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何のため? トースターが高性能なマイコンを積んでいる理由|Deep Dive into BALMUDA

マガジン「Deep Dive into BALMUDA」では、これまでに発表した製品のテクノロジーやエンジニアリング、デザインについてご紹介します。第1弾は2015年の発表以来、国内外の販売台数が150万台を超え、多くの方にご愛用いただいているスチームトースター「BALMUDA The Toaster」の話です。

BALMUDA The Toaster

朝、食べるパンがもっとおいしくなったら毎日が、そして人生がより素晴らしいものになる──そんな感動を届けようとはじまったこの企画は、パンが焼き上がるしくみを1から研究し、感動のトースター体験を生み出しました。製品の開発ストーリーは、当社の公式ウェブサイトでご覧いただけます。本記事ではそこでは触れていない、おいしさの再現におけるエンジニアリングの工程や、体験価値をより向上させるために徹底してこだわった細部についてご紹介します。


結果的にハイテクに

BALMUDA The Toasterは、クラシカルな見た目からは想像つかないほど高性能なマイコンを積んでいます。マイコンを使ったトースターをつくろうとしたわけではなく、体験価値を追求したエンジニアリングの結果、マイコンが必要になりました。

バルミューダのトースターといえば、スチーム機能。水を入れることでパンの種類に応じ、最適な焼き上がりを実現します。

付属の5ccカップで本体上部の給水口へ水を注ぐ

使い方は、パンをセットして水を5cc入れ、モードを選ぶだけ。操作としてはシンプルですが、中では庫内の温度を常に測り、上下ヒーターの温度調整と、その切り替えタイミングを緻密に計算して行うなど、慌ただしくやっています。

各モード(時計回りにトースト、チーズトースト、フランスパン、クロワッサン)

庫内の温度調整は、モードごとに異なるのはもちろん、季節(外温)によってもパターンが変わります。その複雑な設定値をマイコンのメモリーに書き込んでおき、モード選択時に読み込む仕様になっています。

BALMUDA The Toasterの基板

体験のエンジニア

設定値はどのように決めて、チップに書き込んでいるのでしょう。作業を担うのは、社内のソフトウェア設計チーム。リーダーの御代出裕之みよでひろゆきは、2018年に入社。トースターのソフトウェアの担当となり、最初の仕事が海外モデルの開発でした。

体験を具現化するエクスペリエンスエンジニア、御代出(2018年10月入社)

ソフトウェア開発ひと筋の御代出は、家電メーカーのバルミューダと縁がないと思っていたそうですが、前職からの転職活動時に専門とする職を当たっていたら、バルミューダがその分野に求人を出していたので「おや?」と思いつつ応募したのがきっかけで入社に至りました。

アナログなアプローチ

トースター庫内の温度は、上下のヒーターをそれぞれ10秒間のうち何パーセントつけるかといった設定値で制御しています。実機での検証は焼き上がったパンの見た目や感触、食感で値を調整していく作業なので、非常にアナログ的なエンジニアリングといえます。それをデジタルのパラメーターに落とし込んでいくのですが、最初のインプットは「紙にメモ」。その枚数は5000枚を超えています。

トースター開発時の資料の一部。右上がパラメーターを記したメモの束で、その厚みは10センチを超える
当時の記録より。上下ヒーターの温度やスチームのタイミングをパンの種類ごとに細かく制御し、焼き方を変えている(実際の温度制御とは異なる)

「マイコンは2000年前半の携帯電話くらいの処理性能があります。専用ソフトウェアを用い、パソコン経由でメモリー領域に設定値を書き込んで、それに従って動く実機でパンを焼く。焼き上がりを見て、また値を修正する。この繰り返しで調整していき、最終的な値をファームウェアと呼ばれるファイルに落とし込んで工場へ納品するのがチームの仕事です」(御代出)

トースターに搭載しているものと同型のマイコン

海外で異なるファームウェア

バルミューダの製品は海外でも販売していますが、ファームウェアは日本と同じではありません。国ごとに電圧が異なるため、それに応じた調整が必要になるからです。トースターの場合、地域によって異なる室温・湿度も焼き上がりに影響してきます。また、法規に従った変更もあります。たとえば海外仕様のトースターは、ヒーターをガードが覆っています。さらにガラス窓の最高温度に、日本とは異なる上限が定められています。海外展開する際は、これらの変更すべてを考慮したソフトウェアの再調整が必要となります。

トースター庫内の写真。海外仕様(上)は、ヒーターにガードがある

「調達やコストなど、さまざまな要因で部材が変更になることもありますが、ある地域で庫内の部品の仕入れ先を変えたら、焼き上がりが微妙に変わってしまったことがありました。我々のチームは、いかなる事情でも体験品質を維持するのが役割なので、些細な変化に気を張っています」(御代出)


なお、トースターの北米モデルに関しては、パンのモードそのものを変更しています。よってパラメーターの割り出しも、すべてやり直しています。

北米向けには現地のパンに合わせたモードと温度帯を設けた

日本やほかの地域で売っているトースターのモードは、トーストモードチーズトーストモードフランスパンモードクロワッサンモードの4つ。それが北米仕様では、サンドイッチブレッドモードアルチザンブレッドモードピザモードペイストリーモードとなっています。

北米モデルの天板に書かれた説明

モードの違いは、おもにマーケティング的な理由ですが、それ以外は法規に従ったものや、調達の都合などで生じた変更です。

ひとつの家電を海外で販売するには、電源や言語・UIのローカライズだけでなく、たくさんの「やるべきこと」があります。次回以降では、北米モデルのパン焼きモードをどのようにして詰めていったのか、異国の地でどのようにしてトースターを売り込んだかなどについてご紹介します。