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読書

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今すぐ読まなければいけない本

今すぐ読まなければいけない本

ガザは実験場だという。百万人以上の難民を閉じ込め、50年以上占領下に置き、さらに16年以上は完全封鎖して、食料も水も医薬品も生きていくギリギリしか与えなかったら何が起こるかという実験の。イスラエルの最新兵器の性能を実演してみせる実験の。それらを続けたとき、世界はどうするのか、という実験の場だという。

結果はどうだったか。世界は何もしないことがわかった。イスラエルによる戦争犯罪は国際的に裁かれず、

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舞台裏好き

舞台裏好き

パンでも本でも、舞台裏が好きだ。
舞台裏では、つくられたものにかけられた時間や想いがよくみえる。もちろんまず先に、純粋に作品を味わったら舞台裏に行ってみたくなって、行ってみる、という流れがいい。

出張の時に新幹線で読もうと思ったのに、つめたい雨の週末だったので一気読みしてしまった、大好きな白水社EXLIBRISの本、『アイダホ』(エミリー・ラスコヴィッチ)。3時間くらいの映画を2本続けて観たくら

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月の本棚 under the new moon

月の本棚 under the new moon

2023年を振り返って、何よりうれしかったことは、夢だったハードカバーの文芸書を出せたことでした。

読書エッセイで、パン屋さん「ル・プチメック」の文化発信基地だったオウンドメディア(残念ながらいまはclosed)で連載していた『月の本棚 清水美穂子のBread-B』をきっかけに生まれた『月の本棚 under the new moon』です。

コロナ禍で、先が見えない暗闇のような日々、こんな本を

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あのころのあの家の記憶

あのころのあの家の記憶

前回書いた江國香織の『シェニール織とか黄肉のメロンとか』で老女がふと思ったこと、その何気ない2行が物語の本筋とは無関係に、わたしに生まれ育った家を思い出させた。ある香りが特別な記憶を思い起こさせるみたいに。そのセンテンスの寂しさは、澄んだ水に投げ入れた小石のように、つめたく沈んで底に落ち、ゆらゆらと輝いた。

わたしが生まれ育った家は二度建て替えられて、いまは妹家族が住んでいる。リビングにはあのこ

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50代後半の女で集まって読書会をしたら

50代後半の女で集まって読書会をしたら

最初は確か『流しのしたの骨』だったと思うが、江國香織の小説と自分の実人生とで、登場人物の考え方や感覚がかなりな頻度でシンクロするので、「どこかで見てた?って思うことがあるよね」と当時、友達と話した。前世紀のことだ。自意識過剰というより代弁。感じていたことや考えていたことが、あの美しく確かな日本語で表現されているのを、ドキドキしたりうれしく思ったりしながら読む。
江國香織はわたしにとってそんな作家だ

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その言葉の意味を、わかっているか

その言葉の意味を、わかっているか

わたしたちはふだん、言葉を使って生活しているが、その言葉をちゃんと使えているだろうか。
意味を真剣に考えてみたことがあるだろうか。

国立市公民館主催講座「図書室のつどい」で、詩人で明治大学理工学部教授の管啓次郎さんのお話を伺った。

詩やコラム、書評の朗読のあいまに、管さんは冒頭のような問いかけを放っていく。

大人になり、社会に出ていくにしたがって、型に押し込められるようにあてはめられたアイデ

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アボカドトーストはダサい?という話から

アボカドトーストはダサい?という話から

「アボカドトーストというのはミレニアル世代が好んで食べたもので、Z世代から見るとcheugy(時代遅れでダサい)なのだそうです」

週末になると地元のカフェで朝食をとり、街の定点観測をしているEさんが先日、アボカドトーストを前にして、感心したふうに投稿していた。

わたしも「へぇ〜」となった。
「じゃ、彼らにとってcoolな(イケてる)食べものって何だろう?」

Eさんはわたしの疑問に答えるのは難

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犬とおじさん

犬とおじさん

アイシングのかかったお菓子を見かけると素通りできないのと同じで、理由はよくわからないけれど、犬とおじさんが主役の小説を見つけたら、読まずにはいられない。

『ある犬の飼い主の一日』(サンダー・コラールト)もそうなのだった。ヘンクは読書家の中年男。老犬スフルクと暮らしている。そしてある日、恋におちる。

それだけなんだけれど、それはアイシングがかかったお菓子より長いこと楽しめる。哀しくない。感じとし

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下北沢本屋B&B『月の本棚 under the new moon』出版記念イベント

