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STORY

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「エッセイのように小説を書こう」想いを短い物語に。
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これまで無数にしてきた選択のうち、 「わたし」の本当の気持ちから選べたものはいくつあるだろう。

これまで無数にしてきた選択のうち、 「わたし」の本当の気持ちから選べたものはいくつあるだろう。

ここは大阪のとある街中の片隅。

街のなかにひっそりとけこんだ、カウンターだけの小さな喫茶店。

「喫茶カヌレとクマ」へようこそ。

前の店から譲り受けた古い木の扉を開ければ…

―――――カランカランカラン

いらっしゃーい。

わー!!久しぶりやんか元気にしてた?!

へえそうか、仕事の合間に寄ってくれたんやな。

好きなとこ座って座って~

はい、とりあえずお水。

なんにする?

アイスカ

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誰かを好きになるのはすごく素敵なことだけど、それよりも大切なこと。

誰かを好きになるのはすごく素敵なことだけど、それよりも大切なこと。

ラブソングをつくるのはあんまり得意じゃない。

「お母さんは、あんまりラブソング好きじゃないなー」

幼い頃に聞いた母の一言が頭に残っているからかもしれない。

この世界には恋愛への歌が溢れていて、あっちでもこっちでも、あらゆる言語で愛を囁く歌が聞こえてくる。

でも、自分のまだまだ短い人生を振り返ってみても、四六時中恋に熱中していた時期が無い。

もちろん人並みに恋愛はしてきたけれど、それ以外に

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本当は、冷たくてあまいのが好きな彼の話。

本当は、冷たくてあまいのが好きな彼の話。

「「「かんぱーい!!」」」

金曜日19時。
駅前のこじゃれたチェーン店居酒屋。

『…なにが、かんぱーい!だ。うざ』

そんな内心の毒はもちろん隠して、周りのノリに今日も合わせる。

ーーー

それなりの中堅どころに就職して5年。仕事はそこまで嫌いじゃない。でも、好きでもない。

こうして毎週のように開催される「飲み会」に内心うんざりするほどには、社会というやつに辟易している。

「…にが」

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喫茶「カヌレとクマ」②友達がなんだ。学校がなんだ。

ここは大阪府のとあるベッドタウンの片隅。

街のなかにひっそりとけこんだ、カウンターだけの小さな喫茶店。

「喫茶カヌレとクマ」へようこそ。

前の店から譲り受けた古い木の扉を開ければ…

―――――カランカランカラン

いらっしゃーーーい。

あ、あーちゃん。

よう来たよう来た。

待っとったで~。

はい、ランドセルこっちもらっとくわ。

どこ座る?

そこにする。

あーちゃんそこ好きやも

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喫茶「カヌレとクマ」10年たてば、笑い話。

喫茶「カヌレとクマ」10年たてば、笑い話。

ここは大阪府のとあるベッドタウンの片隅。

街のなかにひっそりとけこんだ、カウンターだけの小さな喫茶店。

「喫茶カヌレとクマ」へようこそ。

前の店から譲り受けた古い木の扉を開ければ…

―――――カランカランカラン

いらっしゃーい。

あらあ、久しぶりやんか元気にしてたん?

へえそうか、仕事の合間に寄ってくれたんやな。

好きなとこ座って座って~

はい、とりあえずお水。

なんにする?

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瞬き

瞬き

おやすみ、と言い合って眠れること。

朝が来て、おはようと目覚めること。

今日も無事に目が覚めたこと。

そのすべてが本当は奇跡のようなことなのに、いつの間にか忘れてしまうんだ。君と会えるのも、小さい君を抱けるのも。

本当は毎瞬それを忘れずにいたい。

どんな時も心の片隅に置いておきたい。

日常の中で生きていると、それをつい忘れてしまうんだ。君がいること、帰る家があること、毎日が繰り返される

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