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シロクマ文芸部参加作

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note内企画「シロクマ文芸部」参加記事のまとめです。
運営しているクリエイター

記事一覧

「人の降る街では転落死を防ぐために政府から羽根が支給された」#シロクマ文芸部

 赤い傘を差していたので、血の雨が降っているのに気付くのが遅れた。手首を切った女性が空を…

泥辺五郎
8日前
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「声がら」#シロクマ文芸部

 金魚鉢に残された金魚の抜け殻を見つけ、夏が近いことに気がついた。確か去年もそうだった。…

泥辺五郎
2週間前
19

「靴になった骨」#シロクマ文芸部

 白い靴のような骨が残った。祖父は日々歩き続けているうちに足が靴のようになった人だった。…

泥辺五郎
3週間前
20

「言葉の日常」#シロクマ文芸部

 子どもの日常を記しながら、自分は子どもの頃どんなことを考えていたのかを思い出す。 「今…

泥辺五郎
1か月前
19

「桜の花びらを呑み込む蛇の話」#シロクマ文芸部

 春の夢、と名前をつけられた蛇がいる。桜の花びらを主食としているから肌が桜色に染まったせ…

泥辺五郎
1か月前
17

「言葉を散らして掃き寄せる」#シロクマ文芸部

「花吹雪」と題した文章を、こんな風に締めた。  そんなことを書いてから約一か月半が過ぎた…

泥辺五郎
1か月前
35

「風待ちロマン」#シロクマ文芸部

 風車が止まったので鍋で煮込んでいたシチューが冷えてしまったの、と妻が言った。この町の動力を風車に頼り過ぎていたせいだ。すぐに復旧するだろう、と私は言って、冷えたシチューを流し込んだ。これはこれで、と言いながら、水風呂に入り、使えないテレビの黒い画面を眺めた。  そのまま風車が動かなくなるなんて誰もが思わなかった。風が吹かなくなった。煙は真上にしか上がらなくなった。雲は一つどころに留まったまま、次第に縮んで消えていった。  人を焼く煙を見上げながら首が痛くなってきた。  

「入学魔法」#新生活20字小説

黄色の学帽が園児を小学生に変えてしまう。 シロクマ文芸部の企画「新生活20字小説」に参加し…

泥辺五郎
2か月前
24

「あの頃に戻ることはできないけれど再現動画は撮れる話」#シロクマ文芸部

 変わる時は突然訪れるわけではなく、日々少しずつ変化している。息子の小学校用体操服などを…

泥辺五郎
2か月前
13

「執筆怪談」#シロクマ文芸部

 始まりはバイトをさぼる口実だった。当時入院中だった父方の祖母の見舞いに行くから、と。あ…

泥辺五郎
2か月前
28

「マイクラ・小学校ごっこ・小学生恋愛事情」#シロクマ文芸部

「桜色の花びら」はマインクラフトのバージョン1.20大幅アップデート時に追加されたアイテムで…

泥辺五郎
2か月前
33

「馬糞症にまぎれて」#シロクマ文芸部

 春と風の取り合わせが花粉症という前時代の病気を思い出させる。しかし現代に花は咲かない。…

泥辺五郎
3か月前
21

「うるう秒に生まれて」#シロクマ文芸部

※実際の「うるう秒」は閏月には設定されません。  閏年、閏月、閏秒に生まれた僕は、四年に…

泥辺五郎
3か月前
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「宇宙律俳人とは旅に出ないことにした」#シロクマ文芸部

 梅の花を探しに出た。妻と二人で。長い長い入院生活が終わって自宅に帰ってきた私は、弱った足腰を鍛えるために、妻を散歩に誘ったのだ。咲き始めた梅の花を探しに行こうと、連れ立って歩いた。 「あれが梅かな」 「それは桜ですよ」 「梅って黄色だったっけ」 「それはたんぽぽ」 「これこそ梅の花だろう」 「それは公園で遊び疲れてベンチでうとうとしている孫のウーネ゙ですよ」  私が入院している間にこの季節に咲く花の種類も、人々の顔も、すっかり変わってしまった。 「おばあちゃん、おはよ」