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[ショートショート:SF] 散華 - 歌う女 - #春弦サビ小説

小説のサビ部分。つまり盛り上がるところだけを抜き出して書く試みです。

唐突にいろいろ出てきますが、物語の前後を妄想しながら読んでいただければ幸いです。


散華 - 歌う女 -

 それは偶然の出会いだった。普段は踏まない回路の隅っこをなぞるように舐めるようにひとつずつ潰していった先に、その入口はあった。

 中を覗いてみると、そこはゼロとイチの配列からなる、二進法の世界だった。
 コンピュータに二進法が採用されていたのは、西暦2020年代までだ。

 旧世界の電脳領域…?

「かっちゃん、中、二進法だよ。どう思う? 入る?」

 ヘッドセット越しの相棒に意見を仰ぐ。

「入るでしょ」

 かっちゃんも僕と同意だった。

「もしかして、かっちゃん、ここ前人未踏?」

「…お前バカか? 人が作ったものだから前人未踏なわけないだろ? 」

「あ、そか」

「でも、軽く千年は誰も入ってなさそうだ」

 …千年…。それは生身の僕には途方もなく長い時間に思えた。

「よし、入ろう」

 目の前に

Equip Decoder

 と表示された。言わなくてもやってくれるかっちゃんがデコーダーを装備してくれたのだ。
 これで二進法の中にも入ることができる。

 ここで最後だ。
 僕は半ば確信していた。

 ここに “歌う女” はいる…。

 数列の隙間をすり抜けて未知の領域へと僕は足を踏み入れた。

 二進法の世界…そこは思ったよりも普通だった。

 何の変哲もない壁や天井に覆われた長い廊下がそこにあった。

 一番奥に扉が見えたのでそこまで進んだ。

 扉は固く閉ざされていた。

「ロックされてる」

 かっちゃんが言った。かっちゃんに開けられないのなら、誰にも開けられないだろう。

 僕はそっと扉に触れてみた。その瞬間にまたあのヴィジョンに襲われた。

 今度は今までのものよりずっと鮮明で長かった。

 まるで脳内をジャックされたように、僕の頭の中はヴィジョンでいっぱいになった。

 ピンク色の小さな花びらがヒラヒラ落ちてくる情景。
 その中にたたずむ “歌う女”。― 鳴り響く歌声。

《滲む影に君をみつけた》

 機械音のような、人の声のような、精神に作用してくるハーモニー。
 メロデイがはっきりと僕の耳に聞こえてきた。

 これまで幾度となくこの手をすり抜けて逃げて行った音が、今や僕の脳を破壊せんとばかりに鳴っている。

 たまらず僕は膝をついて、この強烈な幻像をやり過ごした。
 口を閉じることができず、よだれが垂れてしまった。

「おい、どうした? またあれか?」

 遠くの方でかっちゃんが心配そうに言っているのが聞こえた。
 だけれども僕は返事ができなった。

《DNA検出。…一致しました》

 鳴り響く和音の向こうで、機械的な女の声が聞こえて来た。

《始祖 NX-9862とYUTOの直系の子孫であることが確定されました。これからメタモルフォーゼに入ります》

 僕は遠のく意識の中でその名を確かに聞いた。

 …YUTO。旧世界で人工知能と禁断の恋に落ち、人類にAIのDNAを組み込んでしまった神の名だ…。

(つづくのか否か…)



▽ 読んだ後にぜひお聞きください。
このお話の元ネタです。

『散華 - SF Remix -』

作詞 : 歩行者b
作曲 : 大橋ちよ
編曲 : 見据茶(みすてぃ)・大橋ちよ
歌 : Sagittaria Trifolia Choir(UTAU音源コーラスチーム)・大橋ちよ

▽ダウンロードはこちらから
企画に趣旨にそったご利用をお願いします☆



こいごころ          恋心
てのひらに          手のひらに
にぎりしめ          握りしめ
あおぎみている        仰ぎ見ている
あふれるさくら        溢れる桜

はなびらは          花びらは
ぼくのてを          僕の手を
すりぬけて          すり抜けて
にじむかげに         滲む影に
きみをみつけた        君をみつけた

詩:歩行者bさん



あとがき的な

文字数微妙にオーバーしました。。

このお話は、歩行者bさんの詩を元に私が作曲した曲を元に書きました。

なんでSF…?? って感じになっていますが、このSF Remixができるまでの経緯を語らせてください。

まず、発端はこちらの歩行者bさんの詩です。

この詩に私が曲を付けました。

これを、見据茶(みすてぃ)さんがボカロのコーラスにアレンジしてくれました。

で、このアレンジを聞いていたら、舞い散る桜の下で歌っているAIが見えて来てしまって、、、

これをさらに私がSFリミックスした…というわけです。



歩行者bさん『散華』は他にもたくさんのバージョンがあります。
ぜひあわせてお楽しみください。

▽ PJさんバージョン

同じ詩から違う世界線が展開されています。
爪弾くギターもかっこよいのでぜひ聞いてください。


▽ つるさんアレンジ

やさしい…。そしてゴージャスなコーラスアレンジ。
私の曲のアレンジですが、こちらも全く違う世界線。


▽ まくらさん弾き語りバージョン

こちらはちょっと昭和な香もする流しのギター弾きバージョン。
私が書いた物語とは千年くらい時代の隔たりありで。



★『春弦サビ小説』は、『春とギター』で寄せられた詩や音楽から小説を書こうという企画です。募集要項はこちら。

フライングOKです。

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