小説【博物少女 ヒロメリエ!】#1-07
第1話 SCENE 3-②
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すずりは私に一礼し、カランコロンと厚底の下駄を鳴らしながら
階段を上がっていった。踊り場で二人が会話を始める。
「………はい。……はい。フフッ」
他愛のない雑談をしているのか、すずりの表情はとても柔らかい。
しかし聞こえてくるのはすずりの声ばかりで
Xの声は全く聞き取ることができなかった。
「……はい、わたくしをすずりと呼んでくださいました。フフフ……」
……やはり「マジウケる」話で盛り上がっているのだろうか。
◇◆◇◆◇
「……あ、はい。かしこまりました」
Xから何かの指示を受け取り、すずりはXに一礼したのち
階段を降りて再び私の元にかけ寄ってきた。
「お待たせいたしました」
「……あの人と何を話していたんですか?」
「はい、今後の事などに関してです」
するとすずりは私物らしきスマホを文字通り懐から取り出した。
彼女のスマホはシックな着物と対照的に、
可愛らしい黄色い花柄のカバーを付けていた。
「少々お待ちください。今…エ、X?様から原稿が送られてくるそうです」
すずり自身あの黒コートをXと呼ぶのに全く慣れていない様子だった。
この少女も普段からXに随分振り回されている事だろう。
それにしても随分と───
「今周りくどいって思ったでしょう?」
「うわぁ!?」
気がつくとXが私のすぐ近くまで接近していた。
宙にでも浮いてきたのか、足音が全く聞こえなかった。
「キミの反応、いちいち面白いわね。」
「それはどうも……、原稿ってなんの原稿ですか?」
「キミへのラブレターみたいなものよ。」
世の中にこんなに嬉しくないラブレターがあるとは思わなかった。
「X様、メールが届きました!」
「そう、それじゃあ読み上げてちょうだい」
「かしこまりました。それでは──」
<③に続く>
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