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『転勤族』

※超ショートショートコンテスト テーマ「ライオンの像」応募作品

「あ。俺、転勤だ」
お知らせを見ていた相棒が言った。
「どこに」
「福岡。あそこ快適でいいんだよね。ここより静かだし」
「そっか。お前が居なくなるのは残念だけど、良かったじゃん」
「できれば松山とかが良かったな。温泉あるし」
「積極的だね。僕は東京のままがいいや。このハイセンスな環境に慣れちゃうと、他の場所なんて考えられないね」
ここに居ると、近くの建物も、行き交う人々も、みんな洗練されていて、自分まで上等になった気がしてくる。嫌いじゃない感覚だ。
「でも、君も転勤みたいだよ」
「え?うそっ」
足元に入れたまま開いてもいなかったお知らせの数々を慌てて漁るが、日頃の無精が祟ってなかなか見つけられない。
「地方は嫌だな。いっそ海外とか。この仕事フロリダにも席なかったっけ?」
「いきなり規模がでかいな。あ、でも本当に海外だよ、君」
「おいおい、さすがにからかってるだろ」
ようやく文書を見つけた。転勤一覧には確かに名前がある。
相棒は東京銀座の百貨店前から、福岡天神の百貨店前へ。そして僕は、東京銀座の百貨店前から、エジプトギザのピラミッド前へ。
「海外おめでとう。スフィンクス当番頑張ってな」


作:茨城タワラ

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