

授業のチャイムが鳴った。
もう先生は教室に入ったかな、と頭の隅で考えつつ、今は目の前の昼食を選ぶことが私の優先事項だった。

パンが好き。
メロンパン、いちごクリームパン、牛乳パン、チーズパン、‥ああ。目移りしてしまう。けれどやっぱり大きなハム入りのサンドイッチだな。

売店のおばちゃんが「そろそろ授業始まるんじゃないの」というような目で私を見たけれど、私は知らんぷりした。

どうして大人の言うこ

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私たちは愛されていることを忘れている

私たちは愛されていることを忘れている

娘が通う幼稚園から送られてくる定期通信に、目を通すようにしている。

娘はプロテスタント系キリスト教会私立幼稚園に通っているのだが、長男の頃から数えて幼稚園通いは今年で10年目。

兄妹間の歳の差からこんなにも幼児教育を学び続けている母親も、珍しいのではないか・・・と我ながら思う。

だからと言って私自身は10年前と変わらず、今も育児に悩み、あたふたし続けている。

そんな私に有難い育児指南書が、

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天使にラブ・ソングを〜魂を動かすもの

天使にラブ・ソングを〜魂を動かすもの

久しぶりに夜更かしした。

私の大好きな映画「天使にラブ・ソングを」
金曜ロードショーでテレビ放送されており、最初から最後まで目が離せないのはいつものこと。
なんたって、ウーピーゴールドバーグ演じるクラブ歌手・デロリスがたまらなくチャーミングなのだ。

自由奔放でとにかく明るい。その表情はいたずらっ子の少女のよう、一眼見てもう目が離せなくなってしまう。

彼女は偶然目撃した殺人現場の犯人等から身を

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アンという少女を想う

アンという少女を想う

先週、子供が学校から借りてきた本を一気読みした。

「赤毛のアン」

カナダの作家・モンゴメリ作の長編小説、日本でもかなり有名な本だ。
ページを捲るごとに幼いころ憧れていた世界が蘇る。

グリーンゲイブルズの自然豊かな風景、アンという赤毛とそばかすの少女が孤児院から老兄妹の家に引き取られるまでの道のり、アンはこれから始まる新生活に胸を躍らせる。

これまでかなり苦労してきたせいか痩せて枝のような彼

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私にとっての絵と詩

私にとっての絵と詩

今月は、幾作品か絵を描き終えた。
ただ私の場合、絵を描き終えて「さぁ完成だ」とはならない。

絵に何か一言書き添えたくなって、早起きした朝は描いた絵と向き合い頭に浮かぶ言葉を書き留めていく。
それがいつも、「詩」という形で完結する。

詩は、描き終えた絵をぼーっと眺めながら心に浮かんだ言葉を紡いでゆく。
それはまるで、言葉の煌めく小さな星屑を組み合わせるかのよう。

広い集めては繋ぎ、外しては別の

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