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『フラン犬スーツケース』

 博士は長年の研究の末、犬のDNAをスーツケースに移植し、生きたスーツケースを完成させた。見た目はごく普通のスーツケースだが、タイヤのような足は本人の意思で動くため、持ち主が引いたり持ち上げたりする必要は無い。そして、犬らしい忠誠心があり持ち主に懐くものの、スーツケースなので吠えることも無い。そして、もちろん中に荷物を詰めることが可能だ。
 スーツケースと犬の良いとこ取り。そんなこの世に一匹しかいないスーツケースに、博士はフラン犬スーツケースと名付けた。

 「スーツケースとして旅に連れていけるペットなんて、わしのような独り身の年寄りにはもってこいだ。
 見た目は普通のスーツケースだが、実際には生き物だから飛行機に乗せるのは何かと面倒が起きるかもしれない。だが、列車なら大丈夫だろう。早速、来週コイツを連れて旅行にでも行こう」
 
 翌週。博士はフラン犬を連れて列車に乗り、旅行へ出掛けた。すっかり博士に懐いたフラン犬は、列車の移動中は居眠りする博士の足元でスヤスヤと眠り、目的地では博士に寄り添うように歩を進めた。
 数日間の旅行を楽しんだ博士は、帰る前日の夜、旅先で買ったたくさんの食べ物や次の研究の材料を、フラン犬の中に詰め込んだ。
「可愛いうえ、荷物もたっぷり運んでくれるときた。なんて素敵なペットなんだ」
 翌朝、博士は嬉しそうに帰路へ着いた。
 
 家に着くと、博士はフラン犬を開いた。すると、入れたはずの食品がすっかり無くなっているではないか。
「お、お前、食いよったな……!」
 フラン犬は慌ててチャックを閉めて立ち上がると、廊下の方へ逃げて行った。
「うーむ……可愛いやつめ……」


作:田中エイドリアン

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