『清史稿』明瑞伝②

【原文】
三十年二月、烏什回為乱。駐烏什副都統素誠自戕。乱回推小伯克頼黒木図拉為渠、拒守。明瑞遣副都統観音保往討。而帥師継其後。烏什回二千余出御、明瑞与観音保力戦破之。奪砲台七。賊入城、師合囲。明瑞疎陳素誠狂縦激変、及参賛納世通虐回民、阻援師。副都統弁塔哈掩敗妄奏諸状。上令尚書阿桂至軍、按誅納世通・弁塔哈。賊夜襲我軍、我軍詗知之、預為
備。射頼黒木図拉殪、賊擁其父額色木図拉為渠。明瑞以兵六百余夜携雲梯薄其城。不克。則毀其堞、且断汲道。賊待阿富汗援不至。乃縛献額色木図拉等四十二人降。明瑞悉斬之、其脅従及婦稚万余送伊犁。烏什平。上以明瑞得渠魁、未詳鞫為乱状、乱回至囲急始縛献首悪、不可軽宥。所措置皆不当、与阿桂同下部議、奪職、命留任。旋条上善後事、如所請。
【語釈】
・烏什 庁名。清代に置かれた。(大漢和)
・回 回族。(漢辞海)
・素誠 瓜爾佳氏(グワルギャ氏)。満州正黄旗。(?~1765)(人名権威) 
・自戕(ジショウ)自殺する。(漢辞海)
・小伯克 小ベグ。 
・頼黒木図拉 人名。
・渠 渠魁。
・狂縦 き〇がいじみてほしいまま。(大漢和)
・疎陳 まばらに陣をしく。(漢辞海)とあるが、ここでは陳情する意にとった。
・納世通 覚羅氏。満洲鑲藍旗。(1706~1765)(人名権威)
・弁塔哈 卞塔海とも。満州正黄旗。(?~1765)(人名権威)
・阿桂 字は広廷。満州正白旗。(1717~1797)(人名権威)
・詗 うかがう。偵察する。(漢辞海)
・額色木図拉 人名。
・堞 城壁上の歯状の低いかき。ひめがき。(漢辞海)
・汲道 水をくむため引き込んだ溝。用水路。(漢辞海)
・阿富汗 アフガン。
・縛献 捕縛して献上する。
・脅従 脅かされて、付き従う人。(漢辞海)
・渠魁 悪者の親玉。盗賊などの首領。(漢辞海)
・詳鞫 詳しく調べる。 
・不可軽宥 宥する軽んずべからずと訓読した。
・旋 ついで。(漢辞海) 
【書き下し】
三十年二月、烏什の回乱を為す。烏什に駐する副都統素誠自戕す。乱の回小伯克頼黒木図拉を推して渠と為し、拒みて守る。明瑞副都統観音保を遣わし往きて討たしめんとす。しかも帥師其の後を継ぐ。烏什の回二千余出御し、明瑞と観音保力戦し之を破る。砲台七を奪う。賊入城し、師合い囲む。明瑞素誠の狂縦激変し、及び参賛納世通の回民を虐するを疎陳し、援師を阻む。副都統弁塔哈敗を掩し妄に諸状を奏す。上尚書阿桂をして軍に至らしめ、按じて納世通・弁塔哈を誅す。賊我が軍を夜襲せんとするも、我が軍之を詗知し、預め備を為す。頼黒木図拉を射して殪すも、賊其の父額色木図拉を擁し渠と為す。明瑞兵六百余を以て夜雲梯を携し其の城に薄す。克たず。則ち其の堞を毀し、且つ汲道を断つ。賊阿富汗の援待つも至らず。乃ち額色木図拉等四十二人を縛献し降る。明瑞悉く之を斬り、其の脅従及び婦稚万余を伊犁に送る。烏什平らぐ。上明瑞の渠魁を得るも、未だ乱を為すの状を詳鞫せず、乱の回至り囲みて急に首悪を縛献し始むを以て、宥する軽んずべからずを以て、措置する所皆不当なりて、阿桂と同下部に議せしめ、職を奪い、命じて留任させしむ。旋いで上の後事を善くするを条し、請う所の如くす。
【現代語訳】
三十年二月、烏什の回族が反乱を起こした。烏什に駐在していた副都統の素誠は自殺した。反乱を起こした回賊は小ベグの頼黒木図拉を推戴して反乱の首領とし、清軍を拒んで守った。明瑞は副都統の観音保を派遣し討伐させようとした。さらに軍団が観音保の後に続いた。烏什の回族は二千余り出撃し、明瑞と観音保は力戦しこれを破った。砲台七台を奪った。賊は城にこもり、我が軍は城を包囲した。明瑞は素誠が発狂したことと、参賛大臣の納世通が回族の民を虐待していたことを乾隆帝に述べ、援軍を拒否した。副都統の弁塔哈は敗戦を隠し妄りに戦況を奏上した。乾隆帝は尚書の阿桂を軍に派遣し、罪状を調べ納世通・弁塔哈を誅罰した。賊は我が軍を夜襲しようとしたが、我が軍はこのことを察知し、あらかじめ夜襲に備えていた。頼黒木図拉を射殺したが、賊はその父の額色木図拉を擁立し首領とした。明瑞は六百余りの兵を率いて夜に梯子を用意し敵の城に迫ったが敗北した。そこで城のひめがきを壊し、なおかつ用水路を遮断した。賊はアフガニスタンからの援軍を待ったが到着しなかった。そこで額色木図拉ら四十二人を捕縛して献上し投降した。明瑞はことごとくかられらの首を斬り、脅かされて従った者や婦女子一万人余りを伊犁に送った。烏什の乱はこうして平定された。乾隆帝は明瑞が敵の首領を捕縛したが、反乱を起こした理由を詳しく調べようとせず、反乱を起こした回族を包囲したところ賊は首領を捕縛して献上してきたのに、宥和しなかったことは不当なであるとして、阿桂と同下部に議論させ、明瑞の職を奪い、留任を命じた。ついで、皇帝が反乱の後始末をうまく行ったことを列挙し、阿桂らが要請したように罰した。

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