『サヨナラ観覧車』
ずっと遠くから見つめるだけだったあなたと休憩室で偶然二人きりになり、あなたから話しかけてくれた。実はずっと気になってたんだと言われて、一瞬、運命なんてものを信じてしまった。
翌日も休憩室でお喋りして、その日あなたは夕飯に誘ってくれた。憧れだったあなたとの食事の時間は夢心地のまま過ぎていった。別れ際に「今度の日曜日、遊園地にでも行かない?」と言われた時には、あまりの急展開に戸惑ったけど、私に断る理由は無かった。
日曜日。
長い間、ただ一方的に好きだった人と一緒に遊園地にいる。その事実だけで、今日は朝から幸せでいっぱいだった。
緊張気味の私に「知り合ったばかりなのに、いきなりデートに誘っちゃってごめんね」と笑うあなたの顔を見ながら、「デート」という言葉にさらに胸が高鳴った。そして、このまま正式に付き合うことになることを願った。
それなのに私が「最後に観覧車に乗ろうよ」なんて言ってしまったばっかりに。最後って、今日のデートの最後にって意味だったのに。
あなたは勘違いをしたのか、それとも勘違いしたフリをしたのか。「最後ね、分かった」と言って観覧車に乗り込み、間もなくてっぺんという所で、「これで最後、サヨナラなんだね」と悲しそうな顔で言った。違う、そんなつもりじゃなかった。サヨナラなんて、したくなかった。
私たちの乗ったゴンドラが、観覧車の一番高い所までたどり着いた時、あなたはゴンドラのドアを開けた。
何で開くの? 細工でもしてたの?
そんな質問を投げかける間も無く、あなたは私にサヨナラを告げた。私には全く納得のいかないサヨナラを。
そして私はもうすぐ、この世にサヨナラを告げざるを得なくなるのだろう。今、あなたはゴンドラの中で、どんな顔をしているの?
作:田中エイドリアン
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