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電話で長々と呼びだす人

 スマホ(固定電話もそうだが)で電話をかけるとき、浮世の善人たちはどのくらいの時間呼びだし続けるのだろう。ときどきそう思うことがある。

 固定電話の場合は、相手が電話のある部屋にいなかったり、趣味や仕事で手がふさがっていたりすることもあるうえ、電話の場所まで移動する時間も必要になる。
 しかし、スマホなど携帯電話の場合は、手がふさがっている場合があるのは固定電話と同じだが、電話の場所はたいてい〝自分といっしょ〟だ。もちろん、自室や車内に置きっぱなしだったりすることはある。ただ、基本的には〝自分で携帯している〟と考えていい。

 拙作「どうしてもしゃべりたい人たち」に登場した広告代理店営業係のA氏は、呼びだし時間が長い部類ではないかと私は思っている。私の事務所を訪れたA氏はしばしば電話をした。時間をはかったことはないが、思いおこすと、たぶん1分間くらいは呼び続けていたように思う。
 実際、私にかかってきたときも長かった。何か作業をしているときなどは中断して手を洗ったりし、間に合うかな、切れちゃうかな、なんて思いながら電話に出るが、切れもしないで間に合う。つまり、長く呼んでいるのだ。

 A氏はけっこう長々(相手が出るまでという感じ)と呼んでいる。私は心のなかで〝相手は出られない状況なんだろうな〟とか〝呼び出し音が聞こえないんだろうな〟などと想像し、もうあきらめて切ればいいのになんて思ったものだ。
 1分間呼び続けるのは長いのか、それとも普通なのか。A氏は自分の話し好きを自慢するくらいおしゃべりが好きなのだが、そういう性格が関係あるのだろうか、などとも思ったりする。

 そういう私はどうかというと、A氏とは反対に短い。たいていの場合15秒以内だ。〝このくらい呼んで出ないということは、運転とか作業とか、何かしている最中なんだろうな〟などと想像し、気を回して切ってしまうのだ。
 これにはひとつエピソードがある。拙作「『都会的で上品な味』の意味」に登場するA子ちゃんとB夫くんが再登場だ。

 私はあるとき、A子ちゃんにこう言われた。
「このあいだB夫くんがさあ、『凡筆堂はおれが電話に出ようとするんだけど、切っちゃうんだよな。電話代を浮かせるために、おれが折り返しかけるように仕組んでるんだろうか』って言ってたよ」
 私は驚いた。そんなことあり得ない。その一方、15秒以内で切ってしまえばそう取られてもしかたがないか、とも思う。
 ただし、私はB夫くんとは仲もいいしお互いに信頼し合っている。だからB夫くんがA子ちゃんに冗談で言ったことを、A子ちゃんがストレートに受けとめたのだろうと推測した(まさにその通りだった)。

 いったい、呼び出し時間はどのくらいが一般的なのだろう。いや、そもそもそんなものに一般的も何もないだろうとは思うけど。





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