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『相棒』

 この世に生まれて三十年以上、俺はずっと旅を続けている。行き先は常に相棒任せだ。近場を行ったり来たりする日々を過ごすこともあれば、遠くまで行くこともある。俺の相棒はコロコロ変わり、一人の相棒と長期間一緒にいることもあれば、出会ってすぐに別れることもある。一日の間に何度も相棒が変わるのも珍しくない。
 相棒が変わるのには、いくつかのパターンがある。一番好きなのは、相棒が直接次の人に俺を引き渡すパターンだ。これだと、すぐに旅が続けられる。だが、たいていの場合は、いったん相棒待機所のような場所に連れて行かれる。そこから間もなく次の相棒の手に渡ることもあれば、他の旅人たちと一緒に、長い間、相棒待ちをすることもある。レジと呼ばれる待機所なら比較的すぐに次の相棒と出会えるが、自販機と呼ばれる待機所だと、次の相棒が現れるまでに時間がかかりがちだ。
 え? 俺の名前? 歴代相棒はみな、俺のことを「百円玉」って呼んでるよ。


作:田中エイドリアン

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