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【Destination】第46話 恩義 


ルカの恩人ヒデキ

「生物学」「薬学」「心理学」に精通。この三分野のスペシャリストとして豊富な知識をもち、世界で最も権威ある賞「リーベル賞」を受賞。

それほどの高い学識がありながら、驕り高ぶった態度は一切なく、謙虚な姿勢を崩さない。

性格は温厚でほがらか。他人への思いやりと人間らしい心の温かみがあり、度量が大きく大人の余裕を感じさせる。

周囲への気配りを欠かさず、悩んでいる部下がいれば、話を聞いて真摯に向き合い気持ちを汲み取る。

人の長所を正確に見抜き、偏りのない客観的なアドバイスで自信とやる気をもたせ、部下の成長を促す。

相手の地位や立場によって対応を変えたりせず、年齢や性別などによる偏見をもたない。

若年者の意見も積極的に取り入れ、そのときの感情に左右されず、常に同じ基準で誠実に人と接する。相手をひとりの人間として尊重し、すべての部下を正当に評価。

また、責任感が強く「仲間のミスは自分の責任」ととらえて行動。他人との約束はどんなささいなものでも絶対に守り、自分で決めた約束事や目標も完遂。周囲からの信頼が厚く、多くの人から慕われている。

それは社外であっても変わることなく、困っている人がいれば放っておけず力を貸す。物事を打算的に考えるのではなく、自然と救いの手を差し伸べる。

弱い者を蔑む者がいれば、相手が目上の者であろうと、自分が不利益を被ろうと、まちがいはまちがいとして指摘。人間関係を損得で考えない。

想定外の出来事に直面しても、他人を責めたり責任転嫁はせず、前向きで笑顔を絶やさない。

あきらめたり投げ出したりもせず、難局に立ち向かい乗り越える精神的な強さももち合わせる。



ロシマの街に原爆が投下される直前、ルカはある重大な事件を起こしていた。

その罪の意識から狂い叫び、錯乱状態にあった彼女を救い、人として歩むべき道を教えたのは、ほかの誰でもないヒデキだった。

戦争によりほとんどの人間が良心を失い、良識など通用しない腐敗しきった弱肉強食の世界。

2年前にヒデキと別れ、その世界をひとりで生き、心身ともに疲弊しきっていたルカ。

大きな困難に直面した彼女は、ヒデキから受けた恩義を忘れ、村人に責任を擦りつけ、危機的状況から逃れようとし、人の道を踏み外しかけていた。

「信頼してくれる人を裏切る。それは人として絶対にしてはならない行為。どんなにつらくとも、それだけは許されない」。

そんなルカを引きとめたのは、ヒデキが教えてくれた言葉。彼の言葉を思い出したルカは、過去に受けた恩に報いるため、村を守るため、逆境のなか、ナオキと戦うことを選択。

是が非でもナオキをとどめたいルカは、挑戦的な目でナオキを睨みつけ、「自分が部下を倒した」と嘘偽りない真実を話す。

だが、それを聞いたナオキは「たったひとりの人間が、ましてや女ごときに男7人を倒すのは不可能」ルカの発言を戯言たわごとだと気にもとめず。

「事実を話す気がないのなら村人に吐かせる」とルカに告げ、ラハマの村へと歩き始めたナオキ。ルカはそれを必死に止めようとするが、相手にすらされない。

しかし、そのとき、目を覚ました輩のひとりが「オレたちはその女にやられた」と証言。

これが決め手となり、ナオキはルカを犯人とみなし、ヒュドラ軍に反逆を企てたとして処刑を決断。どこか呆れたような表情を浮かべながらルカと対峙。

ルカの思惑どおりの状況になったものの、相手はヒュドラ軍No.2、元プロボクサーで世界ランカーの実力者。やすやすと勝たせてくれる相手ではない。

体調不良で立っているのも困難なルカに逃走は不可能。戦う以外の選択肢は残されていないが、彼女に勝機は。



一方、ルカに怒鳴られ、マモルとともに逃走したサトシは落ち着きを取り戻し、肩を落としながら彼女の身に起きた異変、自分たちを追い払った理由について熟考していた。

「ビックリして逃げてきちゃったけど……、本当に大丈夫なのかな……、おねえちゃん……」

「あの苦しみ方は尋常じゃなかった。助けを求めて当然なのに、どうしてボクたちをつっぱねたんだろう。あんなに怒鳴ってまで……」

「感染するような重い病気……。それとも、人には言えない大きな理由が……」

「ボクはどうしてあげるべきだったんだ……。おねえちゃんは、なにを求めてたんだろう」

「やっぱり、このまま村に帰るのはまちがってる。人として……」

「マモルくん、悪いんだけど先に村へ帰ってて。ボクはおねえちゃんのところに戻る!」

「やめたほうがいいよ……。きっとまた『余計なお世話だ!』って怒鳴られる」

「………………」

「サトシくんも見たでしょ?おねえちゃんの目……」

「あれはどう見ても普通じゃなかった。デタラメな強さもそうだけどさ」

「なんだろう……、うまく言えないんだけど、あの人と目が合った瞬間、殺されるような気がした」

「確かにボクも感じたよ……。身の危険を感じた。でも、命を救われ……」

「それは『村のみんなと約束したから』、おねえちゃんがそう言ってたでしょ?」

「裏を返せば、『理由がなかったら、お前たちなんか助けなかった』ってことだよ」

「そんな……。どうしてそう言いきれるの……?」

「だって、お礼を言ったのに冷たくあしらわれたし笑顔もなかった。無事を喜んでくれてる様子もない」

「『仕方なく助けた』本当にそういう感じだった」

「もう考えるのはやめよう。これ以上あの人にかかわったら命はない。そんな気がする」

「ユリさんが戻ってきたらナンハンに行ける。そう信じて、おとなしく村で待とう。信じていいのかわからないけど」

「マモルくん!おねえちゃんは約束してくれたじゃないか!必ずヒュドラ軍をつぶすって!なんで信じられないんだよ!」

「じゃあ、聞くけど、サトシくんはどうしてあの人を信用できるの?あんな人形みたいに無表情で冷たい人をッ!」

「あの人はボクたちを怒鳴りつけた!心配して助けようとしたボクたちをッ!人の厚意を踏みにじったんだ!頭がおかしいと思わない?」

「それでもおねえちゃんを信じる理由はなに?教えてよ!サトシくんは、どうしてあんな人を信じようとするの?放っておけばいいじゃないか!」

「どうしてって……」

「どうしてだろう……」

「村で待っていれば安全、助けに行ったら殺されるかもしれない……。なのに、どうしてボクは助けに行こうとしてるんだろう……」

「助けたい理由……。わからない……。はっきりとした答えが見つからない」







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