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読書感想文

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現在読んでいるもの。最近読了したもの。過去に読了したもの。色々と上げていきたい。
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記事一覧

ヒューマニズムの外

ヒューマニズムの外

ある人が「ヒューマニズムは人間が過酷な現実を見ない為に創り出した願望的な嘘」と言った。
ありのままの現実世界を冷徹に直視した時、ヒューマニズムの内側に存在する様々な欺瞞に気が付くと言うのだ。
公正世界バイアスなどは最たるところであろう。人間は意味や理由を求めるが、その挙げ句には証明されていない物語に身を委ねる事で、生きる為の精神的安定を図ろうとする。大脳皮質を肥大化させ高度な思考力を持つ代償として

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ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~読了

ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~読了

結婚した娘が置いていって、たまたま家にあったビブリア古書堂の4冊目。これが最後である。このシリーズはまだまだ続いているようだが、自分で買ってまで多分読まないだろう。

シリーズ4巻目の本作は、江戸川乱歩の稀覯本を中心に話が進められる。
推理小説がテーマになったのは初めてだ。古い西洋館、隠し宝箱、暗号、など、今回の物語は小道具も含めて推理小説のエッセンスに満ちている。
一方、確執のある母親との再会、

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クーンツ「ベストセラー小説の書き方」読了

クーンツ「ベストセラー小説の書き方」読了

この本は、作家を志す人やベストセラー小説を書きたい人達の夢を挫くに充分な、ウンザリするような忠告で満ち溢れている。

しかし作者のクーンツ自身は、自らの経験のほぼ全てを惜しげもなく大盤振る舞いしている風で、アイデアの出し方やスランプからの脱し方など、あまり類を見ない手引書だ。ハウツーものというより、米国における作家という業界が、如何に過酷な世界であるかを解説した本だと言えよう。

この本が出版され

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橘玲「バカと無知」感想

橘玲「バカと無知」感想

何となく後味の悪い本だ。
書いてあることには納得できるし、この本を批判できる明確な指摘はできないのだが、スッキリと爽やかに理解できないのである。
それはひょっとしたら、この本に書かれているように、私の自尊心が警報を鳴らすからかも知れない。
「人間とはこうしたものなのだ」という決めつけに、単なる反発心を持ってしまうだけなのかも知れない。
確かに、ある種の誘導感は否めない。
この本では、様々な心理実験

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「ビブリア古書堂の事件手帖3~栞子さんと消えない絆~」読了

「ビブリア古書堂の事件手帖3~栞子さんと消えない絆~」読了

1巻で不覚にも涙腺を刺激された坂口夫妻が、この巻でも再び登場する。しかも、今回もナカナカに泣ける。
案外、この本はミステリというよりも、古いタイプの人情噺なのだ。ブラウン神父というよりも寅さんに近い(笑)。
この調子でまだ坂口夫妻はちょくちょく登場し続けるのだろうか?
そしてまた、今回さらに、栞子さんの母親に関する謎が一歩進展する。シリーズものというのは、後を引くように出来ている。常套手段だが、巧

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デニス・ルヘイン「ミステック・リバー」読了

デニス・ルヘイン「ミステック・リバー」読了

再読である。改めてじっくりと読んでみると、恐ろしく生々しい。
最初に読んだのは20年前で、確か通勤中に読んでいた。だから今回再読するまで、この作品の真価に気が付かなかったのかも知れない。ミステリーとしては話の筋だけ追うと、わりと単純とも言える。
クリント・イーストウッド監督で映画にもなった。映画になってみると、更に単純で、ケビン・ベーコンの刑事とマフィアのショーン・ペンの因縁話とも取れる。

しか

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「ミステリーの書き方」読了

「ミステリーの書き方」読了

アメリカ探偵作家クラブ(MWA)のメンバーによるアドバイス集である。
あまり日本のミステリーファンには馴染みの無い作家が参加しているように思う(私が知らないだけかも知れない)。日本とアメリカでは出版事情や様々な点で相違があるので、参考にならないところも多いが、創作の観点からはとても勉強になった。希少なアドバイス集だと思う。
この本が他のハウツー本と一線を画する点は、第一に複数の作家の現実的な創作事