下北沢本屋B&B『月の本棚 under the new moon』出版記念イベント

食べものを一口、味わっただけで、食材の情報やつくつられた環境はもちろん、つくった人の心理状態までを感知してしまう才能(障害ともいえる)を持ってしまった少女の物語を手にしたのは、いつもの書店だった。そういう設定を興味深く読み、当時webで連載していた『月の本棚 清水美穂子のBread-B』で紹介した。

そのとき自分の置かれている状況や、時間や空間から一旦離れて、別のところへ連れて行ってくれる本が好

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史上初の現代の茶道映画

史上初の現代の茶道映画

史上初の現代劇のお茶の映画といわれる『日日是好日』(2018)。その舞台裏を原作者の森下典子さんが書いたのが『青嵐(せいらん)の庭にすわる 「日日是好日」物語』で、これがとてもおもしろかった。

映画制作の現場は、素人にはいちいちおもしろい。
四季を感じさせるあの映画をたったひと月で撮ったなんて、映画ならではのマジックだ。黒木華や樹木希林の女優としてのすごさも感動的だ。原作者としてそこに立ち会える

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優雅な生活が最高の復讐である

優雅な生活が最高の復讐である

フィッツジェラルドが憧れ、小説『夜はやさし』のモデルとした夫婦、ジェラルドとセーラ。そのふたりのノンフィクションが、この本だ。フィクションにもノンフィクションにも描かれる夫婦ってどんなふうなんだろう……?
この本はいまから60年前、雑誌『ニューヨーカー』に連載され、日本でも1984年(リブロポート)、2004年(新潮文庫)に翻訳が出ているが、久しく絶版となっていたものを今回、全面的に改稿、アメリカ

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定形外な『アスファルト』と幸せのかたち

定形外な『アスファルト』と幸せのかたち

先週の話の続き。『公園に行かないか?火曜日に』を読み終わって、『やがて忘れる過程の途中』を読み始めて、いずれもアイオワというアメリカのまんなかあたりで、英語に苦労する日本の作家の話をおもしろく読んでいる。

アイオワという場所を説明するときに、ケビン・コスナーの『フィールド・オブ・ドリームス』があげられていたが、『マディソン郡の橋』もアイオワが舞台だったなと思い出していた。

と、今日観たフランス

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月よみ堂 (古本バル)

月よみ堂 (古本バル)

 古書店で本を買うのは気軽で楽しい。

 どんな出合いが待ち受けているかわからない意外性もいい。思いがけず手にした未知の、それも結構昔の本がおもしろかったとき、世のなかにはこんな本があったのかという感慨とともに、その本が経てきた時間を想う。それを書いたひとや読んだひとのことを想像する。
 
 古書店へは、気合いを入れるのではなく、緊張をゆるめるために行く。

 それはひとりで飲みにいくときの感じと

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12種類のいちごサンドから始まる、めくるめく果実とパンの世界。

12種類のいちごサンドから始まる、めくるめく果実とパンの世界。

Feb.13 2020

いちごサンドが12。数えると、いちごを食パンにはさんだサンドイッチだけで12種類あった。切り方、挟み方、合わせるクリームやフルーツによって、異なるビジュアルや味わいになる。ふんわりしっとりとした食パンを用いたいちごのサンドイッチは、ショートケーキのように魅力のある存在で、フルーツサンドの基本として、この本で紹介されている。

ナガタユイさんの新刊『果実とパンの組み立て方』

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