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独自の抽出法が特許を取得。コーヒーメーカーで追求した体験価値|Deep Dive into BALMUDA

2021年に発売したコーヒーメーカー、BALMUDA The Brewは、コーヒー豆の個性をしっかりと味わえるバルミューダ独自の抽出法を採用しています。「クリア ブリューイング メソッド」と名付けたこの抽出法に用いた技術の一部は、2023年6月に特許を取得しました。

今回のDeep Dive into BALMUDAでは、コーヒーメーカーの企画の立ち上がり、クリア ブリューイング メソッドを編み出し、製品が完成するまでの道のりをスタッフの声を交えて紹介します。

ちなみに10月1日は、ブラジルの収穫・出荷のサイクルに合わせて制定された「コーヒーの日」。新たなお気に入りの一杯と巡り会う機会を、ぜひ、BALMUDA The Brewで

コーヒーメーカーの開発が佳境に迫りつつあった2019年当時、商品設計部でプロジェクトリーダーを務めていたのが岡山篤おかやまあつし、それ以前から研究開発室で同企画に携わっていたのが高荷隆文たかにたかふみでした。

現在はエンジニアリング本部、プロジェクトマネジメント部で部長を務める岡山(左)とマーケティング本部、プロダクトマーケティング部で海外戦略やリサーチ業務を担当する高荷(右)

コンセプトはストロング&クリア

バルミューダがコーヒーメーカーをつくるという構想は、トースターでキッチン家電に参入したのと、ほぼ同じタイミングからありました。

「元々、パンとコーヒーをセットでやりたいという会社の意志があり、2015年のロードマップではコーヒーメーカーがトースターに続くキッチンシリーズ第2弾となる予定でした。トースター同様、コンビニやスーパーで売っている身近な豆でも、感動するほどおいしく淹れられるというのが目的で、それを実現するための製品コンセプトは“ストロング&クリア”でした」(高荷)

前職はソフトウェアサービス会社の日本法人でマーケティング業務に携わっていた高荷。手で触れられる製品、五感で感じられる製品を世に出したいと願い、2015年にバルミューダに入社

コンセプト実現のため、蒸気の力で豆をプレスする抽出法を考案し、試作機をつくりましたが、技術的な壁に当たって企画は止まってしまいます。数年後、再び検討する機会もありましたが、結局、商品化の目処の立たぬまま企画は保留になっていました。

「そんな状況の中、2017年にコーヒー好きでバリスタの資格も持つ人物の入社がブレイクスルーとなりました。コーヒーの味・抽出法を熟知した彼の参加により、三度みたび企画が動き出したのです。従来とは異なる考えを軸に進め、これがゴールへたどり着くことになるのですが、コーヒーメーカーが日の目を見るまで実に6年以上かかったことになります。もちろん社長を含め、誰もここまで時間がかかるとは思っていませんでした」(高荷)

保留(事実上、中止)となっていた企画を再始動するきっかけとなった“異なる考え”──それは、新たな抽出法でした。

「超音波やマイクロ波電磁波など、実にいろいろなものを試しましたが、最終的に“緻密な温度制御”と“正確なドリップ”、“バイパス注湯”の3つを組み合わせた、のちに“クリア ブリューイング メソッド”と名が付く抽出法を考えました。これこそ、目指したストロング&クリアな味わいを再現できる組み合わせだったのです」(高荷)

Clear Brewing Methodクリア ブリューイング メソッド

クリア ブリューイング メソッドの構成要素、“緻密な温度制御”、“正確なドリップ”、“バイパス注湯”を順に説明します。

緻密な温度制御

注湯温度の調整をソフトウェア制御で行うテクノロジーです。蒸らし・抽出・仕上げと、過程ごとに最適な温度のお湯を瞬間的に沸かします。

「難しかったのは流量の制御です。温度制御は慣れていたのですが、流量とのコンビネーションは初めてだったので。同じ水量でもタイミングやノズルとの位置関係が重力に影響し、流れが変わってきます。また、温度によって水の粘度が変わり、これも流れに影響します。温めながらお湯を送り出し、ヒーター内で沸騰しないように調整するのは大変でした」(岡山)

以前は生活用品メーカーで扇風機を開発していた岡山(2014年入社)。ある日、GreenFanを分解し、そのつくり込みに驚いたのが、のちに入社するきっかけになったという

0.2㎖単位の正確なドリップ

蒸らしの時間や注湯の量・速度をセンサーで観測し、的確な間隔で適量の湯を落とします。その0.2㎖単位の丁寧なドリップが、コーヒーの豊かな香りや味わいを凝縮させます。

0.2㎖単位で抽出できるノズル

「ノズルは、いろいろな形状のものをつくって試しました。お湯が飛び散らないといった安全性と、熱や経年に対する十分な耐久性を確保した上で、量産が行えなくてはなりません。自動でお湯を排出する器具をつくり、3ヵ月ほどテストに明け暮れました」(岡山)

