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ごみ拾い日記

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フリーランス

フリーランス

個人での取材の申し込みで所属企業名を書くところがあるとそこに「フリーランス」と書く。堂々と書くこともあれば、心細い気持ちで書くこともある。

これから書くのは、ずいぶんまえに書いて、下書きに入れたままになっていた話だ。

朝、公園のベンチで手帳の忘れものを見つけた。
ベンチの上に、今までそこに誰かがいたという気配があったので、忘れものだと思った。

手帳には日付と鳥の名前とその数が、几帳面な文字で

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Lost and Found (MONKEYのための習作)

Lost and Found (MONKEYのための習作)

 公園のごみを拾い始めたのは、犬が死んだからだ。

 目鼻の奥にいつも水風船のようなものがあって、たまに破裂する。あとに残る暗く湿った洞穴のような時間を、毎朝ごみを拾い、集積所に預けて帰ることで埋めていた。

 ペットボトル、缶、瓶、スナックの袋、煙草の箱、吸い殻、マスク、ボールペン、イヤホン、コンドーム、靴、ハンガー、絵画、薬、台本、花火……。
捨てられたもの、落とされたもの、忘れられたもの。そ

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ChatGPTも追いつけない領域。不二と蝉時雨。

ChatGPTも追いつけない領域。不二と蝉時雨。

電話で話した人が「すごい蝉時雨ですね」と言った。仕事場がケヤキの樹冠の下にあるので、蝉時雨が降りそそぎ、その声はもしかしたら下からも昇ってきているのだ。毎日そこにいると、いつのまにか耳鳴りのようになって慣れてしまっていた。

先日お茶室で「枝上一蝉吟」と書かれた短冊を拝見した。初めて見る言葉だった。しじょういっせんぎんず、と読めなくても漢字を知っている人なら「蝉の季節か」と夏を感じるかもしれない。

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ハルジョオン ヒメジョオン

ハルジョオン ヒメジョオン

子供のとき、びんぼう花と呼んだりした。
大人になって調べたら、「庭の手入れもできない貧乏な人の庭に咲くことからきている」という説を見つけたけれど、その庭もわたしは持っていない。

「ハルジョオン ヒメジョオン」はユーミンの曲だ。
夕方のさびしさに満ちている。
「わたしだけが変わりみんなそのまま」と歌うけれど、わたしだけが変わらずに成長もせずに取り残されているような気持ちになる。

朝、野道を歩いて

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ちさのはな

ちさのはな

朝の公園のベンチに、ポップコーンが撒き散らされている、と思った。

それはポップコーンではなくて散った花だった。
エゴノキの下にベンチがあった。

エゴノキの季節になると、父を思い出す。実家の庭を受け継いだ妹は、父が好きだった木があったことを植木屋さんに知らされた。エゴノキだった。

わたしは昔、父に、エゴノキが好きだと話したことがあった。風に揺れていっせいに笑っているみたいな花が今頃の時季に咲く

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お花見する外国人観光客たち。うれしい朝。

お花見する外国人観光客たち。うれしい朝。

井の頭公園に、旅行者が増えてきた。
さまざまな国の人たちが桜を背景に次々と記念撮影していて、いつも見ている風景がとくべつなものだったことを知る。ニューヨークやパリや京都でもないのに。みんな、ジブリを目指してくるのだろうか。

木の下のベンチで一服しているわたしたちも、もしかしたら彼らの投稿に写り込んで、全世界に発信されている。

年配のご夫婦らしきふたりに英語で道を尋ねられて途中まで同行する。台湾

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Lost and Found

Lost and Found

ごみ拾い日記を最後に更新したのは4ヶ月前。紅葉を楽しみつくしていた頃だった。昨年ほど紅葉を楽しんだ年はなかった。

で、ごみ拾いはどうなったのかといえば、大晦日も元旦も拾って、手に負えなそうだから避けようかと思っていたお花見の季節も拾って、そしてお花見もそろそろ終わりという今朝も拾った。

都内の大きな公園はいろんなものが落ちていて、いろんな人や動物がいて、いろんなことがありすぎて、リアルタイムに

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カラスの子とまとめ系ごみ(ごみ拾い日記5)

カラスの子とまとめ系ごみ(ごみ拾い日記5)

ごみ拾いの帰りにいつもコーヒーをのむ、好きな場所がいくつかある。
そのうちの一つで、近くにカラスが来て、こちらをうかがっていた。みていると、こちらへ降りたって、ひじ掛けにとまった。ごみはもちろん、集積所の人に預けたあとで、食べものも持っていないのに。結構かわいい顔をしている。と思ったら、背もたれ伝いに、肩に乗るかと思うほど近くに寄ってきたので、ドキドキした。

毎朝カラスを撮影している人に会ったの

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Life is Beautiful と思う瞬間(ごみ拾い日記4)

Life is Beautiful と思う瞬間(ごみ拾い日記4)

朝の公園で、ごみの散らばった、落胆するような風景の10倍以上は、いまここで生きている、驚くほど美しい動物や植物に出会える。朝からきれいだなーと感動することが、たくさんある。それをリールにするのが最近のマイブームです。

ごみを拾った帰り道、緑のなかを通って帰ると、孤独とか闇とかに触れてしまった心が、浄化されていく。
これが街へ出て買い物したりしたら駄目で、ただ無心に緑のなかを、アスファルトよりも土

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時間をひきのばす法則(ごみ拾い日記3)

時間をひきのばす法則(ごみ拾い日記3)

情報を、発信すればするほど、情報が集まってくるように、時間を使えば使うほど、時間が増えている気がしている。なにかの法則が働いているのかもしれない。

午前中に都内でアポがあるので、ごみ拾いは休みにしようと思った昨日は、でも、あまりにいいお天気で、体が外に行きたがっていて、それなら自転車で行って、早く帰ってこよう、といつものように忍者みたいにトングを背負って、出かけた。

すると、橋の上で、小鷺の朝

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甘い香りに包まれる(ごみ拾い日記2)

甘い香りに包まれる(ごみ拾い日記2)

秋が深まる頃、10月の半ばくらいだったか、43万㎡ほどの広大な公園を、ごみを拾いながらゆるく一周するなかで、特定の場所で甘い匂いがするのに気がついた。
いつも同じ地点で、空気のなかに甘い匂いが漂っている。木犀系の香水のような香りではなくて、メープルなような、キャラメルのような、でもどこかフルーティな。

公園には池があって、地面が町より低くなっているから、どこかの厨房から流れてきているのかもしれな

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ごみ拾い日記、始めます

ごみ拾い日記、始めます

公園でベンチにすわろう、と思ったとき、そこにペットボトルやファストフードの包みが散らばっていたら、ほかのベンチにすわった。
それを片づけている清掃の人を見かけたら、片づけても片づけても毎日こんなでは、つらい仕事だろうなぁ、と思った。
空の写真を撮ろう思ったら写り込んでしまう電線のように、それは日常すぎてもう少しで慣れてしまうような、都市の光景だった。けれど、慣れなかった。

9月のある日をきっかけ

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