見出し画像

小説【博物少女 ヒロメリエ!】#1-14

 第1話 SCENE 4-⑥

--------------------------------  
  
  すずりの見事な励ましに、私は素直に感心してしまった。
 「すごいですね……、私がすずりさんくらいの年齢のころは
  万葉集なんか教科書でしか知らなかったのに」
 「え? あの……わたくし、一応年齢が───」

 「すずりさん、こんなこと聞いてもわかりきってると思いますが……
  私なんかが博物館の館長に向いていると思いますか?」
  しばらくの静寂ののち、すずりは口を開いた。
 
 「わかりません」

  それは……そのとおりだ。是でも非でもない。
  いくら見事に和歌を詠んでいても、こんな
  年端も行かない少女にすべき質問ではなかった。
 「──ですが」


 「わたくしは館長様が館長様だったら、すごく嬉しいです!」
 

  すずりの屈託のない笑顔が
  カキツバタの青い花びらの横ではじけた。

 「……ありがとうございます」
  正直言って今日Xに遭遇してからこの瞬間まで
  自分の身に何が起きているのかほとんどわかっていない。
  しかしすずりの笑顔は、今の私には十分だった。
  最早どうにでもなれといった感じだ。
 
 「私に務まるかどうかわかりませんが……
  すずりさん、これからよろしくお願いします」

 「……! はいっ こちらこそよろしくお願いいたします 館長様!」

イラスト2 3


 <SCENE 5に続く>

 <#0に戻る>


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?