検討したノズルの一部

バイパス注湯で実現するクリアな後味

抽出時間の経過に伴って、豆から溶出する雑味成分。そのタイミングを見計らってドリッパーへの注湯を止め、ドリップ時とは異なる注湯口から仕上げの加水を行います。この“バイパス注湯”が雑味の混入を防ぎ、ストロング&クリアな味わいを完成させます。

仕上げの加水を第2の抽出口から行う“バイパス注湯”

「“良い”とされる抽出成分を前半で出し切り、後半の苦味が出る前に抽出を切り上げて、お湯を足す──あらゆる抽出を試した結果、この方法にたどり着きました。業務用のアメリカーノは、これに近い手法で淹れていますが、仕組みを科学目線で追求し、家庭用として仕上げたのはBALMUDA The Brewが初となります」(高荷)

特許第7292758号

BALMUDA The Brewの抽出の仕組みは、その独自性が認められ、“コーヒー飲料製造装置及びコーヒー飲料製造プログラムに関する特許”を取得します。

「具体的にはクリア ブリューイング メソッドにおける、“温度を徐々に下げたのち、異なる場所から加水する”という工程と、それをコントロールする装置の組み合わせで特許を取得しています。申請から4年かかりました。素直に、とてもうれしいです」(高荷)

装置の調整に活躍したスケルトンの試作機が残っている

グッドデザイン賞を受賞

デザインは、原理試作を用いてデザインチームに仕組みを伝え、ひとり十数案持ち込んでの社内コンペが行われることになりました。

「オープンドリップ式はデザイン上の縛りが少なく、上がってきたデザインも多様でした。最終的に採用されたデザインに含まれる金属管は、業務用のエスプレッソマシンをイメージしたと聞いています」(高荷)

「金属感があるデザインで、メッキを多用するためコスト調整に気を使いました。この製品は味とデザインがコアバリューですが、熱を扱うので安全性の確立もマストです。結果的に一切の妥協をせずに、これらを両立できたと思っています」(岡山)

横からのシルエットが特にお気に入りと岡山。美術館に置いてほしいと願っているという

BALMUDA The Brewは2022年にグッドデザイン賞も受賞しています。現在、日本のほかに北米、韓国、中国でも販売が開始され、バルミューダ独自の味わいを世界へお届けしています。

「発売直後から国内外で話題になりました。とくにアジア最大のコーヒーイベント、SCAJ2021に出展したのがきっかけで、一般のお客様だけでなくバリスタやカフェオーナーの方の間でも評判になりました。コーヒーのプロフェッショナルから評価していただけるのは、とても光栄です」(高荷)

プロが認めるコーヒーメーカーに

スペシャルティコーヒー専門店、REC COFFEEでは毎朝、豆の状態をチェックするのにBALMUDA The Brewを使用しています。理由は、抽出したコーヒーの味にバラツキがないため、人が淹れるよりも豆の状態をチェックするのに最適だからといいます。同社の共同代表、岩瀬氏・北添氏にコーヒーに対するこだわりを伺った記事をnoteで公開しています。

スターバックス特別モデルは味が違う

BALMUDA The Brewには、スターバックスの世界観を凝縮したSTARBUCKS RESERVE®特別モデルもあります。バルミューダの開発者とスターバックスのコーヒースペシャリストが幾度となく味の調整を重ね、STARBUCKS RESERVE®専用の抽出モードを編み出して搭載しました。スターバックスの味を自宅で忠実に抽出できる、唯一のコーヒーメーカーです。

目をひく鮮やかなカッパーとダーククロームが特徴のBALMUDA The Brew STARBUCKS RESERVE LIMITED EDITION

「鮮やかなカッパーが目を惹きますが、メッキの部分もブラックにするなど細部までこだわりました。抽出のチューニングがオリジナルと違うので、機会があったらぜひ、飲み比べをしてみてほしいです」(岡山)

開発を終えて…

BALMUDA The Brewの開発を終えた2人に、個人的な感想を伺いました。

「これまでいくつも商品をつくってきましたが、個人的には一番いい仕上がりだと思っています。一切妥協することなく、完璧なものができたという達成感があります。ただ、コーヒーは飲み過ぎましたね(笑)」(岡山)

「人生で初めて、自ら企画したものが商品化されたので感激しました。購入いただいた方の声やレビューなどにも注目していましたが、ハンドドリップ対決でアルゴリズムと正確性を評価していただいたのを見た時は、みんなでよろこびましたね。ただ、私もコーヒーの過剰摂取になりました(笑)。しばらくの間、なるべくお茶を飲むようにしていました」(高荷)

マガジン「Deep Dive into BALMUDA」では、普段あまり語ることのない開発現場のディープな情報を、スタッフの声を交えて紹介します。