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恩田陸「puzzle」感想

恩田陸「puzzle」感想

「六番目の小夜子」以降、恩田陸さんの小説はいくつか読んでいるが、共通して言えるのは、お膳立てがとてもワクワクするという点である。
このpuzzleにしてもそうだ。無関係に見える5つのメモ。どれも新聞や雑誌などから抜粋された文章のようだ。書かれた年代も話題もバラバラ。それらが廃墟となった孤島に集結する。孤島には死体が3つ。体育館での餓死、映画館での感電死、屋上での墜落死。各章は3つのP。piece(

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パトリシア・コーンウェル「検屍官」読了

パトリシア・コーンウェル「検屍官」読了

- 検屍官の役割について掘り下げ、現代社会における法医学の重要性を強調する。
- 著者の描写に注目し、人物像や事件のリアルさを論じる。
- 検屍官の仕事についての苦労や困難を紹介し、彼らの重要性を再確認する。
- 作品内に登場する科学技術や法律の改善点を指摘し、社会の安全性向上について考える。
- 検屍官の視点から見た事件の真相に迫り、読者に理解を促す。

AIアシスタントを「使ってみる」にしたら

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「ビブリア古書堂の事件手帖2~栞子さんと謎めく日常~」読了

「ビブリア古書堂の事件手帖2~栞子さんと謎めく日常~」読了

このシリーズを2巻読み終えて、やはり推理小説というよりは青春ものに近い小説なのだと、改めて思った。
前巻に比べて栞子さんの名探偵ぶりは、少し抑えられているようにも思う。更に言えば、妄想ぶりは加速している。憶測に過ぎないと前置きをしながらも、他人の事情をかなり詳細に想像する。しかも答え合わせが無いと来ている。推理小説で言うと、探偵が証拠も無しに想像した事を真相として解明し、濡れ衣かも知れないまま終わ

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「海のある奈良に死す」読了

「海のある奈良に死す」読了

読了まで、かなりの時間がかかってしまった。遅読なせいだけではなく、勿論日常生活に時間を取られていた事もあるのだが、やはり正直な告白をするなら、読みにくかったのだ。

例によって、ネタバレをしないために一切の具体的な内容には触れず、あくまでも感想だけを抽象的に書くつもりでいる。
「何が」は省略して「どのように」読みにくかったかを述べれば、次のような事が原因だと思われる。

第一に、ストーリー的に短編

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「ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~」の感想

「ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~」の感想

なかなか毎日noteを書くというのは大変だ。
私は遅読な方だと思う。これまでの人生で読書の量はかなり多い方だと思うので、これには恐らく別の理由がある。
つまり地頭が悪いというヤツだろうか?(笑)これはちょっと認めたくない事実だ。
もう一つ考えられる理由として、映画を倍速で見たりできないという情緒的な問題を考えてみる。つまり読書のスピードを自分で決めているのだという説だ。

冒頭から脱線してしまった

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#真相をお話しします「#拡散希望」とこの本全体の感想

#真相をお話しします「#拡散希望」とこの本全体の感想

<以下ネタバレの危険性あり>三行空けます。

第五話「#拡散希望」の感想

この本の中で一番構造が複雑な短編。
章分けされているがその一章の中にも時系列の前後がある。何故こうも複雑に組み立てたのか作者の意図が今ひとつわからない。
ストーリー自体は構造ほど複雑ではなく、スッキリした内容なのだが、そもそもこれらが全て一人称の「僕」目線なので、全てがウソという可能性もある。
この本は五篇とも全て一人称小

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#真相をお話しします「三角奸計」の感想

#真相をお話しします「三角奸計」の感想

一応今回もネタバレ警告を出しておく。
<以下ネタバレの危険性あり>三行空けます。

第四話「三角奸計」の感想

設定が少し入り組んでいて、わかりにくい。
友人どうしのフザケ合いのやり取りはちょっと面白い。これらは直接ストーリーと関係がない所も多く、その中で貼られる伏線も多少強引な印象を受ける。
やはりミステリを読み慣れていると、あらゆる可能性を視野に入れてしまうため、作者の意図どうりにミスリードで

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