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あちらのお客さまからです

バーで飲んでいると、
注文していないカクテルを
バーテンダーが差し出す。
「え、私、注文していな…」
顔を上げて言おうとすると
「あちらのお客さまからです」
とバーテンダーが訳知り顔で微笑む。
あちら、と言われた方向を見ると、
いかにもモテそうな若い男性が片手を挙げて、
人当りのよさそうな笑顔で合図をしている。
私もカクテルグラスを持ち上げ、
お礼を込めた乾杯を気取る。

…なんてドラマみたいなこと、
実際の生活で起こるのかね?
と思っていた20代前半。
でも起こったんだよね、20代中頃に、
留学先のフランスで。
そうだね、日本じゃないならあり得るか。
場所はバーではなくブラッスリーで、
「あちらのお客さまからです」
とロゼワインをボトルで持って来てくれたのは、
バーテンダーではなくウェイターさんで、
“あちらのお客さま”は、
いかにもモテそうな若い男性ではなく、
40代くらいのイケオジさんだったし、
私は1人で飲んでいたわけではなく、
日本から遊びに来てくれていた友人2人と、
妹と夕食を食べていたので、
日本人女性4人だったのだけど。

外国で気が大きくなっていたのもあり、
私はワイングラスにロゼワインをついでもらい、
映画みたいにワイングラスを上げて、
イケオジさんにお礼の乾杯をしてみせたが、妹は
「やめなよ、飲むの!」
と賢い女子を演じていた。
「なんで~?」
と酔っ払いになりかけていたバカ丸出しの姉は、
もうグラスに口をつけている。
「だってワインは開いた状態で持って来たんだし、
 何が入ってるかわからないよ! 
   睡眠薬が入っているかも」
妹は真剣な顔で制したが、バカ姉は
「だ~いじょうぶだよ、
 せっかくご馳走してくれたんだし飲もう飲もう」
と、もうグラス半分くらいを空けている…。
といった具合で、友人たちもつられて飲み始める。
しかし妹は3人が眠ってしまったら
自分が面倒を見るつもりで、
断固としてロゼワインには口をつけなかった。

気を大きくしたバカ姉は
イケオジさんがテーブルに来て話し始めたら、
「私、プリンが大好きで…」
なんて、デザートまでねだるつもりか、
アホ丸出しで笑いながら話している。
そして固めで、苦めのカラメルソースがかかった
フランスのプリンが4つ運ばれて来た。
「ありがとうございます!」
すっかり酔っぱらった姉は、
プリンもつるっと平らげた。
そして妹はというと…
あまいものの誘惑には勝てないのだった。
「目の前でつくられたわけじゃないんだし、
 何が入ってるかわからないよぉ~」
なんて酔っ払いの姉に言われても、
無言で咳払いをして、プリンは平らげていた。
やっぱり若い女の子だねぇ。

しかし平和な時代だったし、
運もよかったから大丈夫だったけれど、
今考えるとちょっと軽率だったね、と反省。
外国でハメを外してはいけないね。
それ以来私は真面目に生きている。
…んなわけないか。

最後までお読みいただき、
ありがとうございました。
こちら、もちろんフィクションで…はありません。
遠い昔の実話でございます。
気分を害された方、失礼致しました。
若気の至りということで許してください。
あれからすっかり心を入れ替え、
今、無事に生きていることを感謝しています。

ちなみにイケオジさんとは
もちろん何もありませんでしたよ。
仲間と来ていた気のいいおじさまで、
日本の女の子と話してみたかっただけみたい。
ご馳走になってお礼を言って、
明るく別れました。
ホント、すみませんでした
(誰に何を謝っている?)…。

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